さんかく。
※兄
「お兄さんは今好きな人とかいるんですかぁ?」
いつも思うがこの子は妙に艶やかと言うか年に不釣り合いなほど甘い声を出すと思う。
まぁ中学生に興味はないんだけどね。なんというかほら俺年上好きじゃん?
「そうだなー、うーん、今はいない…かなぁ。」
こうしてお茶を濁すことによりなんだか最近しつこく彼女の有無を聞いてくる妹までも宥めることになるはずだ。うん賢いぞ俺。
「えー?前聞いた時お兄ちゃん好きな人いるって言ってたじゃんー、お兄ちゃんの嘘つきー。」
げげっ、妹よ。それは禁句だ。
あの頃は告白して「待ってて」と言われた微妙な時期なんだ。
なんだか不安で仕方なくて偶々妹に口を滑らせてしまったのがここにきて墓穴を掘ってくるとは…不覚!
「いやほら、あれは、ねぇ。」
妹よ空気を読め。
さっきから妙に目の合う妹。目じゃなくて話を合わせてくれ。
…巧い事いったけど心の中だから自分で座布団を持ってくることにする。
友達の子は妹に熱視線送ってるし。この二人は仲がいいのか悪いのか、偶に分からない時がある。
「ほら、無理に聞かないの。お兄さん困ってるじゃない。」
おお、救いの手が。妹より意思疎通が出来てるなんて。
交換してほしいな。冗談だけどね。
「困ってなんかないけどね。それより二人は好きな人とかいないの?」
おお、また巧く話の流れを変えたぞ。これで話題の矛先は俺に向かない!
なんだか冴えてるぞ今日の俺!また座布団だな!
「えー?お兄ちゃん年頃の女の子にその質問はデリケートがないよー。」
3枚の座布団の上に座りながらデリカシーだ、と突っ込む。嗚呼恥ずかしい。この調子なら外でもこんな風に学の無さを露呈させているんだろうな。
昔の自分を思い出してしまう、流石兄妹と言ったところか。
でも自分もこの頃はカタカナの言葉は間違いが多かったし、ここはひとつ聞かなかったふりでもしてや
「それってデリカシーの間違いじゃない?」
…ばっさりだー。
「そうそうそれそれ。まぁ私は心に決めた人がいるけどね!」
マセガキが。俺はお前ぐらいの頃女子と目を見て話せなかったぞ!
「私にもいますよ。」
…最近の子は進んでるのね。おじさんカナシイ。
「あ、ちょっと待ってて。お茶菓子なくなったから持ってくるよ。」
ジェネレーションギャップから文字通り逃げるように俺は下に降りて行くのだった…
fin.
※友人(この子)
「お兄さんは今好きな人とかいるんですかぁ?」
私はわざと甘ったるい声で聞く。
自分でもキモチワルイと思いながらも。
だって、タカフミさんったら年上が好きだからせめてもの努力。
「そうだなー、うーん、今はいない…かなぁ。」
…嘘だ。私は知っている。
お兄さんは1か月と12日前に彼女が出来た。
バイト先で知り合った年上の女だ。
心の中でその女を×しながらも笑顔は絶やさない。
そしてその事実を知らないあんずに対し私は優越感を覚えている。
「えー?前聞いた時お兄ちゃん好きな人いるって言ってたじゃんー、お兄ちゃんの嘘つきー。」
こいつはいつもそんなションベン臭い餓鬼のような言葉を使う。
きっと頭が湧いているに違いない。
…しかし不自然に焦るタカフミさんを見ることが出来たので今回は不問にしてやろう。
「いやほら、あれは、ねぇ。」
ああ…タカフミさん、可愛らしすぎます…もう、全て、私の、私だけのモノにしてしまいたい。
ああ…何故座布団をわざわざ隣の部屋から一枚出してくるのかしら…でも二枚の座布団にバランスをうまく保てない姿も素敵。
それに比べこの糞虫は何をジロジロと私のタカフミさんを見つめているのかしら。
妹だからって血が繋がってるからって愛し合えるかどうかは別なのに。
…………でも血が繋がってるのは正直羨ましい。妬ましい。この糞虫がッ!
「ほらあんず、無理に聞かないの。お兄さん困ってるじゃない。」
怒りに身を任せて暴言を吐いても良かったのだが、将来を添い遂げたい相手の妹をその相手の前で罵倒するのは流石に憚られたので無難に話を流す。
しかもなんだかタカフミさんに感謝の眼差しで見られてる…もう死んでもいいわッ!!!
いやだめよ、この子。この幸せを自分のものにするまでは死ねないわ!
となると、この糞虫は邪魔ね。どうにかしないと…
「困ってなんかないけどね。それより二人は好きな人とかいないの?」
強がる顔も素敵。
それに話も私とタカフミさんの為に在るような話題。
これって運命かしら。というかまた座布団?
「えー?お兄ちゃん年頃の女の子にその質問はデリケートがないよー。」
いっちょまえに照れやがって。
真性の馬鹿の相手は疲れる。
タカフミさんの妹じゃなかったら絶対傍にも寄らないのに。
これも運命なのかしら。
……考えても仕方ないのでこの糞の発言にツッコミを入れてやる。
「それってデリカシーの間違いじゃない?」
タカフミさんが何故かショックを受けたような顔をしてる。なんて可愛いのかしら。
理性を抑えなければ…、ふぅ危なかった。
何かが迸りそうになる。タカフミさんの可愛らしさ恐るべし。
「そうそうそれそれ。まぁ私は心に決めた人がいるけどね!」
…やっぱりコイツ、ブッ×そうか。
2組のサッカー部の○○の告白を断ってたと思ったらやっぱりそういうことか。
そんなお決まりの常套的なことだろうとは思っていたが。
さっきからずっとスナック菓子を食ってるデブ糞虫が高嶺の花を手に入れようとするのはちゃんちゃら可笑しい。
今まで我慢してきたものを爆発させようかしら。
……………悲しんでるタカフミさんの心の隙間に入り込むっていうのもいい作戦だわ。
私、冴えてる。
そうと決まればあとはタイミングだけ。
偶然と自己防衛を装って。
「私にもいますよ。」
煽るように。デブ糞虫を甘ったるく見つめながら。
お盆に乗っていた最後のスナック菓子を口に放り込む。
「あ、ちょっと待ってて。お茶菓子なくなったから持ってくるよ。」
タイミングとしては完璧だが、幾つかの理由をこじつけなければならないのでまだ早いか…
完璧な勝機を狙って私はこの糞虫、あんずと向かい合い座るのであった。
fin?
※妹
「お兄さんは今好きな人とかいるんですかぁ?」
この子ちゃんは何もしなくても可愛い。
クラスの、というより学校中の男子から人気がある。
女子からも相当数の人気がある。
「そうだなー、うーん、今はいない…かなぁ。」
そんなこの子がよりによって。
こんな駄目男に惚れるなんて。
「えー?前聞いた時お兄ちゃん好きな人いるって言ってたじゃんー、お兄ちゃんの嘘つきー。」
私は子供の様な口調で喋る。
「いやほら、あれは、ねぇ。」
それは大嫌いな兄を困らせる為でもあるが。
「ほらあんず、無理に聞かないの。お兄さん困ってるじゃない。」
だって。
だってこんなにも。
この子ちゃんが、怒っている。
こんなに怒ってるのをひた隠して、駄目男に媚び諂う姿なんて。
それだけで私は、××しちゃう。
「困ってなんかないけどね。それより二人は好きな人とかいないの?」
それなのに。
それなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのにそれなのに。
「えー?お兄ちゃん年頃の女の子にその質問はデリケートがないよー。」
こんなにもニブいこの子ちゃんだもん。
ちょっとくらい乱暴なことしなきゃ、わかってくれないよね。
だから私も食べたくないスナック菓子なんか食べてるわけだし。
「それってデリカシーの間違いじゃない?」
大嫌いな駄目男にも視線送ってこの子ちゃんを嫉妬させてるわけだし。
…………この子ちゃんが私を殺したいように仕向けてるわけだし。
……………………もしもの時の秘密道具もあるわけだし。
「そうそうそれそれ。まぁ私は心に決めた人がいるけどね!」
煽る。
作戦終了。
「私にもいますよ。」
……………………勝った。
「あ、ちょっと待ってて。お茶菓子なくなったから持ってくるよ。」
そういって駄目男が視界から消える。
ここからが、私の本当の勝負。
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足音も遠くなったころ。
よし、十分遠くへ行ったみたいだ。
この子ちゃんと二人っきり。
今まで堰き止めてきた思いが、
爆発した。
「この子ちゃん、お兄ちゃんのこと好きなんでしょ。あんな駄目男のどこがいいの?顔?体?肉?血?私だって嫌だけどアイツとほぼ同じ物質で構成されてるんだよ?じゃぁ私でもいいじゃん。私のことを好きになってよ。ねぇ。この子ちゃん。私はこの子ちゃんのこと大好きなんだよ。…驚いた顔してるね。そんな顔も大好きなんだよ?私が餓鬼臭い口調で話してたのもこの子ちゃんの為、この子ちゃんが駄目男を好きになるのもこの子ちゃんの為、駄目男に彼女を作らせたのもこの子ちゃんの為。むしろこの子ちゃん、駄目男と出会ったきっかけ覚えてる?…そうそう、私がこの子ちゃんをおうちに誘ったんだよね。あれってなんでだと思う?………そうだよ。全部、全部全部私の為。私がこの子ちゃんを私のものにする為の布石。現にこの子ちゃんはここでこうして私の首を絞めようとしてる。この子ちゃんが私を殺したらこの子ちゃんはきっと私を一生忘れない。私もこの子ちゃんを『一生』…っていうのは変か、死ぬんだもん。そうだね『絶対』にしようか。そう、絶対忘れられないはずだもん。そうでしょう?生きてるか死んでるかなんてことは些細なことなの。そうは思わない?この子ちゃん?」
「あんた、気でも狂ったの……?」
この子ちゃんは、駄目男が部屋から出ていき十分に離れたと感じたところで私に飛びかかり馬乗りになりながら首を絞めていた。
多分、私の何かしらの雰囲気を悟ったのだろう。さすがこの子ちゃんだ、私の期待を飛び越える。首を絞めているこの子ちゃんが困惑の表情を浮かべつつもそれでもなお私は喋り続けいた。だって首を絞められたくらいじゃ、私の思いは止まらない。
たとえ首を切られていても、なんてね。
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれないね。でもこの子ちゃんが私のものになって私がこの子ちゃんのモノになるんだなって思ったらなんだか××してきちゃったよ。」
「き、気持ち悪い……。あ、あんたキモチワル……。」
「そんなこと言わないでよこの子ちゃん。さぁ早く私を自己防衛を装って殺してよ。この子ちゃんのモノにしてよ。じゃないと。」
「この子ちゃんを、私のモノにしちゃうよ?」
「やっぱりこの子ちゃんは可愛いなぁ。ほら、こんなに可愛いおててなんて私見たことないよ。ほーら、あんよもすっごく細くて黒くて綺麗。でもやっぱりお顔も綺麗だなぁ。羨ましいなぁ。やっぱり生きてるか死んでるかなんて些細なものね。というかこの子ちゃん。全てが可愛い。もう反則。だって
こんなにバラバラなのに可愛いなんて、有り得ないよ。
さぁこの子ちゃんはもう私だけのモノ…私もこの子ちゃんだけのモノ…。
誰にも触らせたり見せたりしないんだから。
だから。
一緒になりましょう?この子ちゃん?」
Happy End?
はつとうこう。こめんとおまちしてます。