高音はかわいい、低音は筋トレ 〜ハンドベル部・春の勧誘〜
◆春、勧誘日
体育館では、部活紹介のために各部が準備をしていた。
桜ヶ丘ハンドベル部のブースには、
きらきらした目でベルを見つめる新入生が集まっている。
「これ触ってもいいんですか?」
「すごい…金色で綺麗…!」
詩織は静かに笑う。
(未だ知らないわね……高音の裏に潜む“真の重量”を……)
⸻
◆まずは高音で安心させる
「じゃあ、まずはこの子から体験してみましょう」
日奈子が差し出したのは、高音域の小さなベル。
チリーン──
「わぁっ…軽い!」「かわいい音!」
「これなら私でもできそう!」
新入生たちの顔が一気に緩む。
詩織はニコニコしながら心の中で思った。
(高音だけなら、誰でも“優雅な楽器”って勘違いするのよね……)
⸻
◆そこで先輩たちの“本気”登場
「じゃあ次、うちの部の“本気”も見せておくね」
瑠衣がニヤッと笑い、
机の下からどーんと低音ベルのケースを取り出した。
新入生:「……でかっ」
新入生:「えっ、まさかそれ…」
瑠衣は低音Gを片手で持ち上げ、
ゴンッ!! と軽く振って見せた。
チロォォン……
(重低音すぎて、音が腹に響く)
新入生:「!?!?!?」
新入生:「片手で振ってる!!!」
新入生:「あれ何キロ!?」
理央が追加で巨大ベルを二本持ち、軽々フォーインハンド。
「これまだ軽い方ですよ〜」
新入生:「軽い…?何の基準……?」
詩織がさりげなく補足する。
「うちは“文化部だけど筋肉も鍛えられる部活”だから」
新入生:「体育会系じゃないですか!!!」
⸻
◆現実を学ぶ新入生
「ベルって全部そんなに重いんですか?」
震え声の新入生の質問に、真雪が静かに答える。
「高音 → かわいい
中音 → そこそこ重い
低音 → 心してかかれ」
「説明が雑なのに妙に説得力ある!!」
日奈子がフォローするように優しく笑う。
「最初は高音から始めるから安心してね〜。
低音は筋トレ部の資格が取れてからね〜」
新入生:「資格って何!?」
⸻
◆それでも響く一音
「じゃあ最後に、高音で簡単なフレーズを合わせてみようか!」
詩織が手を振る。
チリーン──
新入生たちの不安混じりの一音は、
春の体育館にふわっと広がった。
「今のすごく綺麗だったよ」
詩織の言葉に、新入生の表情がぱっと明るくなる。
「重いし怖いし体育会系だけど……」
「でも……楽しいかも……!」
「わかる!! さっき鳴らした音、ちょっとクセになる!」
⸻
◆そして勧誘成功へ
片付けながら瑠衣がぼそっと言う。
「高音で安心→低音でビビらせる→最後に綺麗な音で締める……
勧誘の黄金パターンっすね」
真雪が冷静に返す。
「心理的ジェットコースターと言います」
詩織は笑って言った。
「大丈夫。今日来た子たち、きっと続くわ。
音を鳴らして“楽しい”と思える子は、強いから」
その言葉に、新入生たちが遠くからまたベルをのぞいていた。
⸻
ナレーション:
こうして、桜ヶ丘ハンドベル部の春が始まる。
可愛い高音と、重たい低音。
優雅な見た目と、体育会系の実態。
すべてひっくるめて──
今日も青春が、チリーンと鳴り響く。




