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或いは愛と暴力に満ちた星2

終業のホームルームを終えた教室は危険地帯だ。


「名雲くん!」「おーい!」「皐月!」「はじめちゃーん!」「おいーっす」「結衣月漂馬ぁ!」「たのもー!」「はいはーい沓木お姉さんですよーぅ!」


なんか大量の男女が教室に雪崩れ込み、こっちはこっちで半数くらいのクラスメイトが既に姿を消している。

そして戦争と言って差し支え無い暴力と誘拐と血飛沫等の不徳的阿鼻叫喚が飛び交う。

世は個人戦国時代か。

それらを躱すのは至難なので僕は席に着いて喧騒の潮引きを待つ。


「愛流くん、一緒に「やだよ」帰らない、んだね」


清河さんが無駄に話し掛けて来たので紳士的に断った。

普段なら素気無い態度はクラスメイトの反感を買うので避けなくてはならないが、終業時間はそれが気付かれないので問題ない。


清河さんはしずしずと喧騒の中を素通りして帰って行った。周囲はなんか自然と道を空けて通した。


一時期は注目の的である彼女と共に下駄箱まで同行する事でボディーガードにしていたが、それを見る周囲の様子が危険なものになっていたので最近は誘いを断る様にしている。


清河さんの近辺は聖域だが、一歩離れれば嫉妬渦巻く嵐の中に居るようなものなのだ。

凪いだ渦中に立つよりも距離を置いて耐えられる風を浴びてるほうがまだ安心だ。


「よう悟。相変わらず素気無いなあ、お前は」

「数馬…」


清河さんを見送った僕に声を掛けた男は麻木数馬あさぎかずまだ。

幼稚園児の頃からの腐れ縁を持つ親友だった男だ、本人は今も親友のつもりだろう。


「数馬は清河さんが可哀想だとか思ってる?」

「それなりにはな。ただまあ、事情が事情だしな」


数馬は僕の、“ラブコメの波動”に関するアレコレを説明して、唯一理解を示してくれた男だ。

他はまあ、ちょっと精神を疑われた的なアレだ。


「だが悟、今日断ったのはまずかったかもな」

「え…何かあったのか」


彼は僕の無力を理解して協力する事を約束してくれた男だ。


「何かって事じゃあないんだが、続けて断り過ぎた」


こういう男こそ親友と呼びたいし、親友と呼んでくれる。僕も親友と呼びたい。


「お前と清河さんとの道は潰えたかもな。彼女、暴力を振るうタイプじゃなかったのに。勿体ねえ」


では何故親友と呼ばないのかと言うと


「数馬、清河さんの好感度は?」

「57点、て所だな」


なんか恋愛シュミレーションゲームとかの、パラメータとか教えてくれるキャラみたいになってしまっているからだ。


「数馬。何でお前はそうなっちゃったんだろうな」

「なんで俺がそんなん言われるんだよ」


そう言いながら数馬は胸ポケットからステータス画面と言う名の手帳を取り出して何かを書き込んでいる。

見た事は無いが聞く所によると、僕と関わりを持ちそうな女の子の情報を逐一チェックしているらしい。

気持ち悪い事この上ない。


「まさか摘田さんの事は書いてないだろうな」

「誕生日と住所までは、へへ、特定したが好感度までは知らん」

「お前怖いよ、なんかもう、怖いわマジで」

「探偵の卵だからな、いい練習になる」


多分、探偵に失礼だなと僕は思った。




落ち着きをある程度取り戻した教室を抜け、校舎を出た僕の目の前に、僕のクラスの担任を装った頭のおかしい露出狂然とした謎の服を着た女が現れたが徹底的に無視して敷地を出る。


確か先生はコスプレ研究会だかの顧問をやっており、ライトノベルを読む僕によく勧誘を仕掛けていたような気がしないでもないかもしれない。


チラと振り返ってみるとなんかブリッジをしながらこっちを見ていた。

通報を考えたが、過去三度通報されて「アウトに限りなく近いセーフ」判定を貰っていた服たちとあまり変わらないやつだったので無駄だろうと辟易して家路に着く。


途中、商店街へ寄り道して食材を適当に買い足す。

周囲を見ると異常に若いマダムの方々に一々美人だからと言ってオマケを付けていく八百屋や魚屋が目に付く。

お前らそれで経営成り立つのかと疑問でならない。


迷子になったのであろう幼女が「ままぁーどこなのぉー」と小声ですんすん泣きながら歩いているのを見掛けるが無視する。

毎日見掛けるからだ。

最初二週間程は律儀に対応していたが、毎回それなりに苦労した末にやたら美人な母親に感謝されて幼女に将来を誓われるのはもう勘弁して頂きたい。


後は家に帰ってなんやかんやして寝るだけだな。


「あ、あんたクラスの人よね」


そう思っていたら摘田さんに話しかけられた。


「摘田さん、どうしたんだい」

「帰りに道草食ってたら商店街を見付けたのよ」

「なるほど、じゃあ僕はこれで」


紳士的に話を切り上げて帰路に着い


「ちょちょちょ、待ちなさいよ」


着かせてくれなかった。摘田さんはなんか僕の袖を掴んで来た。

なんだこの野郎、卵が割れちゃうじゃないか。


「何か用かい、摘田さん」

「あなた、なんか怪しいのよね」


怪しいのは転校初日にそんな事を口走るお前だ。とは言わず、理由を聞く事にする。


「あなた、何処に住んでるの?ひょっとしてーーー」


そう言って摘田さんが言った住所はモロに僕の住所だった。

困惑した僕を見て摘田さんは溜息を吐いた。そしておもむろに足元にあった石を拾って握った。

おい、その凶器から手を離せ。とは言わず話の続きを促す。


「確かに僕はそこに住んでる。なにかマズい事があるのかな」

「そこ、私んちの隣なのよ」


おっと。僕はそう思った。

摘田さんの周りに何処からともなく花がひらひら生えてきた。

この世間の価値観で言えばそれは当たり前の出来事過ぎて流されるものだが、僕からすれば無視出来ない現象だ。


「失礼しちゃうわね!」


どうやって花を散らそうか逡巡している内に摘田さんは腕を振り回して花を散らしてしまった。

そして僕をビシリと指差して宣言した。


「いいこと?私はそこらのお花畑とは違うのよ!あなたの事なんかなんとも思ってないんだからね!」

「君は花の意味が分かるのか」

「私を可愛いって言ってみなさい」

「可愛い」


くっ、と声を洩らして摘田さんの右手が赤熱する。

撲殺される事を恐れて距離を取った僕を無視して、摘田さんは右手に握った石を握り砕いてしまった。

摘田さんは悲壮な顔で僕を睥睨する。


「あなた、おかしいと思わないの?常識的に考えて普通、女の子がこんな事出来るわけないでしょ」


「君は花の意味が分かるんだな」


「私は出来るだけ、誰も殴りたくなんかないのよ。特に巻き込んだ人なんかは」


なんて事だ!僕はただただ驚愕するばかりだ。

僕は“ラブコメの波動”を逃れたから認識出来るが、

目の前に立つ摘田ゆかりは自らが過剰な暴力を振るえる事に疑問を持っていると言うのだ。


「摘田さん。僕は君に話さなくてはならない事がある」


僕は摘田さんに“ラブコメの波動”に関する事を打ち明ける決心を付けた。


「嫌よ」

「え?」


「あなたの都合は知らないけど、私はあなたの物語に関わる気は無いの」


そう言った摘田さんはとっとと踵を返して歩き去った。


僕は呆気に取られてそれを見送って、


「どうしよう」


どうしようか悩んだ。

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