第1章 8 【治癒魔法】
治癒魔法
「エサル師!大変です!急いで来てください!」
レイナルン魔道学園の理事長エサルが書類をまとめていると、理事長室がノックもなしに開けられた。
「ノックもしないとは何事なの?アレン」
そこには二年生のアレンが立っていた。走ってきたのか、頬が真っ赤になり綺麗な青髪が、少し乱れていた。
「ハル先輩が、怪我人抱えてきたんです!今救護室にいます!エサル師の助けがいる、とのことで…!」
「分かったわ。すぐ行く。他の生徒にこの事は?」
「伝わっていないはずです。自分が伝令役に頼まれたのも、学園を出ようとしてたまたまハル先輩に会ったからです」
「ありがとう。あなたはもう戻りなさい」
幸いにも今日は休日なので、生徒は王都に出かけているか、寮にいるかなので、騒ぎにはなっていないはずだ。
エサルは急いで身支度を整え、理事長室を出た。そして、今年35歳になるはずのエサルは歳を感じさせない速さで短い栗色の髪をなびかせながら救護室へ走って行った。
「お姉ちゃん、しっかり!」
救護室では男の子が少女に必死になって呼びかけていた。だが、ベッドに寝かされた少女は荒い息を返すだけだった。
男の子は二、三度ベッドにしがみついて呼びかけていたが、反応がないとわかると、近くにあった椅子にすとんと、座った。男の子は下を向きながら唇をかんでいた。
正直、エサルが来るまで、ハル達に出来ることは何もなかったのだ。
ハルは不安な気持ちを少しでも消すために男の子に喋りかけた。
「悪いけど、少し聞いてもいいか?」
「…うん」
「ありがとう。まず、お前の名前はなんていうんだ?」
男の子は不安げな顔をしながらもしっかりとした口調で答えた。
「…ごめんなさい。助けてもらったのにお礼もしないで、名前すら言ってなかったなんて…。ぼくの名前はクレトです」
「あぁ、悪い。ただ、名前知らないと呼びにくいなって思っただけだからきにするな」
「…うん」
「そうか、クレトか。いい名だな。えっと俺の名前はハルだ。よろしくな」
と、ハルが名乗った時、救護室のドアがガラガラと開けられた。
「エサル師!!」
「怪我人は!?」
と、エサルが、勢いよく救護室には入ってきた。
エサルはすぐ、少女に気づくと、一瞬息を飲んだ。
少女の包帯は一度変えたのにもかかわらず、血がにじんでいたのだ。エサルも一瞬で少女の容態を察したのだ。
「治癒魔法は!?」
エサルが包帯を丁寧に素早くほどきながらそう聞いた。
「かけました。でも、ダメなんです!」
エサルがそれを聞いて素早く治癒魔法をかけた。だが、
「くそっ!」
思わずハルはそうつぶやいていた。
ハルはAランク魔法使いのエサルなら、と思っていたのだが、エサルが治癒魔法をかけても結果は変わらなかった。
エサルは目の前のありえない光景に目を丸くしたが、すぐに冷静さを取り戻し、すぐさま指示を出した。
「ハル、今からユイ師と、タイ師。それからカムハ師を呼んで。今すぐよ!」
「はい」
「あと、そこのガキは邪魔な荷物を持って廊下にでてなさい」
「分かった!」
ハルと、クレトはそれぞれで救護室に向かっていった。
一人残されたエサルは少女をみてため息をひとつつくと、
「あとは、あなたの頑張り次第よ。私も頑張るからあなたも頑張って…」
と、呟いた。




