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3.可愛いお説教と、この世界の魔法について


「ほんっとーに! リサはどうなることかと自決まで覚悟したのでございますからね! レイラお嬢様ったら!」

「ごめんごめん」

「突然かがまれて、綺麗な小石でも拾われたのかと思ったら……まさかあのようなものを……!」

「ごめんごめん」

「ジェームズ王子の寛大なお心で婚約破棄とはならなかったものの、どうなることかと! わたくしは学園にはお供できないのでございますよ! もう二度とあのようなことはおやめくださいませ!」

「ごめんごめん」


「……リサ、レイラお嬢様には自分から言い聞かせておく。それより新しい紅茶をご用意してさしあげろ」


 アーサーの一声で、ようやく長かったリサのぷんぷんしたお説教は終わったのであった。

 ぷんぷんするリサも可愛いなぁと暢気に呟いたレイラは、リサが出ていった後アーサーに拳骨を食らう事になるのだが。




◇◇◇




「んも~あーくんってば手加減ないんだから。一応私、令嬢だよ? たんこぶが出来て学園入学前に王子から婚約破棄されたらどうするのさぁ」

「王子にカエル握らせたやつが何言ってんだ」

「なにさ、ゲコリン可愛いのにねぇ」


 つんつん、と手の平に乗せたカエルを軽く撫でながら、レイラは自室のソファに座りながら口を尖らせた。

 王宮のお茶会から一週間ほど経ったが、今のところ王子からの婚約破棄や抗議の文は届いていない。(だが、リサはよっぽど驚いたのか毎日のようにその話をするのだ)


「……つかいつまで部屋に置いとくつもりだ? それペットにするつもりかよ」

「うーん? そうだねぇ。部屋においておくのも可哀想だよね。あっうちの庭園に放しておこうかな。ペットとして縛り付けちゃ、ゲコリンも可哀想だしねぇ」

「じゃあ名前つけんなよ……っと! 近づけんな! 絶対捕まえておけよ! 放すなよ! 俺のほうに、持ってくんなよ!」

「……それ、前フリ?」

「ちげーよ馬鹿!!!」


 こてん、と首を傾げながら言ったレイラに、アーサーは鬼気迫った顔で叫んだ。

 前世でも虫の類が大好きで、バケツいっぱいに収集していた姉のことを思い出して、ぞわりと背筋が震える。まさか、転生して令嬢になった現世でもその趣味が続いていたとは。


「その趣味、学園入ったら絶対隠しとおせよねーちゃん。ゲテモノ趣味の令嬢なんて噂広がったら、王子に国外追放される計画前に婚約破棄されてオシマイだぞ?」

「はいはいー。分かってますよーーーだ、クリームソーーーダ」

「さむっ」


 酷い一言で渾身のギャグを一蹴したアーサーに口を尖らせながら、レイラはソファから立ち上がった。

 そして窓辺へ行き、片手でそっと窓を開ける。


「あーくん、見ててね」


 そう言うと、目を閉じて小さく口を開く。


「風の聖霊よ、我に力を」


 すると、手の平の乗せていたカエルがふわりと浮いた。そしてゆっくりと窓の外へふわふわと降りていく。

 レイラの部屋は3階にある。

 カエルが無事に庭園の茂みへ降りたのを確認して、ふっと息を吐いたレイラ。


「どう? 私の魔法も上達したでしょ?」

「練習したのか」

「もちろーん! だって国外追放田舎ライフが始まれば、お金とか生活に必要なもの全部自分たちでなんとかしなきゃだもんね。魔法磨いといて損はないでしょ!」

「……意外と考えてたんだな」

「意外ととはどういう意味かね!」


 ふん、と鼻息を吐きながら威張るレイラに、アーサーは少し笑って肩をすくめた。


 そう、この『ボクとキミの魔法王宮物語』の世界には、タイトル通り魔法が存在する。

 特に貴族の血縁には魔力が濃く継承され、ほとんど魔法が使えない一般人のためにその魔力を『魔力石』に補充することになっているのだ。王宮の中心にある『魔力石』に注がれた魔力は、火となり水となり光となり、人々の生活を支える存在。


 その魔力を注ぎ『魔法具』として使えるようにしたり、己の魔力を使って魔法を使う者は『魔法使い』と呼ばれる。

 貴族達は基本的に『魔法使い』にはならず、魔力を注ぐだけでいいため、魔法を覚える者は少ない。


「せっかく魔法が使えるのに、覚えないなんて不思議な人たちよねー」

「まあ、それがこの世界の普通だからな。魔法を使うのは一部の才ある魔法使いだけ。貴族や王族は魔力のコントロールさえ覚えればわざわざ自分が魔法を使わなくても、魔力石に注ぐだけでいいんだからそうするだろ」

「そのコントロールを磨くのが、13歳から通う学校なのよね。ゲームの舞台ってトコロ」


 レイラの言葉に、アーサーは頷いた。


「そこで、ゲーム主人公のヒロインが桁違いの魔力を持って入学してくる。そのヒロインがイケメン貴族達をメロメロにしていく予定だから、ねーちゃんはそのヒロインをネチネチといじめるってわけ」

「わかってるって! ヒロインさん? あなた、まだここに埃が残っていてよ? ふーっ(人差し指)、とかやってみせるから」

「姑かよ」


 そう言いながら、アーサーはレイラが開けた窓を閉めた。


「まあその、ヒロインってやつがどう動くかが分からねぇからな。本来はゲームでこっちが選択肢選んで動かすキャラだから。この世界のヒロインがどのキャラ狙って、どう行動するかがさっぱり分からねぇのが一番のネックだ」

「とりあえずその女の子が好きになったっぽい攻略キャラを見極めて、私はネチネチ姑ライフして、ヒロインさん? 家をあけて女子会だなんて随分いい御身分ね? ヒロシはコンビニで買ったお弁当を食べたって聞いたわよ? ヒロシの栄養が偏って病気になったらどうするの? ってせめていくから」

「ヒロシだれだよ。訂正、一番のネックはねーちゃんだわ」

「天下の悪役令嬢に失礼なっ! 私は泣く子も踊る、国外追放予定の悪女なんだからね!」

「いや泣く子踊らせるとか絶対イイヤツじゃん」

「くっ……確かに!」

「くっ確かにじゃねーし」


 そんなことを話していると、リサがお盆を抱えて戻ってきた。


「新しいお紅茶お持ちしました! レイラお嬢様のお好きな茶葉でお入れしましたよ」

「やった! ありがとうリサ」


 カップを用意してくれるリサにお礼を言うと、リサは少し複雑そうな顔をした。


「……先ほど、奥様が戻られたとメイド長よりお聞きしました。夕食は、ご一緒なさるとのことで」

「お母様が……わたくしと、となると……何か話があるのかしら。まさか、王子から婚約破棄の連絡がきたのではないでしょうね……」

「いえ、それはないかと。もしそうならいの一番にこちらにおいでになるでしょう」


 アーサーの言葉に、それもそうかと納得するレイラ。


「……奥様の従者の一人によると、おそらく王子との婚約のことで、ダンスのレッスンや書き物の練習などを増やすというようなことを、おっしゃっていたと……」

「……はぁ、どうせそんなことだろうと思ったわ……」


 レイラは小さく呟いた。

 自分はほとんどレイラとは関わらないが、何かにつけて嫁ぎ先の恥にならぬようにと作法等の家庭教師をたくさんつけてくる。今でもほとんど休みがないのに、これ以上増やされてはアーサーとゆっくり話す時間もなくなってしまうというのに。


「……早く、スヴィエート学園に入学したいわね」


 レイラの小さな呟きは、アーサーにだけ届いて消えた。

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