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第1話 scope

「来たぁぁぁぁぁ!!!」


うひゃぁぁあと両手に小さなスマホを握りしめ歓喜の声を上げたのは

scopeでマーリンと名乗る少年


「毎日やり込んだかいがあったなぁ!超高難易度クエスト『ストーンヘンジ』をクリア出来るだなんて思ってもみなかった!!チームメイトには感謝だな」



それはそれは誇らしそうに端末を眺めていると、ピピッと小さな音を立てて通知が来る

scope専用トークアプリ トーくんの通知音だがマーリンはそこに書かれた名前をみて飛び上がった



「五大ギルドのマスターの1人からだ!!ん?んん?シ、シグムンド!?!?戦士ギルドのマスターじゃん」



『今すぐscopeのギルド広場にこい』



慌ててパソコンを立ち上げるとscopeを起動させる

scopeに入り込むためのコードを腕に付けると目を閉じた









「おお、中央都市ブリタニア。土曜日の午前中は人も多いなぁ」


scopeのメイン都市の一つであり、ギルドの殆どもここ

中央都市ブリタニアに集まっている


ここからならどの地方にも行きやすい為、商業施設も発展しているのだ


選んだ種族によってはブリタニアを苦手とする人もいるが殆どの中身のあるキャラクターはブリタニアを拠点としているだろう




ギルド中央広場に着くと、細身の中性的な顔立ちの少女が立っていた

ショートカットでパッと見、完全に少年だ



「……あんたも、シグムンドに呼ばれたの」


「あ、うん。キミは女の子?」


「……僕はゼノビア。確かに女だけど、女扱いしたらぶん殴るから」


「お、おう。俺はマーリン。宜しく、ゼノビア」



ゼノビアは差し出されたマーリンの手をムスッとした顔で見る

暫く見つめた後、その手を握った



「あんたは嫌いじゃない。好きでもないけど」


「えぇっと…ありがとう?」


「何それ」



小さくゼノビアが笑ったのと、マーリンたちに声がかかるのとほとんど同じタイミングだった



ギルドからの使いだと名乗る 騎士の格好をした青年


「私はベルトランです。気軽にベルとでも呼んでください。

ギルドマスターたちがお待ちですので、私に着いてきてください」



爽やかな笑顔を浮べたベルトランは、こちらですと中央ギルド施設に入っていく、五大ギルドに所属している者しか入れないこの施設に初めて入ったマーリンはキョロキョロと、興味深そうにあたりを見回す


一歩後ろを歩いていたゼノビアも視線だけであるが忙しなく動かしていた





「失礼致します。ベルトランです。件の二人を連れてまいりました」




エントランスの中央にある、大きな扉に声をかければギギと音を立てて扉が開かれる


中には5人のギルドマスターとその付き人がいる




「へぇ、君たちがね」


白銀の長髪をサラリと一つに束ねた、優雅さを醸し出す騎士


「私は、エドワード。騎士ギルドの長をしている」



あのブラックプリンスの異名を持つ騎士団長だ、と小さくマーリンは呟いた

呟きが聞こえたのか分からないがエドワードはマーリンに綺麗な笑みを向ける




「ぼくは鼠小僧!盗賊ギルドのマスターだよ!」


小学生ぐらいの身長しかないだろう少年は、ニッコリと笑った

腰にはポーチが大量についている


あんなに小さい子供がマスター?とゼノビアが言葉を漏らした



「scope上での見た目はこんなんだけど、きちんとマスターだから心配しないで!」





「人を見かけで判断してはいけまへんなぁ。

わては魔術師ギルドマスターのファウストさかい。よろしゅうな」



「関西の人なんですか?」



「いんや、雰囲気だけやで」



フードを深くかぶっているが、ぴょこぴょこと癖毛がはみ出ている

左目にはモノクルを付けている

どこか胡散臭い笑顔を浮かべてゼノビアを見ている




「私は、聖職ギルドの主 ジャンヌ・ダルクですわ。

どうぞ宜しくお願い致します」


真っ白い衣装に身を包んだジャンヌ

髪飾りの真っ赤な花が強烈な印象を与える



「最後に俺が、戦士ギルドのマスター シグムンドだ。

今回おめぇらふたりを呼んだのは他でもない異能スイッチの件だ。

他のスイッチ保持者とはもう話してある」



長いロングコートを着て、背には大剣

明らかにガタイのいいシグムンドは、ギルドマスター達の中でもとびきり明るい笑顔を二人に向けた


「おめぇらには五大ギルドに所属してもらう。

マーリンおめぇは恒星学園の生徒らしいな、だったらファウストんとこに入れ」


有無を言わせぬと言った力強さで、ギルド所属契約書をマーリンに渡す

何故自分の通う学校がバレているのか



「そない不安そうな顔せんでええやんけ。

自分気づいとらんかも知れへんが、わてと同じ学校通っとるんやで」



可哀想に…とゼノビアが隣で呟いた




「んで、そうだな……。そっちの細っこいのは」


「僕は騎士ギルドに入りたい」



シグムンドの言葉を遮るようにゼノビアが一歩前に出た

真っ直ぐに発された言葉は数名のギルドマスターを困らせたらしい



「でもでも、騎士ギルドにはもう一人入っちゃったもんね?同じギルドにいきなり2人も入れるのは不味いんじゃないかな?」


鼠小僧が、同意を求める

ジャンヌも同意見らしく困った顔をしながら小さく頷いた



「僕は湖の騎士のランスロットを探しているんです!彼は騎士ギルドに所属していた」


その言葉に反応したのはギルドマスター達ではなく、ベルトランと共に入口付近に立っていた少年だった

少年は言葉を発するでなく、俯いていた顔を上げてただじっとゼノビアを睨むように見ている



「しかし、ランスロットは我がギルドにはあまり顔を出さないぞ」


エドワードが微笑んだ顔のまま、しかしどことなく棘のある口調でゼノビアを見た

目の奥が冷たく射るようにこちらを見定めている

誰かが咳払いをした



「ええやん、エドワンが二人新人いてもいいっちゅーなら」


「だめだめー!そんなのエドワードが大変だよ!騎士ギルドは元々の人数だって多いんだし!」



「それに、騎士ギルドは女性が入るところではありませんし……」


頬に手を当ててジャンヌはチラリとエドワードを見た

騎士ギルドに所属している者は、事情がある者を除けば男性で構成されている

事情がある者だって元の性別を辿れば男に行き着くものしかいない


特別報酬の異能スイッチは配布される際5人ずつに配られる為、毎期一つのギルドに一人の新人が当たり前になっている


シグムンドは小さく唸った



「僕は反対です。何のためにランスロットを探しているのだか知りませんが、あいつの話をする人にまともな人はいませんから」


「はぁ?なんなのあんた、僕に喧嘩売ってるわけ?」



入口付近に立っている少年が沈黙を破る

腕を組み冷めた瞳でこちらを見る姿は、マーリンの知る湖の騎士ランスロットを想像させる


一昔前、scopeが配信されて間もない頃に今のギルドの基盤を作った人物たちの1人であり

多くの初心者プレイヤーのピンチを突然現れては救い、無言で居なくなるという謎の多い人物である

真っ黒い髪に騎士の格好、手には魔剣アロンダイトを有していたとされる


ヒーロー的な人物ではあるが、実際話しかけても無言で無表情、それか眉を潜めてムッとした顔をしていることが多かったらしく、現在ではヒーロー説と共に関わらない方がいいとされるまでの冷たい人物と記されている


「なんの権限があってランスロットを悪く言うのか知らないけどね!」


「はっ、権限?僕はあいつの……」


「落ち着きなさいガラハッド。良いでしょう。君を我がギルドに迎え入れます」



これまでの会話の中で最も声を張ったエドワードは小さくため息をついた

その音色は咎めるようだった


ガラハッドと呼ばれた少年は腰にかけた剣に手を伸ばしていたが、居心地悪そうにその手を下げた

一方のゼノビアは探している人物を悪く言われたのが相当気に入らなかったのかふんっと鼻を鳴らす


(あの剣どこかで見たことあるな…。)


マーリンはガラハッドの腰に刺さる剣をじっと見つめる


(ちょっと待てよ?ガラハッド……あぁ!思い出した!『ストーンヘンジ』を野良でクリアしたアバターじゃないか!?)


今期に異能スイッチを配られた人たちは皆、超高難易度クエスト『ストーンヘンジ』を高成績でクリアし、尚且つ貢献ポイント上位者の中からランダムで選ばれた5人だ


中でもアバター名ガラハッドは最速クリア且つ貢献ポイント1万を超える超優秀者だった

彼が選ばれずして誰が選ばれると街では噂になったこともある


ついでに言えば、ゼノビアは高成績だが貢献ポイントがイマイチの7500

マーリンは成績自体はチームによるものが大きいがチーム内貢献ポイントは9000と言う優秀さだった



パンッと両手を叩く音が響いた


「エドワンも、こう言っとる事やし今日はもうええやろ!ほな、お疲れ様」


「むぅ…。まぁいいけど」


「ええそうですね。ゼノビアさん、困った事があったらいつでも聖職ギルドにおいでくださいませ。手助けいたしますわ」


「その言い方はないだろう。騎士たるもの男も女も関係は無い。皆平等に騎士道を極めるのみ」


空気を変えるためなのか次々とギルドマスター達は会話をする

ただ1人シグムンドだけが、腕を組んで考え込んでいる



「一つ注意点だか、現実世界でスイッチを起動する場合、つまりscopeの能力を現実世界でも使う場合は我楽多市でしか反応しない。他は運営の方で特別開放された場所のみだ。通知はスイッチに直接来るから常に持ち歩くといいだろう。

また、おめぇらの行動の責任はギルドの評判にも関係する。よく考えてから能力は使うようにしろ」










「ああ、そや、マーリンちょいええか」



殆どの人が退出して行く部屋の中で、ファウストが手招きをする



「自分、無言呪文は使えるか?」


「いえ、俺はまだ」


「得意魔法は」


「エネルギー魔法です。けど一番得意って言うと防御魔法ですね」


防御魔法=バリアは魔法使いを選んだ人が一番最初に覚える初級魔法だ

身を守ることに特化していない魔法使いにとって防御魔法は無くてはならないもの

防御魔法を使えない魔術師なんて、全裸で弾丸の中に突っ込んで行くようなものだとチームメイトが言っていた



「せやったら、時空転送魔法を使えるようにした方がええな。使えんくても剣とか出せれば一般人には威嚇になるさかい」


「い、一般人にですか」


「ほら、スイッチ欲しさに向かってくる勇敢なやつもおるねん。何も出ないよかましやろ。流石にエネルギー魔法を生身の人間にぶつけるのはオススメでけへんし…かと言って防御魔法だけじゃダンゴムシみたいなもんやしなぁ」



その例えは如何なものか


話をするだけして満足したのかファウストはさっさと部屋から出ていってしまった

取り残されたのはマーリンとガラハッド


「なぁ、その剣ってもしかして、ダビデの剣?」


「知っているのか?」


「一日限定クエストの『聖遺物』でランキング1位に送られる特別報酬だよな!すっげぇ」


マーリンとガラハッドはどうやら意気投合したみたいだった




第1話 完

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