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鳴らせ青春ハンドベル!〜女子高ベル部の放課後はいつもドタバタ〜  作者: 阪井秋


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3/5

文化祭ひっぱりだこ

◆桜ヶ丘の秋、恒例行事


秋の桜ヶ丘女子学園は、少し慌ただしくて、少しお上品。

中高一貫・私立の「桜華祭おうかさい」は招待制で、

お客さんはほとんど生徒の家族。

模擬店に並ぶお母さん、研究発表を真剣に聞くお父さん──

どこか平和で、穏やかな時間が流れていた。


そして体育館では、毎年恒例のプログラムがある。


「桜ヶ丘ハンドベル部 ~秋の音の調べ~」


……そう、彼女たちの出番である。



◆準備は演奏のうち


放課後の音楽室では、部長の詩織が鉛筆をくるくる回していた。


「演奏は明日の午後。準備も含めて一時間。

クラス展示とも被らないから大丈夫ね」


「よかった〜! 去年は模擬店のたこ焼き焼きながら来たもんね!」

瑠衣が笑う。


「私は研究発表が午前中なので問題なしです!」

美咲が元気に手を挙げた。


「真雪は?」

「……生徒会の裏方で運営。ステージ設営、朝から入ります」

「うわぁ、お疲れさま〜」


日奈子がにこっと笑うと、真雪は淡々と答えた。

「ベル設営より軽いので、セーフです」

「比べる基準おかしい!」



◆編曲は足し算


机の上に広がるピアノ譜。

詩織は赤鉛筆でメモを書き込みながら言う。


「今年の新曲、ベル用譜面がないから、音を足して作るわ」

「え、足すんですか!?」

七海が目を丸くする。


「そう。削ると寂しいけど、足せば華やかになる。

ハンドベルは“増やして完成させる”楽器なの」


「カスタマイズ系楽器っすね!」

瑠衣がうなずく。


「詩織先輩、これ全部手書きですか?」

理央が覗き込むと、詩織は涼しい顔で答えた。

「うん。手書きのほうが、音の重みが出るから」


「え、重みって物理的な意味で?」

「……ちょっと静かにしてもらえる?」



◆運搬戦線、異常あり


文化祭前日。

ベル部恒例の「大行進」が始まった。


音域ごとに分かれたベルケース。

高音は軽いが、低音は重量級。


「うわ! このケース、10キロあるんですけど!?」

瑠衣が悲鳴を上げ、理央が腕をぷるぷるさせながら持ち上げる。


「大丈夫、ベル筋で支えます!」

「ベル筋って言うな!」


結衣子先生が最後尾から声をかける。

「落としたら音が狂うわよ〜! 予算も狂うわよ〜!」

「予算!?」

「音より重い話出てきた!」



◆設置は儀式


体育館に着くと、机を並べ、クロスを敷く。

譜面台を整え、ベルを音順に並べる。


「机もう一列追加ー!」「クロスのシワ伸ばしてー!」

「去年それでベル転がったから!」


息を合わせて並べ終わる頃には、

すでに全員の腕が限界を迎えていた。


「これが“準備も演奏のうち”ってやつですね……」

美咲が床に座り込み、

日奈子がのんびり微笑む。

「筋肉も音の一部よ〜」

「そんな音いらない!!」



◆リハーサル開始


「よし、一度通してみようか」

詩織の合図で、演奏スタート。


チリーン──


……のはずが、すぐに混乱。


「テンポズレてる!」「Cが二人鳴ってる!」「どっち!?」

「心で合わせて〜」

「出た! 根拠ゼロ理論!!」


低音担当の瑠衣は「重い!」を連呼し、

高音の七海は「キレイ〜」と聞き惚れて出遅れ、

紗英は譜面をひっくり返して逆から読んでいた。


「紗英、それ上下逆!」

「うそ! 逆でも鳴ったから気づきませんでした!」

「鳴るけどそれ違う!!」


詩織は頭を押さえ、深呼吸して言った。

「……うん、カオス。いつも通りね。」



◆リハ後の現実


「じゃ、ベル片付けるわよ」

詩織の声に全員の動きが止まる。


「えっ!? 今日リハだけですよね!?」

「ベルは置きっぱなし厳禁。全部音楽室に戻す!」


「そんなぁぁぁ!」

全員が叫びながら再び運搬開始。

高音チームは軽快に歩き、

低音チームはもはや筋トレ部だった。


「明日また設営あるのに〜!」

「ベル部の文化祭は筋肉リレーだと思って!」

「誰がうまいこと言えと!」



◆本番当日


昼過ぎ、体育館に静けさが戻る。

家族連れが並ぶ客席。

演劇部の公演が終わり、照明が落ちる。


「生徒会の巡回終わりました。間に合いました」

息を切らせて真雪が合流する。


「おかえり。じゃ、行くわよ」

詩織が軽く指を鳴らす。


チリーン──


音が重なり、天井で響く。

それは派手でも、完璧でもない。

けれど、彼女たちが音を足して作り上げた音だった。



◆終演後


片付けを終えたころ、瑠衣がぽつり。

「準備・本番・撤収で三部構成っすね。

どこがいちばん大変って、全部ですね」


「名言きた」

詩織が笑い、

日奈子がにこっとまとめる。

「でも、いい音だったよ〜。ね、真雪ちゃん?」

「……うん。筋肉も鳴ってました」


結衣子先生がベルケースを持ち上げ、ぼそっと言う。

「……青春って、ほんとに重いのね」


全員:「ほんとそれ!!」



ナレーション:

こうして、今年の桜華祭も無事に終わった。

鳴らした音と、残った筋肉痛は、

たぶん同じくらいの重さだった。


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