第1章 6 【氷使い】
氷使い
ハルが駆けつけると、そこはひどい有様だった。
家には穴が開き、壁は崩れていた。
それ程までに先程の衝撃は大きかったのだろう。
その中心あたりで、5人の白いマントを羽織った男達と、1人の少し小柄な、白いマントを羽織った者が対峙していた。小柄な方は、フードで顔を隠しており、フードの下に銀色の不思議な仮面をしていたため、性別も年齢も読み取ることができなかった。
ハルは家の陰に隠れて、成り行きを見守ることにした。
「お前、なぜそんなことをする!?後でどうなるかわかっているのか!?」
男達の内のリーダー格らしき男がそう叫んだ。その男の顔には古傷がいくつもあり、また腰に少し黒みのかかった使い込まれた大剣が下げてあったため剣士と思われる。
「……」
だが、銀仮面の方は何も答えなかった。
両者の間にはハルにもわかるほど、殺気がたっていた。
ハルは、肌がピリピリとするのを感じていた。何度も魔人と戦っているハルでさえ、こんな殺気は感じたことがなかった。
その殺気が、ひときわ大きく膨れ上がった時、両者がほぼ同時に動いた。
リーダーの男を含め3人は剣を抜き、間合いを詰めるため一斉に走り出し、対称に銀仮面の方は大きく後ろに飛び退いた。
残りの2人の男達は魔法の詠唱をし、魔法弾を放つ。どうやら、火属性と、水属性の魔法の使い手しかいないようだ。だが、1人1人の魔法弾の威力が、凄まじく直撃すれば銀仮面はひとたまりもないだろう。
そして、男達の剣撃よりも早く魔法弾が銀仮面をとらえた。そして、赤色と青色の魔法弾が銀仮面を襲った瞬間、
その魔法弾全てが、銀仮面によって防がれた。銀仮面の前には本人が生み出したと思われる、微かに青みがかかった透明な氷の壁があった。
「う、嘘だろ……」
ハルは思わずそう呟いていた。いや、そう呟かざるえなかった。それ程までに銀仮面の魔法は美しかったのだ。
だが、銀仮面が氷の壁を作るときに一瞬動きを止めてしまったため、間合いが詰められてしまった。
そして、男達の剣が銀仮面に届く瞬間、
またしても銀仮面によってその攻撃は失敗に及んだ。
「くそっ!」
男達の1人が思わずそう叫んだ。
銀仮面は別に武器を取り出したり、先程のように氷の壁を作って防いだわけではなかった。
ただ、あの凄まじい速さの攻撃を見切りよけたのだ。
だが、銀仮面の動きはそこで終わらず自ら男達の間合いに入り込むと、何事かを詠唱した。
男達は慌てて、それぞれで防御魔法を発動させた。どうやら、後ろの、魔法によって応戦している2人だけでなく、男達は全員魔法が使えるようだった。
だが、油断していた男達の内の1人が防御魔法の発動が遅く、間に合わなかった。
その男の体が青白い光に包まれた、と次の瞬間にはその男は全身氷に覆われていた。
それを見た男達は慌てて銀仮面から距離をとった。
そして、また銀仮面と始めより1人減った男達が対峙する形になった。また始めに戻った時のようである。
その時、
「…これではまたさっきと同じ結末になるよ…?…まだやるの…?」
と、ずっと沈黙していた銀仮面がようやく喋った。
それはハルが思っていたよりも高い声で美しい凛としたソプラノの声だった。
(ん?あれ、ソプラノ?)
と、ハルは一瞬思ったが、取り敢えずスルーした。
「てめぇ、ふざけるのもいい加減にしろ!」
「なめてるのか!?」
「あの方のお気に入りだからといって調子にのるんじゃない!」
と口々に叫んだ。どうやら銀仮面の言葉を挑発と受け取ったらしい。
「…私は好きであの方のお気に入りになったんじゃ、ない」
「はぁ、聞こえねぇよ!」
「……。それ以上騒ぐと本当にみんな殺すよ…?みんなそいつと同じように凍ることになるよ…。それでもいいの…?」
その瞬間、銀仮面の殺気が先程と比べ物にならないほど大きくなった。
男達はたじろいだが、また諦めずに銀仮面に攻撃しようとした。だが、
「やめろ。ここは引こう。俺たちじゃ、相手にならない」
と、リーダー格の男がそう言って止めた。
男達は不服そうだったが、素直に従った。
「その凍っているやつは死ぬのか?」
リーダー格の男が少し悲しそうな顔をしながらそう聞いた。
「…いえ、生きている。…返すよ。別に殺したいわけじゃ、ないから…」
そう、銀仮面は言うと、凍っている男にそっと触れた。その瞬間氷は砕け散り、男は解放された。だが、男は気を失っていた。
リーダー格の男はその男を肩に背負うと銀仮面に敬意を示すように少し頭を下げ、背を向けた。
だが、すぐに名残惜しげに振り返った。
「…。やっぱりお前は戻らないのか?」
「……」
「…まぁ、そうだよな。お前は俺とは違う。まだ、あちら側に戻れる奴だ」
「っっ!でも、あなたも…」
「ダメだ。俺はもう殺しすぎた。もう遅い…。………ろ」
最後ら辺はだんだんと声が小さくなり、ハルの位置からは声が聞こえなかった。
だが、その瞬間銀仮面の肩が、ピクリと震えたのがハルの位置からも確認できた。
そして、リーダー格の男は今度こそ背を向けると仲間を連れて静かに去っていった。
男達の姿が見えなくなった途端、銀仮面の肩から力が抜けた。と、ハルが思った瞬間銀仮面の体がふらり、と傾き崩れ落ちた。
「っ!?大丈夫か!?」
ハルは思わずそう叫ぶと銀仮面に近寄った。そして、ハルは銀仮面の体を起こそうとし、
銀仮面の体の下に真っ赤な血だまりができていることに初めて気がついた。




