第1章 24 【水と氷】
水と氷
カシャッ。
カーテンを開けるとまだ太陽は昇っていなかったが、空は明るくなり始めていた。
それもそのはず、今はまだ朝の5時である。
「ふわぁーあー」
ハルは目一杯あくびをすると、まず顔を洗った。
そして、動きやすい服装に着替えると、寮の外に出た。まだ、生徒は起き出しておらず、寮も学園もしん、としていた。
ハルは寮の前の玄関付近に、水筒を置いた。すると、ハルが水筒を置いた近くに違う水筒があった。
「?誰かもう外出てんのかな?それとも忘れ物?」
こんな時間に起きている生徒はほとんど見かけたことがないので、ハルは忘れ物だと見当をつけた。
「うし、走るか」
ハルは軽い準備運動をしてから、ゆっくりとしたペースで、走り始めた。そのペースをゆっくりからだんだん上げていく。
朝のジョギングはハルの日課である。
ハルがペースを上げいき、遂にトップスピードに乗ったその時、
「おはよ、ハル」
「うわぁっ!?」
ハルが驚いて横を見ると、アリスがハルの隣に並んで走っていた。
「お、おはよ。アリス。早いね?」
「うん、昨日早く寝たから、早く起きちゃって。暇だから走っていたの」
そう言うアリスはハルが結構スピードを出しているのに全く遅れをとらず、余裕でついてきている。
ハルとアリスはそれから二人で話しながら走ると、水分補給のために寮の前に戻った。
ハルが自分の水筒を手に取ると、アリスはハルの横にあった水筒を手に取った。
「それ、アリスのだったんだ」
「うん。ねぇ、ハルはこれからどうするの?」
「うーん、いつもだったらこれから剣の練習すんだけど…」
「??」
「一昨日剣の研磨を頼んでて、そのまま取りに行けなかったんだよ」
アリスは一昨日と聞いて、はっとした。おそらくハルはアリスを助けたため、剣を取りに行けなかったのだろう。
「もしかして、私のせい?」
「いやいや、大丈夫。今週の休日に取りに行けばいいし」
「でも、剣技の授業は?」
「木剣でやればいいし」
「うー、でも…」
アリスは納得のいかない顔をしていた。
「うーん、じゃあ今度の休日剣取りに行くの付き合ってくれね?それでチャラってことで!」
「!うん。分かった」
「おし。で、アリスはこれからどうする?」
まだ、食堂が開くまで時間があった。
「えっと…魔法の練習でもしようかな?」
「そっか」
「それで、その…。ハルに手合わせをしてもらっても…?」
アリスは恥ずかしそうに聞いた。
「構わないよ。俺もアリスの魔法見てみたいし」
ハルは快く了承した。
ハルとアリスは中庭に来ていた。中庭といっても芝生しかないのでこのはよく生徒の剣や魔法の個人練習場所になっているところだった。
「じゃあーやろか」
「はい、お願いします」
アリスはどこから持って来たのやら、ゴムで髪を結び、ポニーテールにしていた。
「無詠唱とか、いけるー?」
「あ、うん。でも、今日は手合わせなので、詠唱するー」
「おっけー」
無詠唱とはその名の通り魔法を発動させる呪文を、言わずに魔法を使うことだ。
だが、基本的に無詠唱は難しく、集中力も詠唱ありの時と比べ物にならないほどいるので、この学園の生徒でもある無詠唱が出来るのは3分の1にも満たなかった。それに、無詠唱を、使いこなせるものとなると、もっと少ないだろう。
「水よ、氷となり貫け!」
アリスは氷魔法の基本の魔法を詠唱した。その途端、ひし形に似た鋭い氷がいくつも形成される。
「行きます!」
「おっけー、別に言わなくてもどんどん撃ち込んでこい!」
アリスはそれを聞くと、右手をまっすぐハルの方へ向けた。
その途端、ひし形の氷がハルの方へ真っ直ぐ飛んで行く。
「水よ、我に従い我を守りたまえ」
ハルはそれを見ると防御魔法を発動させた。すると、ハルとアリスの丁度中間辺りに水の壁ができた。
そして、2つの魔法がぶつかって…一瞬せめぎあって、弾けた。
ハルの作った水の壁が飛び散り、アリスの作った氷が破片となり、朝日を浴びてキラキラと光っている。
「なかなかやるね?」
「ハルこそ」
2人はニヤリと笑い合うと、今度は遠慮なしに魔法を撃ちあった。
その2人の口元には笑みが浮かんでいた。




