人形師の娘
ひだまり童話館「ぴかぴかな話し」参加作品です。
人形師のホワイトのお店には、本物の子どものようにあどけない人形たちがいます。みんな、ホワイトが愛情をこめて作った人形たちです。
― カランカラン ―
「こんにちは」
「ああ、こんにちは。ご注文の人形、できていますよ」
身なりの良い紳士がお店にやってくると、ホワイトはお店の奥から愛らしい紺青色の瞳をした男の子の人形を連れてきました。
「ほら、ご挨拶してごらん」
「はじめまして、ブルーです」
人形が名乗ると紳士は「ほう」と言いました。一緒にいた女の人は手を胸に当てて嬉しそうに笑いました。
「まあ、なんて可愛い。さあ、私たちと一緒に行きましょう」
女の人が言うと、ブルーはホワイトの方を向きました。ホワイトは優しく首を傾げ、ブルーの背中を押しました。
「今日からその人たちが君のお父さんとお母さんだ。行ってきなさい」
「はい」
ブルーは聡明な瞳を輝かせて頷くと、お客さんと一緒に手をつないでお店を出ました。
まるで、本物の子どものように喋ったり歩いたりする人形。それがホワイトの作品です。
お店にはそんな人形があと4体、お客さんが来るのを待っていました。
「セピア、髪の毛を結んであげよう」
「シルバー、今日はメガネをかけてみるかい」
そんな風にホワイトは人形たちに語りかけてあげるので、人形たちはホワイトが大好きでした。
だから、いつもお店の窓から外を見ていましたが、そこに飾られているだけでもちっとも嫌ではありませんでした。
小さなお店の店番を人形たちに任せて、ホワイトはお店の奥に入ってしまいました。
「ねえねえ、また新しい人形を作ってるみたいよ」
「注文が入ったんだね」
「でも、昨日も一昨日もお客さんは来てないわ」
人形たちはお喋りをしながら店番をします。
その内容はホワイトのことばかり。だって、ホワイトが新しい人形を作るとなったら、それはそれは気になりますから。
新しい人形は、お店に飾られるための仲間なのかしら。それとも、注文通りに作ってすぐにお外へ行ってしまうのかしら。
「可愛い子だと良いね」
「優しい子が良いわ」
人形たちは興味深そうに、奥で仕事をしているホワイトをチラチラと見ていました。
― カランカラン ―
少しするとお店の扉が勢いよく開いて、女の子が入ってきました。
「おかえりなさい、リリー」
「おかえり、リリー」
店番をしている人形たちが口々におかえりを言うと、リリーと呼ばれた女の子は腰に手をやり、威張った顔をしました。
「ねえ、あなたたち。私はリリーだけど、ホワイト・リリーよ。間違えないでちょうだい。ホワイトの娘のホワイト・リリーなの。あなたたちとは違うの。学校へ行けるのは私だけ。だからホワイト・リリーって呼んでちょうだい」
そう言い放つと鼻をツンと上に向けて、店の奥へと入って行きました。
残った人形たちは少し不満そうにホワイト・リリーの姿を見ていました。
「なによ。あたしたちだってホワイトさんの娘だわ」
人形たちが言った言葉はホワイト・リリーには届いていませんでした。
ホワイト・リリーが奥に行くと、人形を作っていたホワイトが顔を向けました。
「やあ、ホワイト・リリー。おかえり。学校はどうだった?」
ホワイトはホワイト・リリーに優しく言いました。だけど、ホワイト・リリーはホワイトの顔など見ず、ホワイトが作っている新しい人形の顔を覗き込んでいました。
「そうね。学校なんて、退屈。ねえ、このお人形、もうすぐね。あとは目を入れるだけ?」
ホワイトは少し寂しそうにホワイト・リリーを眺めました。
「そうだよ。人形は瞳に命が宿るからね。美しく曇りなく輝いている素材を探しているんだ」
その言葉を聞くと、ホワイト・リリーはとても嬉しそうに笑顔を作り、壁にかかった鏡を覗き込みました。
鏡に映るホワイト・リリーの瞳は真っ黒でとても魅力的でした。
ホワイト・リリーが見惚れるように鏡の中の自分の目を見つめていると、その後ろにホワイトが立っていました。
「ホ、」
「学校が退屈な子に、その瞳はもったいないね・・・残念だけど」
そう言って、ホワイトはホワイト・リリーの顔からその目を取り出しました。
そしてその目を、新しい人形に付けると、新しい人形の目はぴかぴかと輝き、瞬きをして、にっこりと笑いました。
「やあ、ホワイト・リリー」
「はい。私はホワイト・リリーです」
新しい人形はホワイトに向いてその瞳を光らせました。
「ホワイト・リリーは僕の娘だよ」
「はい、お父さん」
「その瞳に恥じないような、優しく勤勉な娘になっておくれ」
ホワイトはそう言って新しい人形の頭を撫でました。
店から見ていた人形たちは
「ほうらね」
と、最上の瞳を取られて動かなくなったホワイト・リリーをあざ笑うのでした。