スフィア
人類の一部が火星に移住してしばらくたった頃。
とある建築家が考案した「スフィア」と呼ばれる球体の居住施設がブームになった。
「宇宙工学でモデリングされたエコ・スフィアが発端です」
建築家が言うには、球体の内部に一種の生態系を確立してしまうことで、半永久的に内部世界が存続するというものだった。
スフィアは増設され、かなりの数が造られた。
太陽活動が活発になり、磁気嵐が続いた。
「ひどい嵐だったな。みんな大丈夫だろうか?」
高官のサミュエルがスフィア群に派遣されて、技術者たちと個々のスフィア内部と応答をとろうとしたが、なぜかどのスフィアからもうんともすんとも答えが返ってこなかった。
サミュエルはしびれを切らして非常事態用のドームをスフィアの周囲に建造して、技術者たちにスフィアをこじ開けさせた。
「なんだ。大丈夫じゃないか。なんで応答してくれなかったんですか?」
スフィアの内部の人びとはいつのまにか独自の宗教を持っていて、スフィアのなかで世界が出来上がってしまっていて、外部に関しては全く興味を失ってしまっていた。
「磁気嵐だって?それじゃ、汚染されたものを持ち込んだんじゃないか?どうしてくれるんだ!」
住民に詰め寄られてサミュエルはたじたじとなった。
「全く・・・ひどい火星人ばかりで嫌になるよ」
サミュエルはぶつくさ言った。
だってどこのスフィアも似たり寄ったりだったんだ。