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#1

 フニャーン

 ウミィ-

 ナ~オ~


 ここは異世界。

 でも猫は猫。


 そして猫の女神に導かれて、何故か異世界へやってくる事になった私の名前はサチ。

 幸薄いのサチだ。

 そして今まさに私は幸薄い目に遭っている。


「なぁ、カネ貸してくれや」


 私は今、足下にじゃれつく黒猫をぼーっと見つめながら、野盗めいた男に金の無心をされている真っ最中だ。

 いや、無心と言うよりもカツアゲ、野盗的に言えばお仕事だろうか?


「お金なんてありません!」


 私は目の前にいる大柄で金髪で三白眼の、どこへ出しても恥ずかしくない野盗……めいた男を見上げながら、きっぱりと言ってやった。


「なんでないねん!」

「それは『勇者様』が報酬貰わなかったからでしょ!」


 そう。

 小柄で戦闘力皆無の私が野盗相手に堂々としていられる理由は簡単だ。

 目の前にいる、このどこからどう見ても野盗にしか見えない男――いや、年下だから男の子っていうべきだろうか?――は、勇者だからだ。


 彼の名前はイサミ。私と同じ日本出身で16歳の高校生。

 日本では年下から「ユウしゃん」と呼ばれていたそうだ。


 いや、名前が勇者っぽいから勇者なのではなく、彼は女神に召喚されたホンモノの勇者なんだけど。


 で、そんな野盗めいた勇者である彼がどうして私をカツアゲしているかというと。

 純粋に路銀が尽きたからだ。


 そもそも私もイサミも異世界から召喚された身で、特に私は無一文な上に手ぶらでここ、異世界ソロモンへ放り込まれた。

 イサミの方は王様から50ゴールドというシケた支度金を貰ったそうだけど、大剣を買ったら革の鎧を買うお金しか残らなかったらしい。


 革の鎧という勇者らしからぬ装備のせいで外見の野盗っぽさが加速しているので、たぶん彼に対する偏見の半分ぐらいは王様のせいだ。


 本来なら王様の紹介状があれば各地で支援を受けられたらしいのだけど、イサミが王の封蝋付き書状をしわくちゃにしたせいで、うかつに誰かに見せると不敬罪になることが判明。

 それ故に私達は金策(サバイバル)しながら魔王討伐の旅を続けることを余儀なくされている。


 そう、魔王だ!


 なんとこの異世界には72体もの魔王がいるらしい。

 そのうち1体であるダンタリアンは昨日イサミが倒したので残りは71体。


 イサミと私は、全部倒したら日本へ帰れるんじゃないかと考えて魔王討伐を行うことを決めたんだけど……。


 ここで話が路銀問題に繋がるわけだ――



「ね、やっぱり今から魔王城へ戻ってお姫様助けてこない?」

「めんどい」

「いや、迷いの森の中にある城だし、お姫様困ってるかもよ?」

「せやかてもう30Km程歩いとるんやで?戻ったら往復60Kmの損や」

「まぁ、それはそうだけどさ」


 こんな事ならダンタリアンを倒したあとに姫を放置してさっさと次を目指そうとしたイサミを止めるべきだった。

 後悔後に立たず。

 いや、見逃したイベントはリプレイできない、かな。


 助け忘れたお姫様が何時までも魔王城でぽつねんと待っているのは、ゲームの中ぐらいのものだろうしね。


「まぁ、姫様を放置してさっさと先に進んだ勇者とか、場合によったら国家反逆罪だしねぇ」

「そんな事よりカネや、カネ!飯も喰われへんのやぞ!」

「そうだねぇ……次の街まであと17Kmって出てるし、それまでに悪徳商人でも狩る?」

「なんで商人狩りやねん!オヤジ狩りとちゃうんやぞ!」


 イサミはそう言うけど、お父さんがプレイしていた古のPCゲーだと序盤は悪徳商人を倒してお金を稼ぐのが鉄板攻略法だって言ってたし。

 お父さん、お金がなかなか貯まらないからって、時々善良な商人も倒してたけど。

 それでいいのか現役警察官(お父さん)


 そう言えばあのゲームって自分のいる場所しか見えないから、一歩でも道を踏み外すと無茶苦茶強い敵が出て来て瞬殺されてたっけ。

 ゲームは布製のマップを見ながら移動する必要があったけど、私にはもっとハイテク……いや魔法的なアイテムがある。


「ナビ、最寄りの悪徳商人の位置を教えて!」

「ちょ、待て、サチ!まじで商人狩する気か!?」


 イサミのツッコミを無視し、私が叫んだ声に反応して眼鏡に矢印と文字が表示される。

 そう、これが私の能力。


 いや、違うな。

 猫の女神(ポンコツ女神)が私の眼鏡に付与してくれた能力って言う方が正確だ。

 つまり私の眼鏡、良くわからないけどナビ機能と自動翻訳機能がついた魔法スマートグラスになってるんだよね。


 で、そのナビ曰く……。


「目標、悪徳商人……後方1.1Km先!」

「俺は商人狩りはせぇへんからな!」

「野盗っぽいのに、野盗活動しないの?」

「俺は勇者や言うとるやろうが!」


 イサミとそんなことを言い合っている間にも悪徳商人との距離は凄い勢いで縮まっている。

 これってもしかして……。


「カモネギ?」

「なにがやねん……」

「だって凄い勢いで悪徳商人がこっちに向かってきてるよ?目標までの距離、400m」

「……ちゅうことは、あの……魔物に追われとる馬車か?」


 目を細めながらイサミが睨み付けている方向を見ると、確かにそこには盛大に砂埃を巻き上げながら、猛烈な勢いでこちらに向かってくる馬車が見える。

 そして、その後ろから追いかけている複数の……犬?いや、オオカミ?


「イサミ!魔物を倒して報奨金ゲット!ついでに悪徳商人を倒して現金とアイテムもゲット!」

「いや、後半は犯罪やろが!」


 そう怒鳴りながらイサミは背負っていた大剣を抜き放ち、私は足下にまだいた猫を抱き抱えて街道の脇へと寄る。


 そんな私達の脇をそのまま通り過ぎる馬車。

 剣を構えて待ち構えているイサミに気付いて、こちらを標的に切り替えたイヌ科のモンスター。


 あれ?この状況っていわゆる「トレイン」なんじゃない?

 私達、モンスターをなすりつけられたよね?

 なんてマナーの悪い馬車だ!

 やっぱりあれは悪徳商人で決まりだね。


「おらっ死ねや、犬っころ共が!」


 魔物を退治している勇者の筈なのに、イサミの吐く台詞はどこに出しても恥ずかしくない動物虐待者のソレだ。


 先ほどの悪徳商人といい、イサミといい、どうして私の身の回りにはこんなモラルの欠片も無い人間しかいないのやら……。


 いや、私も似たようなものか。


 そんな自省をしている間にイサミは「犬っころ」を退治していた。

 っていうかこれ、犬じゃなくてヘルハウンド的なやつだよね?

 イサミに向かって火吐いてたし。


「熱っついわ!」


 最後の一体を打ち倒したイサミが大声で叫ぶ。


「まぁ、火浴びてたからね。っていうか、なんで無事なの?」

「そこは心配するとこやろうが!」


 もちろん私だって心配してない訳じゃない。

 けど、髪も鎧も焦げた感じがしないから、心配するよりもむしろ不思議に思ったんだ。

 もしかしてこれこそが……。


「チート勇者パワーってやつ?焦げ付かない、マーブルコートのフライパン的な能力?」

「んな訳あるか!全部、剣で斬り払ろうたんや」

「そっちの方がチートっぽいよね」

「まぁ、昔より格段に身体はよう動くけどな……。けどこれはチートとちゃうで」

「へー。じゃあどんなチートなのかそろそろ教えてよ」

「秘密や!」


 秘密主義で付き合いの悪いイサミはそう言うと、ヘルハウンドっぽい犬の死骸を異世界召還のお約束能力、アイテムボックスへと収納している。

 ……お約束なのに、何故か私は持ってないアイテムボックスに。


 彼のチートがなんなのかは気になるけど、今はそれよりも大切なことがある。


 そう、魔物の死骸をギルドへ持って行けば討伐報酬が貰えたり、魔物素材を買い取って貰えたりするってこと。


 つまりこれで路銀問題は解決だ!

 すごいぞ私達!

 ……いや、私は猫を抱えて見ていただけなんだけど。


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