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第4話 平凡からは程遠く

現代の若者の多くは仮想現実と現実世界を日々行き来している


しかし彼らも日常生活というものが無論ある

昼間は学校や会社に行くもの、夜は子育てやTV、ネットサーフィンをする者

無論それは、スイッチを手にした彼らも同様に同じである





「おーい、日野。お前さぁ、最近の呼び出しラッシュはなんだったんだよ」


日野采マーリンの友人Aは休み時間を利用して横の席に座った

その席の人物は休み時間に入ってすぐに教室を出ていったのを確認している


「いやぁ……。俺も何が何だか分からないんだよ。この前すれ違った時に肩でもぶつけたかな」


笑いながら言えば友人Aは納得したのかほかの友人の所に言ってしまった

先日の御幸→御幸のラッシュに続き、安吾とゼノビアにも呼び出されたのだ

安吾は3組だと知っていたためいいのだが、まさかゼノビアが同じ学校の一つしたの学年だとは思ってもみなかった

しかも、学校の中では美女の1人として有名だった


(世間は狭いとはいうが、こんなに狭いとは思わなんだ…)


カタンと椅子のズレる音がしたため、何気なしに横を見ると横の席である山田が丁度戻ってきたところだった

真っ黒な綺麗な髪 前髪はパッツンに整えられていている

普段は俯きがちな為あまり目が合う事は無いが、優しげな目つきと整った顔立ちは、彼がもう少し目立つ存在であればモテるだろうなと納得してしまう顔だった


「…………なぁ、山田」


「………………なんでしょうか」


「なんの本読んでんの?」


「ミステリー小説です」


「面白いのか?」


「………それなりには」


どうも彼は人との会話が苦手らしい

というのもマーリンは彼が誰かと積極的に話している姿を見たことが無い

女子の間では無口の山田と名付けられているし、マーリン自身席は前後なのにそんなに会話した記憶がなかった

無口で無表情、おまけに冗談が通じない堅物(そもそも冗談を彼に向かって言った人がいるのか定かではないが)と勝手にクラス内でイメージ像が作られていることを彼は知っているのだろうか


「山田って変わってるよな」


「……はぁ、どうも」


「今度遊びに行こう」


「…………時間があれば」


日野と山田くんが会話してるっ!入口近くで喋っていた女子のグループが驚愕の表情でこちらを見ている

ガヤガヤと騒がしい廊下には専門科の2組生がいる

マーリンは普通科だが、他にもスポーツ、外部進学、国際、調理etc…と複数ある

校舎も違うためあまり会うことはないが、二組どうしというだけで妙に仲間意識が生まれるのはこの学校特有のものなのだろう

上下関係も同じことが言えるのだから不思議だ


「山田ってさぁ」


視線だけこちらに寄越した


「嫌いな奴とかいるの?」


「はぁ」


心底意味がわからないという顔をされた


「あーいや。なんて言うんだろ。俺の友達同士がいつもいがみ合ってるんだよ。だから山田もそういう嫌いな奴いるのかなって」


「話の繋がりが全くわかりませんが」


「うーん、兎に角!嫌いな奴とかいるの?」


「いますよ」


「へぇ!どんなやつなんだ」


「自分に自信がある人です」


視線は本に向けたままだったが、山田がきちんと会話しているのはマーリンにも感じ取れた

会話をしていて初めて、山田の感情を感じ取った気がしたのだ


「自分に自信があるやつ…」


「そういう人間は大体、失敗をしますから」


話は終わりだと言わんばかりに、力強く言われてしまった

周りの生徒は既に次の授業の準備に取り掛かっていた。マーリンもそれに習いながらも、先ほどの山田の言葉が引っ掛かってしょうがなかった

昔scopeでチームを組んでいた1人に言われた言葉に似ていたのだ


当時の自分は魔術師ではなく剣士だった

ランキングは常に上位で名前もマーリンでは無かった

こいつは凄い。凄腕だ。と持て囃されたものだが、実際は違う

確かにマーリン自身も強かったがチームの力が強かったのだ、バランスの取れたパーティに状況を判断できる司令塔、戦術を考えるのが得意な策士、それらがあっての代表者の名前がマーリンなだけだったのだ


(うーん、でもあの頃のチームメイトで残ってた奴とは今も連絡を取り合ってるしなぁ)



似たような言葉を言ったからと言って、同一人物だと考えては行けないだろう

そう考えたマーリンは授業に集中する為に気合を入れた


その姿を山田に横から見られていたことには気づいてもいなかった






場所は変わり3組


窓際の一番後ろの席に悠々と座りながら携帯をいじる安吾に対し、前の席に座っているルカは暇そうにある1点を見ている

視線の先には廊下で談笑しているクラスメイトがいたが、彼女達は女の子らしい高い声を上げながら何やら恋愛話に花を咲かせていたのだった


「ふぅむ、わんてんですな」


「1点な。なにが?」


「あの子達のscopeランキング〜。弱小ですよ。じゃくしょう」


「そりゃあスイッチ欲しさにランキング上位に入るだなんて、廃人かやり込み勢だけだろよ。ほとんどがお遊び。それか遠距離恋愛」


携帯を机の上に置いて、ルカと同じ方向を見る

自分で遠距離恋愛とか言っておきながら、若干イラッとした安吾はルカに当たるように言葉を投げた


「つか、この間俺が折角捕まえた猫どうしたんですかね?」


「あー猫ね猫。可愛いよね。私犬派だけど猫もいいと思うよ、うん」


「ルカちゃん会話する気ありますかぁ?」


「あるよ!あるけど猫に関しては何も言えないの!てか知らないの」


「まぁた、俺らだけハブっすか」


あぁーと机に伏せた安吾を見て、ルカは欠伸をこぼした

授業開始まで後少しだが、準備をしているのが少数しかいない

一番前の席に座る人たちは脱3組を目指す真面目派

真ん中は友達と固まって喋れればいい仲良し派

後ろの方は兎に角先生に絡まれたくない腐ったみかん派

決して仲が悪いクラスではない。寧ろ協力する時はする。ただそこには温度差のそれぞれの目的が違うだけという


「思ったんだけどさーぁー。今期の新人くんたちはなんでスイッチ欲しかったんだろうね」


「……ガラハッドとゼノビアだっけ、はあれだろランスロット絡みだろ。どーせ。後の3人はなんだっけなぁカースト云々だったかなぁ」


「マーリンは」


「あ?」


「だから、マーリン。安吾の友達の」


「いや友達っつぅか……。聞いたことはねぇけど」


「スイッチをただ欲しがる人なら沢山いるけど、わざわざ大変な思いしてまで手に入れる人なんて早々いないじゃん。さっき安吾が言ったみたいにね。」


「だからなんだよ」


「実はスイッチに纏わる噂を知っている、とかね」


チャイムの音と共に教師が入ってくる

眼鏡をかけたキツイ顔、着られたスーツはきっちりしている

その表情には明らかに見下していますと書かれている


「スイッチに纏わる噂なんて、相当初期の頃に出回った噂だろ。」


「そう、だからいたんじゃない?初期の頃から」


「はぁ?」


ゴンッと教卓を叩いた音が教室内に響いた

教師は教科書を開き、何かを言いたげにその人物を睨んでいる

複数の生徒が響いた音に驚き身を縮こませるし、原因となった人物は完全に萎縮してしまっていた

数人の生徒が原因の人物に目を向る

またか、と呆れる者や、いい加減にしろと怒りを向ける者、ただ成り行きを見守っている者と様々だが、原因の人物が日頃から好かれた人物では無いことは確かだった


「お前は一体いつになったら理解できるようになるんだ。

授業中に教科書を開かないやつがあるか」


「すみません。」


「謝る必要は無い。今すぐ教科書を机の上にだしなさい」


「それは…」


「できない理由があるかね?私の授業は受ける価値もないと?」


「…すみません」


責められた生徒は俯いて両の拳を握りしめ、じっと先生からの言葉に耐えている

生徒は教科書を出したくても出せないのだ。彼の教科書は暫く前に中間に座る女生徒らによって破り捨てられてしまったから

生徒は必死に勉強をしていた。要領が悪い分多く勉強して上のクラスに行きたかったから、少しでも両親を喜ばせ妹に自慢の姉だと胸を張らせてやりたかった。その為彼女は友達をこのクラスに作らなかった。


(綺麗な黒髪のロング、整った顔立ち、ぷっくり桜色の唇、そりゃ嫉妬の的にもなるよなぁ)


安吾は女生徒を見て考える

もし仮に自分が同じ事をされたら、女だろうが気が済むまで倍返しするが彼女は大人しく、お淑やかな生徒酷な話だろう

誰も彼女を庇い立てしないのは、友達ではないから。

助ける理由が存在しない。それはこのクラスの生徒にとってはとても大切な理由だった


「やる気がないなら教室にいなくて結構だ。出て行き給え」


「すみません」


「はぁ」


教師は大きなため息を付いて、授業に戻った

安吾の席からは見えないが、彼女は唇をぐっと噛み締めて、両の眼には涙を溜めている

誰も助けてくれない事に嘆いている訳ではない。ただ、どうしてこうなってしまったのか、それだけを考えていた。



憐れみを含んだ目で彼女を見ている安吾の一方

ルカは無関心だった。ただ唯一思ったのは、NPCみたいだなぁ、ぐらいの感想だ

ルカの今の関心はサイレントマナーの端末に届く通知のみ

友達でもない人間に関心を向けるほど、暇じゃないのだ。と独り心の中でゴチたのだった





お昼時間、マーリンは購買に急いでいた

広い学園のため食堂もあるのだが、今日はパンが食べたい

なんとなくだが、パンが食べたい。

昨日の夜 簡易クエスト『黄金の小麦で作るパン』をクリアしたからだろう

どうしてああも、scopeの食べ物は美味しそうなんだろうか。自給自足出来るから、お金もそんなにかからないし

そんな事を考えていたため、曲がり角から出てきた女生徒に全く気づかなかった


ドンッと女生徒が持っていた筆記用具が散らばる音とぶつかった衝撃で女生徒が尻餅をついた


「わっ、悪い!怪我はない?」


「だ、大丈夫です」


「そっかよかった。ほんとに悪かった……ってしいな?」


手を引いて助け起こした女生徒は去年同じクラスだった

勤勉でいつも笑顔で、次年度は1組だなぁなんて話をして、クラスの委員長で中心的な人物だった

それが今や3組でいじめの的になっているとはマーリンは露とも知らないが


「ご、ごめんなさい。前見てなくて…」


「いやこっちこそ……。大丈夫?」


「え」


「なんか雰囲気変わった?」


「……ううん。何でもない。急いでいるからもう行くね」


しいなと視線が合うことはなかった

暫くはしいなの去っていった廊下の先を見ていたが、ハッと目的を思い出すとマーリンもまたその場を立ち去った


「そう言えばしいなって今何組なんだろ」


「しいなって?」


たまたま購買でパンを買いに来て出会したゼノビアと共に外で食事をしていた

ゼノビアも昨日の簡易クエストの影響でパンを食べたくなったらしい。


「去年、同じクラスだった女の子。真面目でお淑やかでさぁ、理想の大和撫子だったんだよ」


「ふぅん。1組とかじゃないの?」


「うーん。多分そうだとは思うんだけど、あんまり見かけないから」


「ま、3組だったら可哀想としか言えないね。そんな大人しい真面目な子スグにおられちゃうでしょ」


「……確かにしいなが3組にいる姿は想像出来ないな」


「出る杭は打たれる。その中で生き残らなきゃ行けないからね。3組は」


僕は死んでもなりたくない。と隣でパンを齧りながらゼノビアが言う

この間自分たちの探していた猫を横取りした安吾は3組だよと、教えたら嫌悪感丸出しにするだろう

ぼんやりとしていれば、いつの間にかため息をついてしまったらしい、ゼノビアが嫌そうな顔でマーリンを見た


「ちょっと、ため息つかないでよね。僕まで憂鬱な気分になるだろ」


「あー、ごめん。なんかスイッチ手にしてから一気に環境変わったなぁって思ってさ」


「まぁね。でも環境が変わったんじゃなくて、僕らの意識が広がったんだと思うよ。スイッチを持った事で外に目を向けるようになったんじゃない?」


「今まで誰がscopeやってるとか気にしたことなかったもんなぁ。」


「……だからさ!そんなに気になるなら、そのしいなって女に直接聞いたらいいじゃん!知り合いなんだろ!」


男ならウジウジすんなとゼノビアは言う

なんだかどんどんと俺に対する扱いが雑というかなんというかな感じになってきたなぁと感じながらマーリンは立ち上がった


驚く程に真っ青な空を見上げると、丁度鳥が群れで飛んでいるところだった


ひらひらと真っ白な羽が上空から雪のように降ってくる




どうもそれに違和感を感じた

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