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同居人

寮の部屋の数は多かったが、部屋一つ一つが狭いためか、目的地までそう時間はかからなかった。


「ほら、着いたよ。ここが君の部屋だ」


そう言うとエイナはドアを軽くノックした。


「クラマ君、居るかい?話していた転入生だ。居たら返事をしてくれ」


エイナはしばらくノックを続けたが、どうにも返事がない。ノックを繰り返して、手が疲れたのか、ふるふると手を振る。


「駄目だね。仕方ないか、勝手に入ってしまおう」


「生徒の部屋でしょうに、教師が勝手に入っていいものかねえ」


「臨機応変が世の常だよ。許される、許される」


喋りながら、エイナは懐から鍵を取り出し、ドアを開けた。担任の教師には、生徒達の部屋を開ける、マスターキーが配られる。恐ろしい事である。中で何かまずい事をしている場合、常に警戒する必要があるのだ。そう、それは例えば、発覚した場合に羞恥で死んでしまいたくなるような行為をしていた時でもだ。年頃の学生には酷な話である。


話を戻すと、狭い部屋の中には、いくつもの武器が飾られている。端には二段ベッドが、部屋のスペースを圧迫しており、中央に、熊のように大柄な一人の男の影があった。こちらに背を向け、座禅を組んでいる。


「あのねえ、クラマ君。いるなら返事をしてくれよ」


エイナがため息混じりに話しかけると、その巨体はゆっくりと動いた。


「……失礼、この時間は瞑想をすると決めている故」


彼はのそりとこちらを向き、低く響く声で言った。


「……本当マイペースだよね、君……」


彼の奔放に手を焼いているのか、エイナの言葉には一種の諦めを感じられた。


「……まあいいか。クラマ君、こちらは話をしていた転入生だよ。それじゃ自己紹介なんかは二人に任せるよ。僕も暇じゃないから。じゃ」


反論する気も起きないほどに、エイナは早口で畳み掛け、言い終えるやいなや、すぐにドアを開けてどこかへ走っていってしまった。ヴァンはというと、呆気にとられたようにぼうっとし、それからゆっくりと、これからどうしようかと考えだした。目の前にいる筋骨隆々の男は、どうも自らが積極的に話すというタイプではなさそうだ。


しかしヴァンは、

「やあ!俺はセノヴァン・レイモンド!ヴァンって読んでくれよな!これからよろしく!」

とにこやかに、誰かに話しかける事が出来るような男ではなかった。しかし、これから同じ部屋で生活するのだ。多少のコミュニケーションくらいはしておかないと……。どうしたものかとヴァンが悩んでいると、意外にも、話しかけてきたのは向こうからだった。


「某、クラマ・カゲキヨと申す。究極の武に向かい、精進する身。貴公、中々に己が身を鍛え励んでいるとお見受けした。良ければ某の鍛錬の共をして頂きたいが……」


「構わないさ。俺はセノヴァン・レイモンドだ。ヴァンでいい。……まあ、そんなに沢山の武器は使えないが、それでもいいなら喜んで」


「感謝致す。どうもこの学園の強者というのは、他人への協力を渋る輩が多い。それ故、都合がつけやすい、同じ部屋の貴公が協力してくれるのならば、これ程有難い事はない」


クラマはのそりと立ち上がり、握手を求めて手を伸ばした。ヴァンは笑ってそれに応じた。クラマが立った事により、彼の巨躯がさらに顕著になる。ヴァンも一般的に見れば、大きい部類に入るが、そのヴァンよりもクラマは一回り大きかった。また、学生とは思えない、クラマのごつごつとした手に、握手をしたヴァンは少し驚いていた。


「凄い手だな。並の鍛え方じゃ、こうはならない」


握手をしたまま、ヴァンが言うと、クラマは少し笑った。


「何を言う。貴公の手も負けず劣らずだ。それに何より、実がある。某を握る手に、ずしりと重みを感じる。…感服だ。某の武など、貴公に比べればどれほど矮小か…」


「…別にそんな事はないだろう」


ヴァンは、クラマに対して、何か気の利いた言葉を返してやる事が出来なかった。実があると言われても、自分は昔から戦場で戦ってきた事は確かだが、クラマだって時間が経てば、いずれ戦場に立つだろう。いわば自分はフライングをしたようなもので、それならば、学生達に勝るのは当然であるとヴァンは思っていた。そんな事、言えるはずもないが。


徒競走に挑むとして、始動地点の違いの力は実に大きい。余程の自力の差が無ければ、負ける方がおかしいのである。ヴァンは、在学中に学生に負けるような事があれば、どうしたものかと思った。

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