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#7

 私が内心でツッコミを入れていると、私達が入ってきた通用口と逆の方向からお店の人らしき人達が入ってきた。

 どうやら、黒騎士騒ぎで避難していた人達が戻ってきたらしい。

 長老が店主らしき中年の男性に向かって手を上げると、店主は一瞬驚いたような表情を浮かべてから厨房へ引っ込み、しばらくすると木製のジョッキを持って再び姿を現した。


「……爺さん、本当に大丈夫なのか?」

「うむ。救いの手が現れたのでな。のぉ、黒き聖女よ」

「いや、だから私は聖女じゃなくて勇者様のマネージャー兼金庫番ですってば」

「……そうか、なら……もう大丈夫だな」


 私が聖女認定を拒否したのに、何故かお店の人は安堵したような様子で長老にジョッキを渡すと、去って行った。

 いや、今の会話に安心できる要素って無かったよね?


 その後、私は長老から事情を聞き出そうと頑張ったけど、何を聞いても知らぬ存ぜぬだった。

 いや、何のために私達を呼んだのよ……。


 そうこうしている間に老人はジョッキに入った――たぶんお酒――を飲み干すと、席を立った。


「では茶色っぽい勇者よ、そして黒き金庫番よ。後の事は頼んだぞ」

「え!?まだ具体的なことを聞いてないんだけど!」

「ではな」

「ちょ、待って!?」


 そう言い残すと長老はお店の入口から出て行ってしまった。

 私も後を追おうと思ったけど、テーブルの上に残された食事が心残りで席を立てなかった。

 いや、どうせ追いかけてもこれ以上話を聞けそうになかったし……黒騎士の居場所だけならナビで判るし。


 ……黒騎士退治の依頼料、交渉できなかったけど………モンスターと同じように黒騎士の死体をギルドに持ち込んだら討伐報酬が貰えるんだろうか。

 そんな事を考えながら、私はイサミが手を伸ばそうとした皿を奪い取り、残っていた料理を美味しく戴くことにした。



 事態が急転したのは食事を終え、店を出ようとした時だった。


 営業スマイルを浮かべた店主が、私達の前に立ちはだかったんだ。


「お食事代のお支払いを」

「へ?……こういうときって長老の奢りじゃないの?」

「長老?あれはツケを貯め込んだ近所の隠居老人ですよ。今日はツケを払うというから料理と酒を出したんです。……金庫番(・・・)がおられうなら、大丈夫だと思ってね」

「げっ!?」

「お代金は諸々合わせて金貨12枚になりますが……」


 金貨12枚ってことは日本円換算で12万円!?あの偽長老……いやジジイ、一体どれだけツケを溜めてたんだ!


「サチ、支払いまかせたで」

「イサミまで!?」

「勇者の金庫番なんやろ?」

「うぐぅ……」


 ツケは知らないと言って店を出て行こうかと思ったけど、私達も料理は食べちゃったし、ただでも黒騎士の仲間認定されかけてる街で食い逃げをやらかすと確実に衛兵に捕まってしまう。

 そう考えた私は渋々ポケットの中に入れていた銀貨120枚を取り出して、テーブルの上に積み上げた。


「困るね、お客さん。小銭の支払いは20枚までにしてくれよ」

「いや、今銀貨しか手持ちがないので」

「まったく……あの爺さんの関係者はロクな奴がいないな」


 なんで他人のツケを立て替て文句を言われてるんだろう。

 世の中は不条理だ――。


 結局、よくよく考えるとあの偽長老は「黒騎士を倒して欲しい」とは一言も言ってなかったことに気が付いた。

 ただ「頼みがある」「深刻な事態だ」としか言ってなくて、今にして思えばそれは「カネもないのに飲み食いして支払いができない」ってことで。

 私が勝手に黒騎士と結びつけていただけだったんだ……。


 こんなんじゃ勇者のマネージャーやらフィクサーやらと浮かれていた自分が情けなくなるよ。

 さっき貰った依頼料も偽長老のツケを払ったら残りは銀貨3枚(約3000円)

 まぁ高校生の隙間バイトだと思えば納得できる額ではあるけどさ。


 ……私の知力(INT)、たぶんスペクタクルズで測定したら9ぐらい(平均以下)しかないんだろうなぁ……。


 満腹になったのかご機嫌なイサミを横目に、陽がトップ利と暮れた食堂の外で私がそんな事を考えて黄昏れていると、見知らぬ中年女性に声を掛けられた。


「ねぇ、そこの貴女。もしかして貴女が『黒き邪悪なる金庫番』の人?」

「えっと……なんで初対面の人に罵倒されてるのかな、私。確かに黒っぽいけど、邪悪じゃない……はずだし、金庫番は失格だけど」

「ああ、ごめんなさい。名前がわからなくて……うちのお義父さんのツケを立て替えてくれた人?」

「……偽長老の身内か!」


 どうやら声を掛けてきたのは偽長老……セベックさんという名前で、やはり門前で誰かが言っていたとおり、貸衣装屋のご隠居産だったらしいけど、ともあれその人の息子の奥さんにあたる人で、貸衣装屋の店員マリーさんと言う人だった。


 なんでも義父が溜めたツケを親切で邪悪な金庫番が肩代わりしてくれたと聞いて、お礼を言いに来たらしい。

 いや、親切で邪悪って意味わからないんだけど。


「まさかお義父さんのツケが金貨12枚にもなってたなんて……ごめんなさいね、そんな大金を支払わせてしまって」

「あはは……まぁ、ちょうど手持ちがありましたので」

「お礼……になるかどうか判らないけど、よかったらうちのお店へ寄って行かない?古着だけど、サイズの合う衣装があればお譲りするわ」

「ダメージジーンズとかあんの?」

「じーんず……?」

「まぁ、ある訳ないか」


 イサミはあまり興味は無さそうだけど、今の私達はあまり注目を集めたくない立場ではある。

 なら変装を兼ねて、この世界の衣装を調達するのはありかもしれない。


「イサミ、その格好だと野盗に間違われるから、上から羽織れるマントか何か貰ったら?」

「マントなぁ……。まるでハロウィンやな」

「まぁ、そう言いなさんなって。マリーさん、その申し出ありがたく受けさせて頂きます」


 ということでイサミは顔と装備をすっぽり隠せるマント――ただし趣味の悪いドクロマーク入りの奴だ――を貰った。

 一応、私は止めたよ?

 だってこれじゃ野盗には見えないけど、今度は陸地を彷徨く海賊にしか見えないし……。


 で、私はというとこの異世界フミィィ……じゃなくてソロモンの人達が着ている一般的な服と、その上から羽織れる地味目のフード付きパーカーを貰った。

 あ、色はもちろん黒じゃないよ!


 ちなみに貸衣装屋の店内にはさっきセベックさんが着ていた、あの長老風の衣装とぐるぐる巻きの杖も普通に陳列されていた。

 ってあの服着て飲み食いしてたのに、洗濯もせずにそのまま店に並べてるの!?


 ジト目で衣装を見ていた私に気付いたのか、マリーさんは「あれはお義父さん専用だから」と言ってたけど、私はもう欺されない。

 今着てる服も、街から出て落ち着いたら徹底的に洗濯するんだ!


 それにしてもなんで長老コスプレみたいな意味不明なものが存在してるんだろう。

 貸衣装屋そのものは古着販売の延長として理解出来るけど、こういう世界にコスプレの概念ってちょっとそぐわない気がした。


「ああ、それですか?聞いた話だとお義父さん、若い頃から長老の憧れていたらしくて」

「長老に……?若い頃から……?」

「ええ、いつかは自分も長老に、と思ってたそうだけど。ほら、長老って最近は流行らないから」

「流行廃りがあるの!?」

「だから長老として採用してくれる村や集落もなかったらしくて、仕方なく自分で長老をやっていると聞いているわ」

「……そう、なんですね」


 マリーさんの説明を聞いて余計に訳がわからなくなった。

 長老って雇われて派遣される職業だったの?

 え?私、からかわれてる?

 いや、異世界だしきっとそういうこともあるんだろう。

 私はそう考えて無理に自分を納得させることになった。


 ……けど将来の希望進路は長老、か……。

 ちょっとだけ憧れるかも。いやいや。


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