最強の勇者
俺は最強だった。
過去形だ。
俺は神からの信託を受けた勇者とし育てられた。
周囲の期待どうり俺は最強の勇者となっていた。
僅か9歳の時には一人でワイバーンを狩ることが出来るほどに最強だった。
ワイバーンは竜種の中では最弱の位置付けではあるが、それでも最強の種族に代わり無い。
俺はこの時から考え方が変わっていった。
最初は期待する皆に応えたくて、努力した。
でも、ワイバーンを一人で狩った後の周りの目を見た、俺を畏怖の目で見たり、崇拝するような目で見たり、嫉妬のような目で見られたり、色々な目に晒されて気が付いた。
こいつらは俺より弱い。
俺は別に増長したわけではなかった。
ただ俺を認めはくれず。
俺より弱いくせに、認めはしないが命令してくる奴等が許せなかった。
まず、俺に武を教える者に俺は問いた。
"貴方は私よりも弱い。私は貴方から何を学べばよい?"っと。
その者は俺の居た国でもトップクラスの魔法士だったらしい。
たが、次の日から顔を見ることは無かった。
次に、学を教える者にも同じような質問をした。
その者が去ることは無かったが、書物を俺に渡すだけで、俺と会話することは一切無くなった。
次に、俺に偉そうに命令してきた、国王に問た。
"私は貴方に劣るものが見当たらない。何故貴方に命令されなければならない?"っと。
国王は大変憤慨し俺を引っ捕らえよと周りの兵達に命令を飛ばすが、俺に触れることすら出来るものが居るわけもなく、全員殺した。
殺した理由としては、この国に絶望していたらからだろうか。
いや単に腹が立ったのもあるか。
この時の年齢が16歳だっただろか。
そこからは旅をした。
俺は知識はあるがそれを活かすことはできない。闘うことしか脳がないので、身の回りのことを周りの人間に任せていた。
他の人間を俺は、俺に都合の良い"物"だと思っていた。
そして、月日が流れ俺は死んだ。
理由としては何とも情けないものだった。
19歳となり調子に乗り、腕っぷしの強いものとサポーターを引き連れて、100層以上あるだろうと言われているダンジョンに潜った。
俺はこの頃周りの人間がいらない物と考えていたためか、とても強く当たってしまったりすることがよくあった。
そして、80層越えた辺りで俺は皆に裏切られた。
この裏切りはかなり綿密に練られていたらしく、俺はここで命を落とした。
計画の内容はざっとこんな感じだろう。
80層までのマッピングされた地図と偽物の地図を用意する。
80層に到達した際に、何かと言い訳を付けて帰るように促す。
俺は当然断る。
そんな俺に付いていけないと皆が帰るといい始める。
俺は周りの人間がいらない物だと思っているため、それと俺一人で最奥の間まで行けると思ったため、皆が帰るのを暴言を吐きながら好きにさせた。
勿論いくら強くても食料がなければ死んでしまう。それと、帰りの道がわからなくてもきっと死んでしまう。
そのため、皆がもつ食料半分とマッピングされた地図を受け取り別れる。
これは恐らくだが、俺が一緒に帰るとしても何らかの方法で殺されたと思う。
あいつらはかなり計画を練っていただろうから。
一人になった俺は状況的には、一人80層に取り残され、"何も持っていない"状況になった。
渡された地図は偽物。渡された食料は全て腐敗しておりさらに、毒がしこたま塗られている物だった。
普通の毒なら解毒できるが、毒の種類が本来なら薬とされる物だった。
端的に言えば、睡眠薬や便秘薬と言った物たちだ。
正常な体の働きを促す薬のため、解毒出来ないわけだ。
さらに、俺がいるこの階層上下10層計20層は死霊系モンスターや、ゾンビ系モンスターがばっこするエリアのため、自足することも出来ない。
これらにきずいたのは更に階層を三つばかり上がった時だった。
83層に上がり、食事をしようとした。
当然見た瞬間に腐敗していることなど、直ぐに気づく。
さらに、毒──薬が塗られていることにも気づく。
急ぎ元来た道をひた走り、戻る。
現れるモンスター達は、勇者に与えられるスキル、"光の加護"の前にはどうすること出来ず、灰とかす。
80層に戻り、地図を広げて降りる。
79層に戻り、78層への出口に向かい駆け抜けるとそこにあったのは、エリアボスの広場。
驚きながらも、なんとか倒した。
不意打ちの攻撃を貰い左腕を負傷してはいるが、帰るだけならまだ何とかなる。
地図は偽物のだとこの時に漸く気が付いた。
更に、ダンジョンの地形が少し変えられていた。
普通洞窟に入り迷子になったもしても、理論的にはどちらか一方の壁に手を当て歩き続ければ出口に繋がっている。
だが、出口に繋がる全ての道に土魔法の土壁が出来ており、一層降りることすらままならない。
それでも懸命に出口を探し、魔力残しが残っている壁を壊しながら進み、漸く78層に到達した。
79層同様に一応地図を見ながら77層に繋がる道を進んだが、79層同様にエリアボスの広場に、繋がっていた。
今度は不意を突かれることもなく、相手を光の太刀による一閃のもとに倒した。
ボスの魔石はかなりの物だったと思われるが、今はそれを剥ぎ取る余裕すら無く、出口を探した。
壁に手を当て、魔力残しを探りながら進んでいるときに色々考えた。
この地図は上の階層に昇ることは出来ても下の階層に降りる事は出来ない。
この地図を書いたやつは器用なものだな。
俺に渡した食料は食べられるものでは無かった。
これらを渡したあいつらは、どんな気持ちだったのだろうか。
俺はあいつらに何をしてきたんだろうか。
ただ、暴言を吐きつけただけしか記憶に無いな。
笑いあった事も無い。
あいつらが失敗しているのを一方的に嘲笑したことはあるか。
俺は一体なにをしてきたんだ。
ただ、認められたかっただけなのにな。
パパとママに褒められたかっただけなのにな。
気が付くと、頬を伝う涙が少しばかり服を濡らしていた。
それを拭うこともせず、ただ涙を流しながら歩いた。
暫く歩くと、魔力残しがある土壁があった。
それを、壊して先に進む。
俺はもし地上帰る事が出来たら、俺を殺そうとした者達に、謝ろう。
今まで済まなかった。
そう一言謝ろう。
活力を少し戻し、足に力を込め一歩一歩足を進める。
仲間としてもう一度会うために。
結果は無残だった。
心を入れ替えた所で今まで犯してきた罪が消える筈が無かった。
俺はダンジョンで絶対に引っ掛かってはいけないトラップに、引っ掛かった。
モンスタートラップ。
このトラップに引っ掛かった者に向かって、下の階層のモンスターが押し寄せてくるトラップだ。
低階層ならば特に問題無いが、78層で引っ掛かったならば、そこには死以外待ち受けていない。
普通このトラップは素人でも引っ掛からない。
このトラップは目を凝らさずとも直ぐにわかる。
大抵は壁に埋もれており、一ヶ所だけ乳白色の四角い箇所がありそれを破壊しなければトラップは起動しない。
だが、俺はそれを訳も分からぬ内に壊した。
モンスター達が押し寄せて来ている時に、漸く理由が分かった。
答えは魔力残しだ。
あいつらはわざと魔力残しを残し、俺をここに誘導したのだろう。
そして魔力残しを残した状態で、この白いトラップを土壁で隠す。
79層から78層に降りられたのは、このための布石。
ハハッ
凄いな、これ程迄の事が出来るのか。
確かに俺は必要無いな。
もう笑うしか無い。
だが、不思議とこれで良かったと思っている。
今さらあいつらの前にどの面下げて現れるって話だ。
俺を殺そうとしたのは事実。
俺がそれを許しても、あいつらが受け入れるとは思わないし、俺が、許されるとも思っていない。
あぁー。
少し疲れた。
一つ心残りなのは、俺の妹だな。
あいつは皆に優しかった。
俺にも優しかったあいつが悲しまないことを願おう。
ごめんな。
少し疲れちまった。
少し眠るよ。
魔物が俺を囲むように群がってくるなか俺は、壁に背を預け瞳を閉じる。
どれだけ閉じても瞳の端から漏れて溢れ出す、涙は止まらない。
だけど、最後の最後に心を入れ替える事が出来て以外と悪くない気持ちだ。
パパ、ママ、妹。
さよなら。
魔物は一斉に飛び掛かり、俺の体を奪い合った。
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