第3話 協力って案外難しい
小石を蹴っ飛ばしながら、明らかに不機嫌ですと歩きからから滲み出ている中性的な少女
その後を若干呆れながら細い路地などを軽く除きこみ何かを探している少年
更にその後ろを腕を組みながら小さく溜息をつき、帽子をかぶり直した少年
3人中2人が若干の不機嫌という(1人は完全に不機嫌だが)状況で前を歩く少女と後ろを歩く少年を軽く見て少年 マーリンは騎士ギルドマスターのエドワードを軽く恨んだ
事の発端はエドワードに呼び出されたことから始まる
「やぁ、現実世界では初めましてかな?エドワードだ」
いい所のお坊ちゃまです。という様な服装に立ち居振る舞いをしたエドワードは3人を見てお辞儀をした
その優雅さたるや、次元の違いを感じざるおえないのだが、そんなことを気にしないゼノビアは不満げな表情のまま言葉を紡いだ
「挨拶なんかどうでもいいわよ。なんで僕とマーリンはいいにしても、こいつがいるわけ?」
「それはこちらの台詞だがな」
「おや、違うよ。ゼノビアとガラハッドの2人だと無理そうだから、マーリンを呼んだのだよ」
綺麗な顔でさりげなく吐かれた毒に2人はお互いの顔を一瞬、それこそ視界の隅に入れただけでふんっと顔を背けたのだった
なんで俺が仲の悪い2人のためにお守りをしなきゃ行けないんだ!なんてギルドマスターに言えるはずもなく、呼び出された理由を知ったマーリンは苦笑いを零した
「あのー、それで用事って」
「あぁ、猫を探して欲しいんだ」
「「猫ぉ!?」」
「なんでも、scopeの猫がこちらに逃げ出してしまったみたいでね。早急に見つけ出して欲しいとの事だよ」
「早急にって言うなら僕達じゃなくて、マスターがやればいいじゃないか!」
「そもそも、三人も必要ないかと思いますが…。僕1人で十分かと」
猫、猫、猫、猫。猫と聞いてそりゃもう豪華な煌びやかな姿を必死に想像するが全くイメージが着かない
急ぎってことは、余程大切な猫なのだろう
それをこんな下っ端のスイッチ保持者に任せていいのだろうか
「ははっ、君たちに拒否権があるわけないだろう?今日中に見つけ出してくれ給え」
ぎゃあぎゃあと言い合いながら、主にゼノビアがだが、2人は外に出ていく
どちらが先に見つける事が出来るか勝負すると意気込んでいる。主にゼノビアが、だが
「マーリン、君にはもう一つ別の頼み事を任せたいんだ。いいかな?」
思わず男の自分すら惚れてしまいそうなほど綺麗に笑ったエドワードに、誰がNOと言えるだろうか
誰も言えないよきっと
時は今に戻る
「情報ではこの当たりのはずだが……」
ガラハッドは端末を片手に公園を見回す
随分広い公園だな…。しかしのその割に人の数が少ない
市内でも大きい部類に入る公園だが、普段から人が少ないのか余り来ない彼には判断がつかなかった
「休日だってのに、人が少なすぎないか?」
「今どき公園で遊ぶ子供なんていないんじゃないの?」
ゼノビアの言葉に内心で、非常に不服だがガラハッドは同意した
小さい子供という者はよく分からないが、中学生ぐらいになれば、携帯片手にゲームをしていたり、家庭用ゲーム機で遊んでいるものも多いだろう
今どき外で遊んでいる子供なんて早々見ない、はず
それにしても、歩いている人間は非常に疎らだし、子供とは言い難い年齢の人ばかり
「そんなことより早く猫を探すぞ」
「指図しないでくれるかな?僕はあんたの下についたつもりは無いから」
「ゼノビア、もう少し歩み寄ろうよ」
「なんで僕がこいつ何かと歩み寄らなきゃ行けないわけ?」
心底嫌ですと顔に書いてある彼女は宥めながら、マーリンはエドワードに頼まれたもう一つのことを思いだした
「ずっといがみ合う理由にも行かないだろう?少しずつでいい、2人が協力できるように上手く導いてやって欲しいんだ」
「それは……随分重要な……」
「今の所、君にしか頼めなくてね。どうにも君はあの2人に気に入られているらしいからな」
ハッキリと言おう。無茶言うなよ
問題はゼノビアだろう。彼女はずっとランスロットの件を根に持っているし、ガラハッドだって元が友好的とは言い難い性格のために拗れているのは分かる
けれど、あって日も浅い自分に普通頼むか?
俺なら……頼むかもしれないなぁ。
だって面倒臭いし。
扱いにくいし……。
全くバラバラの方向を探している二人を遠目に見ながらどうすっかなぁと呟けば、ニャアと足元で鳴き声が聞こえた
『にゃあ』
「んー?どっかの迷子猫かな?」
真ん丸お目目があまりにも可愛いので、体の脇に手を差し込んで持ち上げてやると、猫はどことなく嬉しそうに鳴き声を上げる
そこでふとマーリンは気づいた
(この猫、普通の猫じゃない)
よく見ようと、顔に猫を近づけた
少し離れた位置に立っているガラハッドから、切羽詰まった声が飛んだ
「おい!!その猫を話せ!」
「へっ」
驚いて手を離したのと、猫がマーリン目掛けて爪を剥いたのと、ガラハッドがスイッチを起動させたのは殆どが同時だった
「ちょっと、大丈夫?」
焦ってこちらに戻ってきたゼノビアはマーリンの腕を取って怪我がないかを確認する
ギリギリの所で猫を離したため怪我はないが心臓はバクバクと未だに脈打っていた
「マーリン怪我は?」
「いや、大丈夫だけど」
「どういう事なんだ!あんた何か知ってるんだろ!」
「僕だって分からない、けどあの猫から電磁波を感じた。恐らくだが、現実世界の猫じゃないってとこだろう」
「……召喚獣ってこと?」
スイッチを使って現実世界に呼び出されるもの、魔法や武器、召喚獣、全ては電磁波を多少ならず纏っている
それらは全てスイッチ保持者が展開する事の出来る、特殊なフィールドの中でしか実在することは出来ないとされている
また別に言い換えればフィールドさえ展開されていれば、スイッチを持っていなくとも、知識があればscopeの物をこちらに呼び出すことが出来る
「でもフィールドは展開されてないぞ!」
「本当に何も知らないんだな。使い慣れた人間ならフィールドの大きさを調整する事だってできる。
猫の周りに小規模のフィールドを常に展開させているんだろう。そんなこと出来るのはギルドマスターぐらいだろう」
「それじゃあ、あの猫はギルドマスターの召喚獣ってことか」
暫くこちらの様子を伺っていた猫がにゃあとひと鳴きすると何も無い空間からフードを深く被った黒いマントの人間が飛び出してきた
咄嗟に気づいたガラハッドはダビデの剣で相手の刀剣を受け止めた
「ックソ!」
相手の力は想像より強くガラハッドは弾かれた
首元にピタリと付けられた刀剣からは微弱な電磁波を感じる
僕の位置からではこいつの顔を見ることが出来ない
こいつは一体何処から現れた?猫はどこへ消えた?
「ガラハッドから離れろ、不審者!」
マーリンが振り上げた杖は難なくよけられたが、ガラハッドが体制を立て直すには充分だった
「このっ避けばっかいないで、攻撃をしたらどうなんだ!!」
マントの人間はガラハッドの攻撃を難なく避ける
そこに新たな影が出現した
「ちょっと避けろ!邪魔!」
「お前のタイミングがっ悪いんだ!」
「あんたねぇ!人が折角援護してやってんだから!」
「2人とも言い合ってる場合じゃないだろ!」
二人のコンビネーションは、酷かった
いや、酷いなんて言葉では表しては駄目だろう
ガラハッドが前に出るタイミングでゼノビアも踏み出してお互いにぶつかるし、ゼノビアが剣を振るタイミングでガラハッドが先に敵に攻撃してしまい位置がずれる
そのうち敵そっちのけで言い合いを始めてしまった
「おいっ2人とも!そんなことしてる場合じゃないって言ってるだろ!」
「こいつが僕の間合いに入るのが悪いんだ」
「あんたが僕に合わせないからだろ!僕より偉そうにするなら合わせろよ」
「なんだと?」
スッとマントの人間が言い合いをしている2人の後ろに立ったのを見た
声を掛けようと思ったが、少しだけ戸惑った
良く考えてみろ、勝手に言い合いを始めたんだ
実力はあるんだし少しぐらい痛い目にあってもいいのではないだろうか
手を挙げたマントの人間は2人の頭を刀剣の鞘で叩く
パコンっと中身が空っぽのものを叩いた時の音がした
「「何をする!/何するんだよ!」」
「はぁー。お2人こそ何をしていらっしゃるんですか。敵を目前にして喧嘩を始めるだなんて、どうぞ好きに攻撃してくださいと言っているようなものですよ」
フードを外して出た顔はスイッチを手にした初日に自分たちをギルドマスターの元へと案内してくれた騎士 ベルトランだ
眉間に皺を寄せて、端正な顔を少し歪ませている姿はマーリンから見て、怒っている風に見えた
「ベルさん!」
「えっ、ベルトランって事は、え?」
「あの猫はベルトランだったってことか」
キッとベルトランを睨みつけたガラハッドはその手からダビデの剣を消す
「違いますよ。猫は猫。私は猫に位置交換魔法を掛けて成り代わっただけです。
今回の任務はお2人のチームワークを見ることですから、騎士たるものどんな時も規律を乱さず迅速に対応すべきですからね。」
やっぱり、俺はおまけだった。
苦笑したマーリンにベルトランは視線を向ける
同情を宿した瞳が向けられて思わずため息をついた俺は悪くない
「そんなことより!猫は!」
「え、ああ、猫でしたらこちらに」
マントの下から猫を取り出した
一体どこにしまっていたのか疑問だが恐らく聞いてもはぐらかされる
ベルトランは優しいが、何でもかんでも教えてくれる訳では無い
特に騎士ギルドの理念には厳しいし、流儀や技などは代々伝わるものだから易々と他人に教えていいものではないとか、信念をもって物事を見ている
俺からしたら、教えてくれてもいーじゃんって感じだけれども
「それにしてもこの猫、かっわいくないわね」
ゼノビアが猫を抱き上げていう
段々と口調が女の子に戻ってきているがいいのだろうか
ゼノビアに可愛くないと言われた猫は、不満そうにゼノビアを見上げるとその腕から抜け出して俺の方に歩いてきた
「ゼノビア。君は少し他者を思いやる気持ちを持ちましょう。」
「全くだな」
「ガラハッド。君も少しは相手に譲るということを知りましょう。ギルドに入った以上協力して動くことも多くなりますから」
「ほんとよ」
ベルトランは神妙な顔をして二人を見た
どちらも分かっているのかどうか微妙だが…。
これは時間をかけて教え込むしかないとベルトランが右手をぐっと握り意気込んでいる
あぁ、ベルさん教育係にでも任命されたんだなぁと考えながら足元でひと鳴きした猫を抱き上げた
「この猫をエドワードの所に連れていけばいいんですよね」
「その必要はにゃいんじゃにゃい、つってw」
ひょいっと抱き上げていた猫が宙に浮いた
正確に言えば後ろから取られたのだ
「おい、その猫を返せ」
「あらら、残念だけどこの猫は貰っちゃうんだよなぁ」
パチンっという音とともに猫が弾けて消えた
あんたねぇ!とゼノビアが怒鳴る声が響いたが、猫を消した男ー安吾は悪びれた様子を全く見せずケラケラ笑っている
「彼から離れてください」
「えー、酷くね?俺とマーリンは友達だぜ?」
な、マーリン!とそりゃもういい笑顔で言うものだからNOとも言えないし、かと言って他3人があまりにも敵意を安吾に向けているからyesとも言えない状態だった
「ま、いいやそこは。今日はさー、お前に用があってきたわけよ」
マーリンの肩を肘掛にしながら、安吾はガラハッドに視線を向ける
向けられたガラハッドは身を固くした
「僕になんの用だ」
「お前の持ってるダビデの剣ともう1個、俺達にちょーだい。」
その音色は完全に語尾にハートマークが付いていた
一方で言われたガラハッドは人1人ぐらい殺せそうな視線で安吾を睨みつけていた
「今すぐ猫を返して、ここからいなくなってください。出なければ通報します」
「ふぅん。誰に通報すんの?ギルドマスター、運営?ま、俺はどっちが来てもいいけどね。あ、警察とか?」
その言葉に反応したのは煽られたベルトランでもなければ、物をよこせと言われたガラハッドでもなかった
「あんったねぇ!!さっきから何なの!急に現れて猫をどこかに消して、挙句人のもの寄越せってどういう事なの!」
「随分気の強い女の子だな。うーん、好みじゃねぇけど別にいいぜ」
「あた……僕を女扱いするなよ!」
「いっひっひっひ、身の丈にあってない格好はお前をみすぼらしくするだけだぜ?プライド持てよなぁおじょーちゃん」
誰が見ても頭に血が上っているが丸わかりだった
面白おかしく煽るように言葉を紡ぐ安吾に対して、侮辱されたゼノビアは両の拳を力強く握りして今にも殴り掛かろうとしている
その肩をベルトランが抑えてなければスグにでも殴り掛かるだろう
当たるかどうかは分からないが…
「おら、こっちも忙しいんだわ。早く出してチョーダイよ、少年」
「巫山戯るな。お前みたいな野良に渡すものは何も無い」
「あらま失礼しちゃうわ!俺、野良じゃないし。俺は力尽くで奪ってもいいんだぜ?」
「ふんっ、野良じゃないだと?お前みたいな蛮族がギルドに属してるなんて、随分野蛮なんだなそのギルドは」
スッと安吾を取り巻く空気が変わったのをマーリンは隣に立っていたためすぐに感じた
ベルトランもゼノビアを抑えながら、焦った顔をした
マーリンの肩から肘を外した安吾は姿勢を正してガラハッドを見据える
身長差から必然的にガラハッドを見下げることになるのだが
「何言われようが気にしないけどさ……。一応ね、ギルドを侮辱するなら俺も黙っちゃられないんだわ。
お前んとこ、どこだっけ。あぁ騎士ギルドとか言う弱っちぃギルドか……」
「あんご」
「落ち着いてください!ガラハッドも相手を刺激しないように…。
あなたも、次期にギルドマスターがここに到着しますよ!」
誰にも口を挟ませやしないと焦ったように口を開いたベルトランと納得いかないとゼノビア、ガラハッドがベルトランを見る
マーリン、と小声で呼ばれた俺は安吾を見る
「つるむ相手は考えた方がいいぜ」
真っ直ぐに三人を見据えたままの安吾の言葉に、それは誰に向けて言った言葉なのか、確かめようとした所トーくんの通知音が小さくなった
端末を取り出して画面を確認した安吾は舌打ちを一つ零してから軽快なリズムで端末の画面を叩いている
「おーい、悪いけど用事できたんで俺帰るわ。んじゃ」
さっぱりと踵を返していく安吾と呆気に取られるマーリン含めての4人
「え、ちょっ、え」
「はぁ!?なんなのあいつ!!!」
「……二度と会いたくないな」
「自由ですね……。」
全くもって納得のいかない2人と、ただただ混乱しているマーリン
じっと安吾の去っていった方向を見つめるベルトラン
掻き乱すだけかき乱した彼にそれぞれ思う所はあったようだが、共通していたのは出来れば二度と関わりたくないということだった
「あっ、猫!!!」
ゼノビアの悲鳴に近い言葉にベルトランが「エドワードにきちんと説明すればきっと大丈夫」だと優しく声をかける
結局言葉の意味を聞くことが出来なかったなぁと1人考えながら4人はエドワードの到着をまった
第3話 協力って案外難しい end