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#2

「……どこやねん、ここ」

「あのっ、お金は持ってません!殺さないで!」

「なんやねん、おまえ。……てか、日本語?」

「へ?」

「あんた、日本人なんか?」

「あ、はい。サチっていいます。幸薄いのサチです」


 森の中から現れた野盗は、何故か日本語……それも関西弁で話しかけてきた。

 え、ここって異世界フミィィじゃなくて日本の……大阪あたりなの?


「俺はイサミや。勇者の勇やから、ガキ共はユウしゃんって呼んどるけどな」

「へー、ユウしゃんですか」


 自分の声が平坦になったのが判った。

 このナビ、「勇者」の場所じゃなくて「野盗のユウしゃん」の場所を示しやがりましたよ……。


「それで、ここはどこなんですか?奈良?それとも京都ですか?」

「は?何いうとんねん。ここは異世界に決まっとるやろ!」

「ええ!?じゃあなんで異世界の野盗が関西弁なんですか!?」

「誰が野盗やねん!それに俺は日本人や!」


 あ、あの裏拳でつっこんでくる動き、お笑い動画で見たことがある。

 じゃあこの人、本当に日本人?

 でも異世界って……。


「じゃあここは異世界フミィィですか!?」

「なんやねん、その猫の鳴き声みたいなんは……。ここは……なんやっけ?」

「30分ぐらい前に到着した私に聞かれても……」

「んー、あ、せや!確かあのジジイ、ソロモンがどうとかって言うとったな」

「ジジイってどこのご老人ですか……」

「なんや知らんけど、王様やいうとったで」


 王様をジジイ扱い!?

 いや、それ以前に王様と面識のある関西出身の野盗って何!?




 結論から言えばこの野盗っぽい人は本当に勇者だった。

 それも女神様に選ばれて、チートも貰ってるらしい。

 なにそれズルくない?


「で、その勇者様がなんでこんな所にいるの?」

「なんで、ってそりゃお前、魔物を倒してこれから街へ帰るとこに決まっとるやろ」

「……わざわざ森の中を通って?道が近くにあるのに?」

「なんやて!?いくら探しても道、見つかれへんかったのに!」


 ……方向音痴か、この勇者。


 森の中で漫才をやっていても仕方ないので、私がナビをして街へ向かうことになった。

 道中、イサミと話をして彼が大阪出身の高校生であること、そして私より年下である事を知った。

 イサミはイサミで私の方が1つ年上ということに盛大に驚いていたけど、それはお互い様だろう。


 イサミは半月ほど前にこの世界に召喚され、王様から魔王を倒して攫われた姫を助ける依頼を受けたそうだ。

 え、なにそれ楽しそう。

 それって私がやりたかった異世界ライフだよね?


 私だってナビ眼鏡じゃなくて魔法の剣でも貰えれば、バンバン魔物を倒す勇者になれたのに!


 ちなみにイサミが向かっていた街は「ラッコ亭」のある街で、残念ながらこの世界にラッコはいないらしい。

 じゃあラッコとはなんだと聞いた私に対して、イサミは店主の名前だと面倒くさそうに言った。


 名称詐欺だよね、それ。

 というかこの世界、私にとって色々と理不尽な気がするんだけど。


 しかも!この世界って魔王が沢山……具体的に言うと72人も。

 さっきイサミがソロモンと口走っていたことと合わせて考えると……きっとソロモン王の72柱の悪魔だ!


「だよね!?」

「いや、知らんし。だいたいソロモンって誰やねん」

「ええー!ソロモン王と72柱の悪魔って義務教育で習う基本中の基本だよ!?」

「どこの異世界基準やねん……」


 あれ?義務教育じゃなくてオタク基礎教養だっけ……?

 いや、それよりもそんなに沢山魔王がいるなら、だ。

 私だって1体ぐらい倒してもいいよね?



 そんな事を言っている間に私達はエデンという街に到着した。

 イサミが魔物を報告をするために冒険者ギルドへ行くというので、ギルドなるモノを一度見てみたかった私も同行することにした。


 けどイサミは街の入口で固まって動かない。


「勇者様?もしかしてギルドの場所がわからないとか?」

「う、うっさいわ!こんなスマホナビも無いとこで場所わかる方がおかしいんや!」

「いやいや、地元の人達は普通に地図無しで生活してるよね?」


 私の言葉にイサミは悔しそうだけど、事実だから反論できないようだ。

 ひとしきり鬱憤晴らしをして満足した私は、ナビを使って冒険者ギルドまでの道を案内する。

 いや、本当なら初めてここへ来た私の方が案内される側のはずなんだけどね。


「ところで魔物を倒したってどうやって証明するの?」

「そりゃ、証拠を見せるに決まっとるやろ」


 そうは言うけどイサミは背中に背負った剣以外は手ぶらだ。

 ああ、そうか。こういうときって耳とか牙とか、そういう討伐証明部位を持って行くのが定番だっけ。

 そういう小物ならポケットに入るしね。


 ……そう思っていた時期が私にもありました。


「ね、これなに?」

「ライノ……なんとかやな」

「サイっぽいからライノビーストかな?いや、そうじゃなくて。どっから出て来たの、このデカいの」

「そりゃお前、アイテムボックスに決まっとるやん」


 アイテムボックス!

 冒険者の憧れのあれか!


「アイテムボックス、オープン!」


 私が声高に呼ばわると……冒険者ギルドの受付嬢が迷惑そうな顔でこちらを見た。

 ええ、知ってましたとも。


「……何やっとんねん」

「ねぇ、どうして私にはアイテムボックスが使えないの?どうやって手に入れるの?」

「俺に聞かれてもしらんわ。まぁ俺は女神にもろうたんやけどな」

「猫の女神様、えこひいきが過ぎない?」

「なんやねん、猫の女神って……」


 ギルドのスタッフがイサミの倒して来た魔物を査定している間に待ち合わせ室で話を聞いたところによると、どうやらイサミを異世界へ誘ったのは猫の女神じゃなかったらしい。

 なんでも小学校の時の担任の先生に似た女神……って何そのローカル感。


「いや、ネコミミ付けて猫まみれの部屋におる女神の方が頭おかしいやろ」

「まぁ、頭は弱そうだったけど……でも猫天国だったよ?」

「俺もいっぺん見てみたかったなぁ、そこ。くしゃみで死にそうになりそうやけど」


 どうやらイサミも猫好きらしいけど、同時に猫アレルギーでもあるらしい。

 そんなどうでもいい話をしている間に査定が終わり、イサミはギルドマスターに呼び出しを受けた。

 部外者だけど、1人でここにいても仕方ないので私も後をついて行く。


「おお、来たか勇者よ!良くライノビーストを倒した!これなら貴殿に魔王討伐を任せることができる!」

「……なに、勇者なのに信用されてなかったの?」

「む、なんだね、君は」

「あ、ただの通りすがりなんでお構いなく」

「通りすがりが何故ギルドの応接室にいる……?」


 50がらみの髭面で顔面に傷のある、ザ・ギルドマスターコンテストに出したら優勝しそうなギルマスは私の事を不審者を見るような目で見た。

 いや、私ってどこにでもいる普通の女の子だから、どこにいても不思議じゃないと思うんだけど。


 ちなみにギルマスや受付嬢の言葉が理解出来るのはナビ眼鏡のおかげらしく、試しにちょっと眼鏡を外してみたんだけどこの世界の人が何を言っているのかさっぱり理解出来なくなった。

 つまり眼鏡を無くしたり壊したりしたら私は詰むってことだ。


 で、ギルマスとイサミの話を聞いていると、魔王が沢山いるこの世界では魔王へ挑む自称勇者もまた無数にいるらしく、騙りとはいえ無駄死にさせないためにある程度の実力を示さないと魔王にまつわる情報を手に入れられないようになっているらしい

 安心設計というか、フラグを立てないと先に進めないゲーム感があるというか……。


 ともあれ、イサミはその試験をクリアして魔王討伐に向かう資格を得たらしい。


「あれ?でもイサミって王様に討伐の依頼を受けてるんじゃなかったっけ?」

「ああ、せやな」

「なっ……それは本当か!?何故その事を言わなかった!」

「……忘れとったわ」


 イサミのあんまりにもあんまりな言葉に、ギルマスはがくりと頭を垂れた。

 どうやら王家が召喚し、直接討伐依頼を出しているイサミは本来この試験を受ける必要が無かったらしい。

 そりゃそうだ。もし試験に落ちたら姫を助けに行けないんだから。


「ではイサミ殿……もしや王家の紹介状などはお持ちか?」

「紹介状……?んー、これか?」


 しばらくアイテムボックスの中を漁っていたイサミが取り出したのは、一通の封筒だった。

 赤い蝋で封緘が施されてるけど……まるで小学生が机の奥に突っ込んでいたプリントのようにしわくちゃになっている。

 ああ、間違い無い。

 イサミは整理整頓の出来ない駄目な子だ。


「これは確かに王家の封蝋!……ですが、このしわくちゃぶりは……不敬罪で斬首刑になりますぞ……」

「うわっ、えんがちょやん!そんなんいらんから、捨てといて!」

「しわくちゃになっただけで斬首されるんだから、不法投棄したら地の果てまで衛兵が追ってきそうじゃない?」


 そんなどうでも良い……いや、どうでも良くはないか?ことを言いながら、私達は魔王に関する情報をギルマスから聞き出した。

 なぜ部外者の私が話を聞いたかというと、記憶力が残念なイサミは折角教えて貰った情報を聞いているしりから忘れていたからだ。

 どうせ資料を貰ってもまた机の奥(アイテムボックスの中)でぐしゃぐしゃにするのが目に見えていたし。


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