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#4

 結局、ギルドから引き取ったヘルハウンドの死体は森へ捨てに行くことになった。


 本当ならアイテムボックスに中へ入れておけば他の街で売ることもできたのかもしれない。

 けど、イサミのアイテムボックスは小学生の机と同じレベルで整理整頓されていない。


 入れたままにしておくと野営用の毛布とか、食料とかに硫黄臭い死体か混ざってあとでエンガチョになる可能性があったから、早々に捨てることにしたんだ。


 アイテムボックスって、なんでもかんでもとりあえず放り込んでおけるのがメリットなのに、整理整頓できなくて使いこなせないってどうなのよ!


「んなこと俺に言われても知らんわ」

「もしかして、日本にいたときから整理整頓苦手だった?」

「……ちゃ、ちゃうわ!」


 そういってそっぽを向くイサミは可愛い……くはないね。野盗っぽいし。

 ともあれ、折角お金になると思ったものを不法投棄しないといけない上に、森まで往復することになって二度手間だった。

 やってられない……。


 そう思ったんだけど、森から街へ帰ると、もっとやってられない事態が待ち構えていたんだ。



「ね、なんか街が騒がしくない?」

「祭りでもやっとんとちゃうか?」

「いや、昼間に来たときにはそんなのやってなかったよね?」


 森まで往復するという余計な手間が面倒だったのか、興味なさげにイサミはそう言う。

 けど、明らかに街の様子がおかしい。


 私達が出入りしていたのは南門だけど、街の向こう側――たぶん北門にあたる方向――が、陽が落ちてきているのに妙に明るいんだ。


「ね、イサミ。見に行こう」

「なんや、サチはそんなに祭り好きなんか?」

「違う!アレ、絶対なんかおかしいから!」

「おかしいて……漫才でもやっとるんか?」

「そっちじゃない!」


 天然なのか養殖なのかは知らないけど、そんなボケたことを言うイサミの手を引いて私は街へと急いだ。


 けど、そんな緊張感のないやり取りをしていられたのは南門をくぐって街の中に足を踏み入れるまでだった。

 門から続く大通りに向かって、北側から大勢……というか40人ぐらいの人が押し寄せてきてる……?


 すでに陽も落ちているせいで門の外へ出ようとする人こそいないけど、まるで北門から少しでも離れたいとでも言いたげな様子で、人々が南門へと集まっている。


 その状況を見たイサミもさすがにおかしいと思ったらしく、表情が少し引き締まっている。

 うん、なんだかんだ言って彼は勇者だからね。


「すみません、何かあったんですか?」

「何かって……あんた、黒騎士だよ!黒騎士が魔獣を連れて攻めてきたんだよ!」

「黒騎士……?」

「俺も見たぞ!黒い魔獣を連れた騎士が、門に火矢を射かけてた!」

「いや、あれは火矢じゃねぇ、魔法の……いや地獄の炎だ!」


 周囲にいた人達が口々に黒騎士とその恐怖を叫んでいる。

 ……けど、騎士なのに魔獣連れな上に矢だか地獄の炎だかで攻めてくる……って全然騎士っぽくないよね?


「私達、旅の者なんですけど……こういうことって良くあるんですか?例えば毎日恒例とか」

「馬鹿なこと言っちゃいけないよ!こんなこと、月に一度もあるもんか!」

「あ……じゃあ月一よりは少ない頻度であるんですね?」

「……まぁ2月に一回ぐらいかねぇ……」


 わりと結構な頻度で襲撃があるらしい。

 いや、それぐらい頻繁に来るなら騎士団なり自警団なり冒険者なり、それこそ勇者なりが対処すれば良いのに。


 ……あ、冒険者で勇者が隣にいたっけ。


「どうする?様子見に行く?勇者っぽい活動する?」


 私がイサミの肘を小突きながらそんな事を言ってると、近くにいたおじさんが縋り付いてきた。

 もちろん、私じゃなくてイサミにだけど。


「あんた……いや、貴方様は勇者なのですか!?お願いです、この街を黒騎士から救ってくだされ!」

「なんだって!勇者様がいるのかい?お願いだよ、勇者様!あたしらの街を助けておくれ!」


 おじさんが大きな声で勇者と言ったせいでまわりの人もイサミの周囲に集まり始めたよ。

 どうするの、これ。

 いや、もともとは私がイサミを勇者って言ったのが原因だけど。


「……あー。サチ?」

「なに?」

「……ちょっと行ってくるわ」

「ちょろインか!」


 思わず突っ込んでしまったけど、裏拳は回避された。

 いや、ちょっと頼まれただけで断り切れずに黒騎士とやらの所へいくとかチョロすぎでしょう、イサミ!


 だいいち、報酬の交渉もなしに討伐しに行ったら、黒騎士を倒してもありがとう!で終わっちゃうじゃない。

 ありがとうを食べて生きて行けるのはどこかのブラック企業の人達だけで、私達はありがとうじゃお腹膨れないんだからね!?


 もちろん私だって強欲外道じゃないから口に出してそんな事は言わないけど。

 でも私がジト目で見ている間にイサミはさっさと北門の方へ向かって走って行ってしまったので、ここは私が後を引き受けるべきだろう。



「はい、皆さんっ!今皆さんの『依頼』を受諾して勇者が事態収拾に向かいました!つきましては、依頼料の交渉を行いたいと思います!」

「……ええぇ……」

「……だいたい、嬢ちゃんは何者なんだい?勇者さまと関係あるのかい?」

「ええ、もちろん!私は勇者様の金庫番にしてマネージャーです!」


 本来ならここは幼なじみとかパーティメンバーとか、恋人とかって言うべき所なんだけどね。

 でも実際イサミと知り合ってまで数日だし。

 私は戦闘に参加しないからパーティメンバーを名乗るのは虚偽申告だし。

 ついでに言えば恋人は……うん、ちょっとパスかな。

 悪い奴じゃないのは判ってるけどね。


 だから私が名乗るのは金庫番でマネージャー。


 これなら嘘じゃないし、依頼料を請求する権利を主張できるはずだ!

 うん、賢いぞ私。たぶんこれなら知力(INT)判断力(WIS)数値が12(平均以上)ぐらいだって主張してもいいよね?



 結局少し揉めたけど、黒騎士から逃げてきた人達から1人当たり銀貨3枚貰うことが出来た。

 日本円換算だと……たぶん3,000円ぐらい?

 戦闘が発生する確率が高い状況を考えるとお小遣い感覚みたいな安さだけど、そこは質より量だ。

 でもその場に居た人達全員、全部で41人から徴収したから合計すると銀貨123枚になった!


 これ、金貨換算だと12.3枚、つまり12ゴールドちょっとになるから……日本円だと12万円以上ってことだよね!?

 ヤバい、私バイト未経験だけど、人生最初のバイトがこんなぼろ儲けなんて、金銭感覚おかしくなるよ……。

 って働くのは私じゃなくてイサミだっけ。


 ちなみに銀貨10枚で金貨1枚相当らしいから、さっきイサミに渡した買い食い資金は日本円で10万円、プレートアーマーは1,500万円になるらしい。

 とんでもないインフレ世界だよね、ここ……。

 そう考えると銀貨123枚が小銭に思えてきた。


 けど、これって仲介業とかフィクサーとかって仕事なんだろうか?

 ちょっと交渉しただけでそれなりのお金になるなんて濡れ手に粟過ぎて、やっぱり金銭感覚おかしくなりそうだ……。

 いや、でもイサミが買い食いするのに金貨10枚使ってるから、街に落としたお金を回収しただけなのかな……?


 そんなどうでもいい事を考えながら、パーカーのポケットに一杯の銀貨をジャラジャラ言わせながら私はイサミの後を追った。

 なんだかんだで結構時間が掛かったし、そもそもイサミは足が速いからきっと――。


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