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7.ストーカー、改め努力家?


「レイラちゃん、一緒にお昼でも食べようか」


「おや偶然だねレイラちゃん」


「この天才のボクが特殊な魔法教えてあげようかレイラちゃん」


「レーイラちゃん」




◇◇◇




「んもぉぉ!! なんなのあのノアって先輩は!! 偶然だねって私の教室前にいりゃぁそりゃ会うでしょうよ!」

「ねーちゃん声大きい」

「だって!!」


 溜まったうっぷんを晴らすように叫んだレイラは、アーサーに窘められて大きくため息をついた。

 そう、昨日初対面を果たしてから、何度も何度もレイラに絡んできた天才魔法使い一族のノア。上級生だから別の階なのに、休み時間のたびにレイラに会いに来ているのだ。

 王子であるジェームズが少し苦言を呈したが、飄々としたノアには全く効いていないようだった。「学園内では身分の差を気にせず皆平等に仲良くするものですよ、王子?」と悪びれもなく言い切ったノアには、その場が凍り付いて周りが冷や冷やしたものである。


 ようやく放課後になり、アーサーを連れて自室に戻ったレイラはやっと気が抜けたのであった。


「確かに、確かによ? 昨日私がくるり挨拶をかましてしまって、おまけにサクラまで続いちゃったインパクトのある出会いを演出してしまったのは確かよ? だからってああも私に付きまとう理由が分からないわ!」


 レイラの言葉に、アーサーもソファに座り込んで唸った。


「……ノアルートの場合、元々『魔法を教えてほしいな』と言ったヒロインに魔法を教える中で、天才自称しているノアに『すっごく努力してるのね、かっこいいわ』と告げることで好感度が急激に上がるって感じだったはず……」

「ふーん。でもなんでサクラじゃなくて私に魔法教えるって言ってくるんだろ」


 首を傾げたレイラの頭を、アーサーがグワシッと掴んだ。


「ねーちゃんはバカなのか? ねーちゃんがノアの役目奪って魔法使ったりするから? サクラが魔法を教えてってノアに言う機会も、ノアがサクラに興味を持つ機会もなくなったんだけど?」

「そ、ソウデシタ~……」


 たはは、と笑ったレイラに、アーサーはため息をついて手を離した。

 そして、厳しい目つきでレイラの顔を指さす。


「いいか、万が一にでも! ノアに「努力してるのね~ん!」なんて言っちゃだめだぞ! ヒロインよろしくねーちゃんがノアルートに入っちまうからな! いや仮にも王子の婚約者がそんなことにはならねーだろうけど!」

「わ、わかった(のね~んて……)」


 微妙にオネエ言葉だったのが気になったレイラだが、言葉には出さずコクコクと頷いた。


「でもあーくん、万が一サクラがジェームズやローガン、ノアに恋しなかったらどうするの?」

「いやまだほかにキャラ居るから。ノート読んでみ」


 レイラは、ハッとして胸元をさぐり例のノートを取り出した。


「……まだそこに入れてんの」

「え? そうよ、だって誰かに見られたら困るじゃない」

「貧乳でよかったな」

「え?」

「貧乳でよかっ……」

「え???」

「ひん……」

「え??????」

「スミマセン……」


 いつも笑っている姉が真顔で「え?」を繰り返してきたので、今後一切貧乳ネタはからかわないでおこうと誓うアーサーであった。


「んで、攻略キャラだっけ。えっと……」


 ──オリバー・スチュワート。

 ヒロインのいとこ。父方の弟夫婦の、妾の子。

 家庭内でもいじめられてきたため、心を閉ざしている。ヒロインが養子としてひきとられた後、密かに同じように家庭内で孤立しているヒロインを心配していた。好感度が上がると甘えキャラになる。


「へぇ……サクラのイトコかぁ。妾の子……なぁんかほんとお貴族サマ社会ってやだねー。早く追放されたーい」

「ねーちゃんがどんどん追放ルート狭めてってるけどな」

「それは言わないで頑張る」


 レイラはそう言いながら、ページをめくる。


 ──ハリー・シモンズ。

 学園の保険医。流し目泣きボクロエロス野郎。低音ボイス、白衣のコンボ野郎。

 女好きで、女子生徒を保健室に連れ込んでにゃんにゃんしているという噂も。

 いじめによって怪我したヒロインが保健室にきて、それでも他の令嬢を恨まない優しい心に興味を持つ。難易度が高い。


「ええ……保険医が女子生徒連れ込むってこれ、いいの?」

「まぁゲームだしな……俺もこのキャラはあんま好きじゃなかった。低音ボイスだし」

「あぁ、あーくん声高めなのがコンプレックスだもんね」

「え?」

「だから、あーくんの声、男子にしては高いめなのが……」

「え???」

「声がたか……」

「え??????」

「スミマセン……」


 先ほどと同じような逆のやりとりをしたあと、レイラは次のページに目を止める。


「ねえねえあーくん、これ何?」


 『隠しキャラ』(?)とだけ書かれたページ。


「あぁ、一応こういうゲームって隠しキャラっつーか、ある条件下でのみ出てくるルートがあんだよ。俺、そこまでこのゲームやりこんでなかったからさぁ、そのルート見つけられなかったってわけ」

「へー。ってことは、どんなキャラが出てくるか分かんないんだ」

「まあ気にしなくていいだろ。どうせどのキャラにいってもレイラ・マンチェスターは国外追放。あぁ、ちなみにサクラが卒業までにどのキャラも選ばなくて皆仲良しハーレムルートになっても、ねーちゃんは国外追放だから安心して」

「安心する!」

「まぁそれには、サクラをいじめて悪さをしてるっつー大義名分がいるから、やるならそろそろちゃんとやらねーと」

「そうだよね……」


 レイラはグッと拳を握った。


「サクラには可哀想だけど……私、頑張るよ!」

「おー」


 若干期待してなさそうなアーサーの声が続いた。



・・・


「とは言ったものの……」


 次の日、レイラは肩を落としながら廊下を歩いていた。


(私いじめしたことないから、何したらいいか分かんないのよね……いじめ初心者だし、難易度の低いいじめからしていこうかしら)


 そう考えていると、ちらりと廊下の窓に目をやると、遠くに見える裏庭で何かが動いた。


「……何かしら」


 まさか、サクラをいじめてるその他御令嬢……!?

 ま、混ざらなきゃ!


 レイラは大慌てで裏庭へと向かった。




「…………まぁ」


 建物の影からこっそり覗いた裏庭にいたのは、想像していた人物ではなかった。


(……ノア先輩、こんなところで何を)


 そう、ノアが一人でひとけのない裏庭に佇んでいる。

 一体何をしているのだろうとそのまま覗いていると、ノアは何やら本を取り出し、呪文を唱えていた。ぼんやりとした光が浮かんで消え、また呪文を唱え、そしてまた光が浮かんで消え。

 何度も繰り返している。


(……魔法の練習?)


 レイラは、ハッと思い出した。

 天才一族の息子のノア。陰ながら努力しており、それがヒロインに見抜かれて恋に落ちると。


「ふふ、なによ。努力して魔法覚えてるなんて、カッコイイことほんとにしてるじゃない……って」


(口に出しちゃったーーー!!!)


 慌ててノアのほうを見たが、どうやら気づかれていない様子。

 魔法の練習を続けていた。


(ふぅ、よかった……! とりあえずキャラとはあまり関わらないようにしなきゃね! 退散退散!)


 レイラはそそくさと校舎へ戻っていった。




「…………」


 レイラが走り去った音を聞いて、手に持っていた本をぱたんと閉じたノア。

 その耳は、少し赤くなっていた。


「……努力してるわけじゃ、ないし」


 小さくノアが呟く。

 しかし、また別の気配がしてハッと顔を上げた。

 ゆらりとタバコの煙がこちらに吹かれる。


「おうおぉぅ、ありゃぁ天下の殿下、ジェームズ王子の婚約者様じゃぁねぇか。やめとけやめとけぇ」

「……保険医が保健室にいないでこんなところでサボりなんて、感心しませんねー」

「ハッ、休憩ヨ、休憩」

「……」


 ノアは小さく鼻を鳴らしたあと、現れた人物に目もくれず立ち去った。

 残された人物は、ニヤリと口の端をあげた後、小さく呟いた。


「レイラ・マンチェスターねぇ……」

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