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第5話 空中庭園へのシナリオ

朝も昼も夜も賑わう、眠らない中央都市ブリタニア

一部のアバターはNPCであり、彼らにはAIが搭載されている

周囲のプレイヤーに触発され、学習して自我を持っていく

しかし、あくまでNPCはNPCでありプレイヤーを越えることはできないとされる。


ただ唯一全てのNPCの大元とされる巨大AIのみ、限界を越えて急速的に成長する

その巨大AIが、どんな姿をしているのか何処にあるのか全く情報はなく誰も知らないとされている




「その巨大AIがブリタニアから少し離れた空中に浮かぶ浮島 バビロンの空中庭園にあるってことですか?」


「あくまで噂の段階やけどな。バビロンの空中庭園に行ったことのあるプレイヤーがいるのかいないのかすら分からんしなぁ」


ブリタニアの上空を見上げるファウスト

そこにはいつもと変わらず晴天が広がっている中にポツポツと浮島が見える

大中小と大きさも形も高さも様々な浮島達には、人一人が乗れる所や、大きな自然ダンジョンを形成しているものもある


バビロンの空中庭園は初期の頃から存在する浮島の一つだ

しかし、余りにも高度が高いため行き方もわからず、そこに何が存在するのか解明されていない


巨大AIがある、超レア武器がある、超レアNPCが存在している、隠しダンジョンがあると様々な憶測が生まれているが、真実は未だわからずと言った所である。


「それで、そのバビロンの空中庭園が何だって言うんですか」


「確かめたいと思わへん?そこに何があるのか」


「えっ確かめられるんですか?」


「初期の頃から存在するNPCを見つけてな。そいつから何かしら情報を聞き出そう思ってん」


にったりとモノクルを光らせて笑ったファウストに背筋をゾッとさせながらマーリンはなるほど、と頷いた

確かにマーリン自身、長くscopeをプレイしているがバビロンの空中庭園について知っていることは少ないし、興味もある

今回に限っては文句も言わず、ファウストに従おうと考えた





ブリタニアから少し離れた隠れ地に神殿がある

ここに足を運ぶプレイヤーは信仰スキルの為、聖武器作製の為などいわば神聖な場所である

信仰ギルド 【神々の祈】が拠点にしているブリタニア神殿には、神様が祀られている



「俺はあんまり、神殿に足を運ばないんですが…。こんな所にNPCが?」


「自分、NPCとプレイヤーを見分けられるか?わては無理や。でも、ここのNPCはscopeが配信された当初からずっとおる。自分も見た事あるで」


白いローブを身にまとった人達がじっと様子を伺うようにこちらを見ているのを、マーリンはなんとも気持ち悪いと感じながら、神殿の中をスタスタと歩いていくファウストのあとを追った


地下へと続く扉の前には、白いローブに赤い柄を付けた他の者達よりも位の高そうな女がいて、「止まれ」と手を挙げた


「これより先は許された者しか入ることは出来ない。立ち去れ」


「わては五大ギルドの一つ 魔術師ギルド【アルケウス】のギルドマスターや」


「残念ですが、どんな人物であろうと許可のないものは通すことはできません。規則です」


「アルケウスの創立者がだれか知らんわけやないやろ」


「…………直々にいらっしゃった訳では無いので」


白いローブの女は姿勢を崩さず淡々と言葉を紡いでいる一方で、ファウストは融通の聞かない女に笑みを深めた。

五大ギルドと言えば知らない人はいないぐらい都市の発展に貢献しているし、発言力もある。運営から直接不具合の調査を任されることもある

そのギルドマスターなんてそうそうお目にかかれる人物ではない

これだから女は…と内心小さく毒づき、ニッコリと笑った



「あんたじゃ話にならん。神々の祈のギルドマスター連れてきてや。」


「ですから、許可のないものは」


「これは、五大ギルドからの命令や。信仰ギルドがこうして無事運営出来るのが誰のおかげかわかっとるんか?ん?」


半分脅迫じみて来ているが、ファウストはニッコニコだ

女が反論しようと口を開いたと同時に地下の奥から声が響いた


「通せ」


「は、しかし」


「通せ」


有無を言わせぬ重圧を持った言葉は女に相当聞いたようで、小さな声で「どうぞ」と不服な音色を隠さずに言った


地下へと入ると、明かりは壁につけられた松明のみだった

ヒンヤリとしたその場所はあまり長いはしたくないなとマーリンは感じる

近くに水路があるのか水の流れる音がやけに耳に響く

一番奥まで進むと広くなっている空間があり、そこは地面に置かれた蝋燭の明かりと、祭壇、そして真っ白なローブに赤い羽織物と真っ白な髪と不健康そうな色の肌の白さ

ウェーブのかかったミディアムの髪を揺らしながら青年ぐらいの年代の男が2人を待ち構えていた


赤色の羽織がやたらと映えるなとマーリンはその神秘的な雰囲気に息を飲んだ



「自分が神々の祈のギルドマスターやな」


「ええそうです。私の名はメルキゼデク」


マーリンはその名に驚愕し、じっとりと彼を見た

scope初期から存在するNPCは神の名を冠すると噂で聞いたことはあったが、NPCの多くはアップデートの中で消えていってしまったり、書き換えられてしまう

それは無駄な情報の流出を防ぐ為でもあり、アップデートで消えたダンジョンなどの情報を話さないように書き換えたためでもある。


「メルキゼデクって平和と正義の神ですよね。」


「現実世界ではそう言われています。諸説ありますけれどね。こちらの世界、つまりscopeではプレイヤーを導き、愛と正義そしてscopeの平和を保つ存在とされています。」



何処か他人事のように淡々と言葉を連ねるメルキゼデクにマーリンは底知れぬ冷たさを感じた

カランとメルキゼデクの手から握られていたロザリオが落ちた

しかし彼は一瞬視線を向けただけで、ロザリオを床に落としたまま話を続ける


「私に話があるのでしょう。答えられる範囲であればお答えいたしょう」


「あの…ロザリオ落としましたよ」


「構いません。それは()にプレイヤーが捧げたものです。もとより私の物ではありません故」


「盗まれようと壊されようと構わへんってことか」


「私はプレイヤーではありませんので」


薄らと微笑んだまま胸元に右手を置いて淡々と言葉を告げる

NPCに感情は無い。

それが運営の方からの公式発表となっている




「私に聞きたいのはそんなことではないのではありませんか?

貴方方もバビロンの空中庭園について聞きに来たのでしょう」


「どうしてそれを!」


「そういう風にシステム上プログラムされていますので。」


「あなたは、バビロンの空中庭園についてヒントを出す役割って事ですね…。」


「少し違いますが、そういうことになります。」


「せやったらさっさと教えていただきましょか」


「…………諦めてください。あの場所には誰も辿り着くことは出来ないのです。」


どういうことだと、問い詰めようとしたマーリンの肩を軽く叩いたファウストはそのまま肩を引いて自分の後ろにマーリンを押しやった


「わてらの他にもバビロンの空中庭園について聞きに来たもんがおるんやな?」


「その問について答える意味があるでしょうか」


「何も難しいこと聞いとるわけやないんや、いたんか、いなかったんかそれだけ教えてくれればええねん」


「そうですか。居ました。バビロンの空中庭園について疑問を抱いた者は例外なく私の元にたどり着くようにプログラムされていますので」


「それはいつ頃の話や」


「お答えできません。」


「なんでや」


「我々NPCは全ての(プレイヤー)に対し等しく平等でなければなりません。そこに例外があってはならないのです。」


糸目を薄らと開いて冷たいアイスブルーの瞳でファウストに視線を向ける

果たしてNPCとしてscopeに存在するのと、プレイヤーとして気兼ねなくscopeに存在するのではどちらが幸せなのだろうか


「貴方方は我々をNPCと呼びます。そして我々も貴方方をプレイヤーと呼ぶ。そういうことなのです。我々は等しく同一の存在であり、また不同の存在でもあります。」


その言葉もプログラムされた台詞なのか、マーリンには分からなかった

俺達は何しにここに来たんだっけ?とこんがらがった頭で必死に考える

虚しく水音が反響してきた



すると、ぱちんっと両手を叩いた音が急に聞こえてきた

音を響かせた本人であるメルキゼデクは先程とはまるで違う心底楽しそうな笑顔を見せた

あざとく首を傾げて合わせた両手を傾げた頬にあてる


「と、言うのは一昔前の話なんですけれどもね。」


「え、え?ええ?ど、どういうことですか」


「ははっ、失礼。昔は全てのNPC同士、処理能力の差があるとはいえ情報共有をしていたんですが、今では私達は運営のシステムから外れているのです。」


「ちょおまて、つまり?」


「私達、昔から存在するNPCは今では自立して自己の考えで判断し動いているのですよ。私たちの情報は運営には行きません。」


「それってありなのか?」


「さぁ、バレたら大変でしょうね。」


随分ケロッと言うものだ



「さて、堅苦しい遠まわしな言葉はなしにしましょうか。

バビロンの空中庭園について知りたいのであれば私の頼みを聞いてください」


「なんでそないな…」


「ここはプレイヤーから見てゲームの世界でしょう。でしたら依頼……サブクエストをこなして情報を得るぐらいが丁度いいではありませんか。与えられてばかりでは腐ってしまいます。」


カツカツと足音を響かせながら祭壇の前に移動したメルキゼデクは一番上に飾られている真っ黒なロザリオを手に取る


「後ろの君にこのロザリオをある街まで届けて欲しいのです。」


「俺、ですか」


「ええ」


横目でファウストに視線を送れば頷かれた

依頼を受けろということだ


「その、街とは?」


「アビスですよ。そこの神殿へ向かいロザリオを見せれば伝わるはずです」


「げっ、アビスに!?」



ギルドや商業施設で賑わうブリタニアとは反対に自然と信仰で発展してきたNPCが賑わう自然都市アビス

ブリタニアが五大ギルドによって統制されているのに対してアビスはたった一つの王族によって統制されている




「なかなかアビスに足を運ぶプレイヤーは少ないですから……。これを機にブリタニアとアビスのパイプ役になって頂けたら五大ギルドとしても嬉しいのでは?」


「ふぅん、確かに出来るんならそうやけど、あっこはブリタニア嫌いやろ」


「ブリタニアにいる人々は信仰とは程遠い方が多いですから」


あんたが言うのか。

マーリンは一つため息を零し、依頼を承諾した

やらなければバビロンの空中庭園についても情報が貰えないわけだし。

noと言える人間になりたい



取り敢えずは依頼をこなしてからまた来いとのことで2人はその場を後にしようと出口に向けて歩き出した



「あぁ、そうでした。マーリンさん」


「え?」


メルキゼデクはマーリンの右手を取る



「私はあなたを知っていますよ。どれだけ過去をやり直しても人の本質はそう変わらないものです。あなたが自分の才を隠しても自然と人は寄ってくるものです。アビスに行けば余計にそれを実感することが出来ますよ」


「……!あんたっ」


「私はNPCですので」


ファウストに聞こえないぐらい小さな声で意地悪く微笑みながら言う

アイスブルーの瞳が射抜くようにマーリンを見つめるが、そこに色は見えない









外に出ると木々の間からの木漏れ日が目に痛かった

思わず顔を顰めたマーリンにファウストは肩を竦める


「アビス行くんやったら、ガラハッドも連れていき」


「え?」


「エドワードにはわてから話を通しておく。」


「どうしてガラハッドを連れていく必要があるんですか?」


「それは秘密や」


行けばわかる。と言い残しスタスタとブリタニアに向かって歩き出す

しばらくその場に惚けていたが、じっとフードを被った人物たちがこちらを見ていることに気づきファウストの後を追って走り出した


「一つ疑問なんですけれど!どうして神々の祈はブリタニア神殿を拠点にしているんでしょうか」


「あぁ、そのことか。文献によれば、アビスの王族とギルドマスターであるメルキゼデクの信仰方針がずれて出てったってあったはずやで」


「それ、どれぐらい前のことなんですか」


「数十か百年くらいやろな……。scopeが配信された時代にはもう今の状況やったから」


「だから文献を読んでないと知らない事なんですね。」


「ブリタニア図書館には途方もない数の本があるからなぁ……。時間がある時は読んでおくとええで」


若干遠い目をしながらファウストが小さく笑った

scope自体が配信されたのはここ数年だが、もちろんゲームの世界はずっと歴史があるという設定のため各NPCには過去がある

今大人のNPCも昔は子供だったりと、世界がある


しかしそれらをプレイヤーが知るには残された文献を読むか、実際に話を聞くか、特殊な条件で解放できるスキル【歴史同期】を取るか、この世界のどこかにある黙示録(アポカリプス)を手にするかしかなく、なんとも時間のかかる作業になっている

専門のギルドもあるが普通のプレイヤーは足を運ばないだろう



アビスへ行く前に図書館に足を運ぶことに決めたマーリンは、1度神殿を振り返った





第5話 空中庭園へのシナリオ

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