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ジェームズ王子の憤慨


「まったく、なんなんだあいつは!」


 どす、と大きな音を立てて寮の自室ソファへと腰を下ろしたのは、この国の王子であるジェームズだ。

 信じられないという表情で、自分の後ろからついてきたローガンに視線を向けた。



◇◇◇




「俺様のことでさぞかしずっと悩んできたのだろうと思えば、まぁいいかと思っていただと!? 信じられん! だろう!?」

「いや、自分はあれから何年も連絡がなかった時点でレイラ様は気にしていないのだろうと思っておりましたが」


 ローガンの言葉に、ジェームズはふてくされた顔でソファの背もたれへと体をしずめた。


「そうであっても、久しぶりに己の婚約者、しかも王子である俺様に再会したというのに! 俺様そっちのけであの異世界人と交流を深めるとはどういう了見だ。おかしいと思わないか?」

「王子がサクラ・スチュワートに失礼な一言をおっしゃったからでは? 少しセクハラが入ってましたけど」

「なっ……そ、そうだったか? いや、俺様からああ言われたんだ。光栄だと思うのが普通だろう?」

「この世界の令嬢であれば喜んだかもしれませんが……彼女は文化の違う異界から来たというではありませんか。よく知りもしない男にそんなことを言われても、不快なだけでは?」


 ローガンの言葉が、ガスンガスンとジェームズの頭に突き刺さっていった。


「……ローガン、相変わらず主人である俺様に対して無礼な発言だな……」

「レイラ嬢もおっしゃってましたが、この学園では皆対等ですよ、ジェームズ王子」

「いやお前城でもそんな態度だっただろうが……」


 ふぅ、といつものことだと息を吐いたジェームズだったが、ハッとして背もたれにもたげていた顔を起こす。


「この世界の令嬢なら喜ぶというならば、何故レイラはあんなにも俺様に無関心なのだ!? 婚約者だからといってあぐらをかいているのか!? いや、いつでも解消していいですよ的なことを言ってたような……」


 ぶつぶつと呟くジェームズに、ローガンは肩をすくめた。


「あんなに、勝手に婚約を決められて怒っておられたじゃないですか。レイラ嬢が自分に陶酔してつきまとわれたら面倒だとも」

「……それは、言ったが」


 ジェームズは、深く息を吐いて小さく呟いた。


 ──まぁ、ジェームズ王子こそ、とても懐が広い方なのですね!

 ──わたくしの従者にまでお気を使っていただけるなんて、とても嬉しいですわ。きっと素晴らしい王になることでしょうね


 あのお茶会で、彼女が言ってくれた言葉が心の中から、何故か消えてくれない。

 自分に取り入ろうとか、媚びようとした感じが一切感じられない、真っすぐな言葉。


「……俺様の婚約者で、あいつは嬉しくないのか……」

「え? 何か言いました?」

「何でもない」


 ローガンにそう言うと、ジェームズは厳しい表情に切り替えた。


「……それはそうと、あのサクラとかいう女に怪しい雰囲気はなかったか?」

「……あの程度ではなんとも。ですが、やはり魔力は桁違いのようですね。王族である王子とほぼ同等の魔力を持っているようです」

「ほう……」

「まあ、当然ながら怪しむ者も多く、ただ単に気に入らないと思っている者も多いようです。スチュワート家は元々野心の強い一族ですからね。きっと、魔力量のことだけではなく、色々と思惑があって養子にとったのではないかという噂も」

「思惑?」

「ええ、王子のお相手にという思惑です」

「……」


 ジェームズは、目を瞬かせた。


「……婚約者は既にレイラに決まっているではないか。それに、スチュワート家とマンチェスター家では位が違う。伯爵であるスチュワート家が、侯爵であるマンチェスター家に敵うはずがなかろう」

「まあ、レイラ嬢との婚約はまだ仮だという話も広まっておりますからね。この学園でもしサクラ嬢を気に入ったとしたら、レイラ嬢との婚約を破棄できますし」

「はぁ? 誰がそんなこと言ったんだ」

「王子ですよ」

「…………」


 ジェームズは、苦虫を噛み潰したような顔をした。


「でも確かに、容姿はレイラ嬢に劣らない美しさですし、魔力量で言えばサクラ様のほうが上回っております。それも少しの違いではなく。……家柄を除けば、サクラ嬢を王妃にしてもおかしくはありませんね。まあ、スチュワート伯爵の思い通りに進むのは、個人的に喜ばしくはありませんが」

「それには同意見だ。……まあ、サクラも見目悪くはないが」


 ジェームズは、先ほど会ったサクラ・スチュワートを思い浮かべた。

 絹のような細く艶やかな黒髪、少し憂いを帯びた大きな瞳、転んだ拍子なのか少し色づいた頬。

 見た目の好みであれば、レイラよりもタイプかもしれない。


「いや、見た目の好みであれば、って、俺様は別にだな!」

「はい?」


 ブンブンと頭の上で手を振ったジェームズに、ローガンは首を傾げる。


「むしろ、あんなカエル女よりも普通はあっちのほうが誰だって良いだろう、そう、そうだ。何故かまたあの女の傍にカエルが現れるし、カエルに好かれる女よりも、うむ、そうだ……顔はだな、そう……うむ」

「何をおっしゃっているか全く理解ができかねるのですが」


 ローガンの言葉に、ジェームズは「なんでもない!」と声を荒げた。


 そうだ、別にレイラに固執することはない。

 彼女が自分に興味がなさそうなのは、こちらとしても好都合ではないか。

 サクラではないにしても、この学園では王の目も届かない。ここで、自由に、自分にふさわしい王妃候補を選べばいい。


 自分は王になる男だ。

 そう、女だって、自分の思うがまま。


「フン、見ていろよレイラ。後で泣きついて嫉妬に狂っても知らぬからな! はっはっは! 俺様はこの手でいろんなものをつかみ取って……」


 そう言いながら自分の手の平を見つめて、はたと停止したジェームズ。


「……またぬめぬめの感触を思い出したんですか?」

「う、うるさい! ちょっとザラザラ感もあったなんて思い出していない!」

「思い出してたんですね。レイラ嬢には責任を取ってジェームズ王子をもらってくださらないと、わりに合いませんね」

「その通りだ! ……いや、なんで俺様がもらわれる側なのだ!?」


 ローガンは肩をすくめて「……さて、どうなることやら……」と小さく笑った。

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