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その日彼は振られた

シリアスじゃないんだ。すまない!

 かつて人々に苦しみを与える悪魔から世界を守った勇者と仲間達がいた。

 彼らは強く美しく、時に多くの者に希望を持たせた。その雄姿は今なお語り継がれている。


 ただ不思議なことに、いくつもの伝説がありながら、彼等が世界を救ったその後を知るものはいない。

 だから続きを語ろう。勇者たちの物語。その続きを、そう彼らは今……





「と言うわけでさ、俺があの伝説のパーティーの一人なわけだ」


 とある街のとある喫茶店で男が女に自慢げに語っていた。その声に一瞬手を止める客や、慣れているのか聞き流す者。不機嫌そうに昼間から酒を飲む者。何にせよ、多種多様な客でその店はそれなりには賑わっている。


 ただ、多くの人がいるなかで、一つ共通点があるとすれば、それは男の言葉を本気で信じている者が誰一人として居ない事だろう。


「えー絶対嘘だー」

「いやいや、ほんとほんと。だから生きる伝説でもある俺と一緒に良い事しにいかない?」

「そんな事言って、いやらしい事するつもりでしょう?」


 ただ周りの事など一切気にした様子も見せず、男は女を口説き続ける。


「いやいや、俺がそんな軽薄な男に見える? 俺はいつだって真剣だぜ?」

「えーどうしようかなー」

「よし、じゃあとりあえず一緒に宿屋にいって親睦を深めようか」

「もー私そんな軽い女じゃないし」


 しかし言葉では男を拒否しながらも、満更でもない女の様子に、男はそっと手を取ると、真剣な顔をして口を開く。


「君みたいな可愛い娘に出会うのは初めてだ。生まれて初めてだよ、こんな経験は。そう! 俺は君に一目惚れをしたんだ」

「そ、そんな事言われても」


 歯の浮くようなセリフだった。しかし幸いな事に男はそんな言葉が似合うくらいには顔も整っているのだ。口説かれている若い女が、恥ずかしそうにしながらも、その手を放す事が無いのがその証拠だろう。


「一時の思い出でもいい。君と二人の時間を過ごしたい」

「……そこまで言うなら、少しだけだよ?」

「勿論さ」

 男は内心でガッツポーズをした。勿論それを顔に出すような事はしない。なにせ目の前の女はそれなりに可愛く整った容姿をしていたのだ。男も最後の詰めを誤るような真似はしない。


「じゃあ行こうかお嬢さん」

「うん」


 立ち上がった男が差し出す手に、女は頷くとその手を掴み、力を込める。


(へへ、かわい子ちゃんゲットだぜ、少し若い気もするが、まあ良いさ)


 唇の端が下品に吊り上がりそうになるのを必死で我慢しながら、喜びを噛み締める男。

 彼の脳内では既に目の前の女とのベッドの中での、あれやこれやの行為にまで妄想は発展していた。


「まちな嬢ちゃん」

「「え?」」


 だがそんな男に今まさに不幸をもたらさんとばかりに、むさくるしい男の声が響いた。――声の印象に関しては主に男の個人的感想である――


「悪いことは言わない。嬢ちゃん、そいつは辞めときな」

「おいおいおい、おっさん。どういうつもりだ?」

「はっ、どうしたもこうしたもねえよ! お嬢ちゃん、そいつについて言っても泣きを見るだけだぜ?」

「言いがかりはよせよおっさん」

「あ、あの」


 いきなり近づいてきた中年の男。その中年と男が言い合いを始めたことにより、女は意味が分からず不安そうに瞳をさまよわせる。しかしそんな彼女を無視して二人のやり取りは続いた。


「忘れたとは言わせねえぞ! てめえが一週間前に口説いた女の事を!」

「え、どういう事?」

「いやいや、このおっさん何か勘違いしてるんだ。俺に覚えは無いし、悲しい誤解、人違いだ」

「うっせえ! 表出ろ!」

「きゃあっ!」


 戸惑う女に慌てて弁解しようとする男。――余談だが、男は一週間前に三人ほど口説いているのでどれなのか見当がつかない。つまり心当たりが無いという事になるのだ――

 しかしその態度がますます中年の癇に触れたようで、中年はいらだったように二人の間にある机を叩いた。その行為に女は悲鳴を上げて、その場に尻餅をついてしまう。

 そしてその時めくれ上がったスカートの中身がピンクだったのは女と、すかさず除き見た斜め前の男との秘密だった。


「おい、おっさん。いい加減にしろよ」


 さすがにその態度が我慢できなかったのか、庇うように女の前に立ち中年を怒鳴りつけ睨む男。内心は女を庇う今の俺かっけーとか思っていたのだが、それはまた別の話である。



「いい加減にするのはてめえだよ!」

「ちっ、こっちがおとなしくしてりゃ、いい気になりやがって。良いぜ、表出ろよ」

「ぶちのめしてやる」

「こっちのセリフだ……とお嬢さん悪いけど」


 男が、店を出る前に女に話をと振りかえる。安心させるように笑顔を浮かべようとする男だったが、目の前の光景にその顔は一瞬にして凍り付いた。


「大丈夫ですか、お嬢さん」

「ごめんなさい、その、ありがとうございます」

「いえ、ここは危険です。私と一緒に行きましょう」

「はい。あ、あのお兄さん。お名前は?」

「名乗る程の者ではありません。ではお嬢さん。お手をどうぞ」

「はい」


 尻餅をつく女を助ける、紳士的な美男子。そして瞳を潤ませてその差し伸ばされた手を受け入れる女。

 その光景はまるで物語の1ページのようで、さらにそれを際立たせる紳士的な男に見惚れそうな程であった。

ただし、凍り付く彼が女だったらの話である。さらに言えば自分の口説いていた相手を横から掻っ攫われた形でなければだ。あと彼が両刀使いなどと言う落ちは無い。


「おいおい騎士様は人の女に手を出すのかい?」


 まるで物語の主人公にやられる悪役のようなセリフを吐きながら、男は相手の紳士に詰め寄る。


「いや、そのようなつもりは無いさ。ただ、彼女に危険が及びそうだったのでね」

「心配しなくても俺が守るさ」

「結構です!」

「え?」


 女の叫ぶような拒絶の言葉。男の目の前は真っ暗に……なりはしなかったが、驚いたように女の顔を凝視した。その男の顔は何を言われたのか分からないと言いたげであった。


「私この人と行きます」

「い、いやでもさ」

「一週間前に口説いた女ってどういう事ですか!?」

「い、いやあれは誤解で」

「誤解じゃねえぞ。こいつその時も一目惚れしたっていってたぞー」

「黙れおっさん!」

「因みに俺の自慢の娘だ」

「ち、違う。あの時は一目惚れじゃなくてだな」


 おっさんの衝撃の言葉に、男はまるで心当たりでもあるかのように動揺した姿を周囲に晒してしまう。恐らく図星なのだろう。


「うちのアンナが可愛くないってのか!」

「い、いやアンナは可愛い。いや、そうじゃなくて」

「……最低。屑野郎死ねばいいのに」

「そんな」


 女の冷たい瞳、そしてその冷たい言葉と悲しい誤解を前に、男はその場に崩れ落ちた。


「お兄さん行きましょう」

「ああ、はい」


 二人が通り過ぎる時も男は、ただ地面を見つめていた。そんな男を哀れに思ったのか肩に誰かの手が優しくおかれた。

 その優しさと、ぬくもりに男は思わず顔を上げた。


「その、元気出してください。ですがほどほどにしてくださいね」

「お兄さん、そんなやつほっといて行きましょう」


 本気で気遣うかのような紳士の顔。彼は真のイケメンと呼ばれる男であった。

――因みにイケメンとは逝っちゃってる面の事では無い、あとこの世界にその名称があるのかも現時点では不明である――

 男はこの時敗北した。男にとって、ここまでの敗北は人生で初めての事では無かったので、そこまでのダメージは無かった。だがすぐに立ち上がるのも恰好悪い気がして、そのままの姿勢を維持した。








「あともう少しだだったのに、なんで邪魔すんだよ?」

「ふざけんな。うちの娘口説いたくせに、他の女まで口説きやがって!」

「いや、だってよく考えたらアンナは駄目かなって思ったもんでよ」

「当たり前だろうが! アンナはまだ13歳なんだぞ。お前と12歳も差があるだろうが。死んじまえほら吹き野郎」

「いや、社交辞令みたいなもんじゃねえか。それにアンナは後数年で凄い美人になると思う。あと誰がほら吹きだ」

「お前だお前。大体あの悪魔が倒されたのは10年前だろうが! じゃあお前は15歳で世界を救ったってか? ふざけんな馬鹿が。あとアンナは今でも絶世の美少女だ」

「美少女なのは認める。だがさすがに13歳はまずい。あと15歳でも世界救えるから。周りの奴等に庇ってもらいながら後ろから魔法をぶっ放せばな」

「ざけんな。てめえ魔法なんか使えねえだろうが」


 魔法……それは世界でも少数の限られた人間にしか手に入らない力。その力があるかどうかは生まれてすぐにわかるのだ。

 具体的に説明すると魔法石と呼ばれる物を近づければ、その石が光るのですぐにわかるのである。

 ついでに言うと魔法石などと大それた名前で呼ばれているが、子供の小遣いでも購入することが出来る代物で、魔法使いを特定できる以外に何の使い道も無い。

 そして魔法石は今もこの場に、メニューが風に飛ばされないように、重石がわりにも置かれている。勿論光ってはいない。


「使えるさ、ただ場所を限定されてるのと一人じゃ使えないだけだ。それさえ乗り越えりゃ効果は絶大の人を癒す魔法さ」

「ベッドの上の行為は魔法じゃねえし、癒されるのは主にてめえだけだ」

「おいおい下品な事を言うのはやめろよ。若い娘の前で下品なおっさんだよ、なあリーナちゃん?」


 そう言って男が視線を向けた先には、店員専用のかわいらしいエプロンドレスを身にまとう、長く美しい髪の若い女が笑顔を浮かべ立っていた。彼女は凄く可愛い、この店の看板娘である。

 しかしいくら可愛くても彼女の父親は元凄腕冒険者で現在はこの店のマスターであるのだ。彼女に手を出したら死ぬ可能性は否定できない。


「はいはい、お二人とも店内で喧嘩はやめてくださいね」

「リーナちゃん聞いてくれよ。俺今振られて落ち込んでんだよ。主にこのおっさんのせいでさ」

「そうなんですか?」

「いや、違うからな。こいつがアンナを口説いて泣かせて不幸にしたからだから」

「いやいや違うってリーナちゃん。俺はリーナちゃんだけだし、それにアンナはまだ子供だぜ? 俺が口説くわけ無いってわかるだろ?」

「……そうですね」

「ほら聞いたかおっさん! いい女はいつだっていい男の本質を分かってるもんさ」

「いい女だなんて、もうからかわないでくださいよ」


 恥じらいながらも少し嬉しそうな彼女だが、男の本質を分かっているかは不明である。


「いや、リーナちゃん。こいつは信用しちゃ駄目だぞ」

「見苦しいぞおっさん。俺とリーナちゃんの愛の前には、おっさんの言葉など塵も同然だ」

「でもやっぱりアンナちゃんはまだ子供だから手を出すのは駄目だと思います」


 男なら一瞬で惚れて告白からベッドインしたいなと思う笑顔を浮かべて、彼女はレドの本質を言い当てる言葉を放つ。


「……」

「ぶっは。ち、塵かーそうかー。そうだ!なあお前さん何か言ってなかったか? りーナちゃんとの愛がなんだって?」

「……」

「ほらほら言ってみろよ? 愛がなんだって?」

「むやみやたらと女の子に手を出したら駄目ですよ?」

「そうだぞー」

「……はっ! 世の中はいつだって俺を分かっちゃくれない」


 女に関して信用が無いナイスガイ(自称)な彼の名はレド。かつて世界を救った伝説のパーティーの一人である(自称)。一応この物語の主人公である。



彼はこの日、口説いた女に振られた……3日前にも振られた……振られのだ!



あ、どうも。読んでもらってありがとうございます。

リハビリがてら適当に続きます。設定は適当ですが適当にストーリーや裏設定もたぶん適当にあります。

感想とかも適当に書いても貰えると喜びます。あといい加減的な意味での適当なので適当ですはい。

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