冬のベル部、凍えて鳴らす!
◆冬の到来
冬の桜ヶ丘といえば──寒い。
そして、ハンドベル部の繁忙期である。
文化祭が終わったあとも、
「商店街イベント」「老人ホーム慰問」「学校内クリスマス会」……と、
毎年この季節はベルの音を求められる。
「文化部なのに、年末進行があるのどうして……」
部長の詩織は苦笑しながらも、
今日も白手袋をはめてベルケースを抱える。
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◆服装問題は毎年恒例
校門前。吐く息は白く、制服の上はベストだけ。
「なんで私たち、毎年こんな格好なんですか!?」
瑠衣が全力で叫ぶ。
「ブレザー着ると腕が上がらないのよ」
詩織が冷静に答える。
「じゃあセーターとかカーディガンとか──」
「校則でNG。上にブレザーを羽織る場合のみ可」
真雪が淡々と補足する。
「つまり、“防寒単体は禁止”ってこと!?」
「そういうこと」
「……体育会系の発想じゃん!」
「ベル部は精神的に筋トレ部だから」
詩織が胸を張って言い切る。
全員:「文化部どこ行った!?」
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◆白手袋と冷たい金属
全員の手には真っ白なコットン手袋。
「これ、防寒用じゃないんですか?」
中学生の七海が尋ねる。
「違うわ、ベル保護用。素手で触ると音がくすむの」
詩織が淡々と説明する。
「つまり、ベル優先・人間二の次……」
瑠衣が肩をすくめる。
「その通り。ベルのために凍える、それが桜ヶ丘の冬よ」
「部長、誇らしげに言わないでください!!」
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◆商店街イベント
駅前の商店街では、
イルミネーション点灯式の特設ステージが用意されていた。
机を並べ、クロスを敷き、風で飛ばないように重りを置く。
それだけで準備に30分。
「もう準備が本番よりハードです!」
瑠衣が嘆く。
「文化部とは……」
真雪がつぶやく。
「もう文化部の定義が崩壊してる!」
詩織が笑って言う。
「いいのよ。ベル部は“文化系筋トレサークル”だから」
「名乗り方がややこしい!」
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◆商店街のジングルベル
演奏が始まる。
チリーン──
街中に響く、定番のあのメロディ。
「今日の曲、『ジングルベル』『きよしこの夜』『もろびとこぞりて』ね」
「昨日もその前も同じでしたよね!?」
詩織が笑う。
「冬はループする季節なの」
「もう“鳴らすより鳴らされてる”気分です!!」
瑠衣が叫ぶ。
それでも、観客の拍手と笑顔が温かい。
通りがかったおばあちゃんが「きれいねぇ」と声をかけてくれる。
その一言で、寒さがほんの少しやわらぐ。
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◆老人ホーム演奏
翌日。
腕が筋肉痛のまま、今度は老人ホームへ。
「昨日よりベルが重く感じる……」
「気のせいじゃない。筋肉が泣いてるのよ」
ロビーには、おじいちゃんおばあちゃんたちが集まっていた。
「今年も来てくれたのねぇ」
「あなたたちの音、好きなのよ」
その言葉に、全員の顔がほころぶ。
詩織が深呼吸して、合図を出す。
チリーン──
優しい音がロビーに広がり、
観客の手拍子と笑顔が重なる。
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◆そして、ホットドリンクの奇跡
演奏後。
撤収作業を終えたころ、
結衣子先生が温かい笑顔で近づいてきた。
「はい、お疲れさま。ホットココアとホットレモン、どっちがいい?」
全員:「先生、それが今日いちばんのご褒美です!!」
手袋を外してカップを受け取る。
指先に戻るぬくもりと、甘い香り。
「……先生、こういう差し入れあるなら、あと10曲いけます」
「やめなさい、無理しないのも青春よ」
「それ今までで一番正しい名言です!」
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◆冬の総括
詩織が小さく笑って言う。
「今年の冬、もう『ジングルベル』何十回やったかしら」
「脳内BGMが鳴りっぱなしです!」
「次にベル鳴らしたら条件反射で踊り出しそう」
笑いながら、全員でホットドリンクをすする。
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ナレーション:
こうして、べラーズの冬は今日も鳴り響く。
寒さと重さとジングルベルにまみれながら、
それでも音は、誰かの心をあたためる。
そして彼女たちは、来年もきっと言うのだ。
「冬はつらいけど、ホットドリンクのために頑張れる」




