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悪意による病弱  作者: 宝月 蓮


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3/3

病弱の真相

 デボラが亡くなり、ステファンは拠点をロートレック子爵邸に移した。

 エリアーヌの仕事を手伝う為だ。

(それにしても、まさかこんなに上手くいくとは。邪魔者を一気に排除出来て、これからエリアーヌとの時間が増える)

 クククッと笑うステファン。

 実はデボラが亡くなる原因を作ったのは、何とステファンだった。


 デボラにエリアーヌとの時間を奪われたことにより、ドス黒い怒りが雨雲のようにステファンの全身に広がった。

 そして、我慢の限界に達した時、ふとデボラが病弱だと言われていることを思い出したのだ。

 どうせ病弱であることは嘘だと分かっていたが、ステファンはその情報を利用することにした。


(デボラ(あのゴミ)にじわじわと三ヶ月かけて()()()()()を飲ませた甲斐があった)

 デボラが苦しむ様子を思い出し、ステファンは心底どす黒く愉快な表情になる。

(本当に()()()()()()()()のだから、感謝して欲しいくらいだ)

 絶対にエリアーヌには見せられない表情だ。

(それにデボラ(あのゴミ)を殺したら、ロートレック子爵夫妻(役立たずのゴミ共)も憔悴し切ってもう社交界には出られないだろう。これからのロートレック子爵家はエリアーヌと僕の時代だ)

 エリアーヌを虐げていた彼女の両親も追いやることが出来て、ステファンは非常に満足していた。


 昔からエリアーヌのものを奪っていたデボラ。ここ最近では病弱という言葉を使い、更にエリアーヌから奪おうとしていた。

 それを利用してステファンは、デボラを本当に病弱にして殺したのである。






♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔






 一方、デボラの病弱の真相を知らないエリアーヌは、この日ステファンと一緒に出席する夜会の準備をしていた。

(あら、今日の夜会はレオンティーヌ様もいらっしゃるのね。……デボラが生前お世話になっていたみたいだから、挨拶にお伺いしないと)

 エリアーヌは準備に気合を入れた。


 そして夜会の時、エリアーヌはステファンと共にレオンティーヌの元へ向かう。

 波打つようなブロンドの髪に、ジェードのような緑の目。近くで見ると、思わず見惚れてしまう程の華やかな美人である。

「あらまあ」

 レオンティーヌはエリアーヌとステファンを見て、ジェードの目を丸くした。

 しかしその様子も様になっている。

「ロートレック子爵家長女、エリアーヌ・モニク・ド・ロートレックでございます。こちらは私の婚約者、ロデーズ伯爵家次男のステファンでございますわ」

「ロデーズ伯爵家次男、ステファン・ジョフロワ・ド・ロデーズでございます」

「エリアーヌ様、ステファン様、楽になさってちょうだい。それにしてもエリアーヌ様はロートレック子爵家のご長女なのね」

 レオンティーヌはジェードの目を意外そうに見開き、エリアーヌを見ている。

「はい。レオンティーヌ様には、妹のデボラが大変お世話になりました。妹はかねてより体調を崩しておりまして、先日亡くなりました。妹のことを気にかけてくださり、本当にありがとうございました」

「まあ、デボラ様が……。お体が弱い方でしたものね。葬儀の方は、忙しくて行けずにごめんなさいね」

 レオンティーヌは眉を八の字にして、肩をすくめていた。

「いえ、そんな。妹はレオンティーヌ様に思っていただけて、幸せだったと思いますわ」

「そう言っていただけると……少し心が軽くなるわ」

 レオンティーヌはふわりと微笑む。

 淑女として完璧な笑みである。

 エリアーヌは彼女から色々学ぶべきことがあると感じた。

「こうしてエリアーヌ様とお話をするのは初めてだったわね。そうだ、エリアーヌ様、せっかくですし、今度ヴィルヌーヴ侯爵家の夜会にご招待するわ。ご婚約者のステファン様も是非。(わたくし)も、婚約者のコルネイユ公子殿下をご紹介するわ」


 レオンティーヌは君主の家系であるカノーム公家(こうけ)から、第二公子コルネイユを婿として迎えるのだ。


「ありがとうございます。楽しみにしております」

 エリアーヌは口角を上げた。

 隣にはステファンがいて、更にカノーム公国の令嬢の鑑と言われているレオンティーヌと知り合えた。

 デボラや両親には振り回されたが、今となってはもうどうでも良いと思うのであった。






♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔






(……デボラ様、亡くなってしまったのね)

 レオンティーヌはデボラの姉エリアーヌからそれを聞き、クスッと笑った。


 現在、レオンティーヌはヴィルヌーヴ侯爵邸の自室で一人、窓の外を見つめていた。


 三年前、成人(デビュタント)したばかりのデボラを見たレオンティーヌは、こう思った。

(何なのあの子。何というか、目の形が気に入らないわね)

 最初はそう思うだけだった。決して言葉や態度には出さない。

((わたくし)はヴィルヌーヴ侯爵家のレオンティーヌよ。自分の品格が落ちてしまう言動は決してしないわ。でも……他人を嫌うのは自由よね)

 レオンティーヌはそう考えていた。

 しかし、デボラを見かける回数が増えるごとに、苛立ちは増す。単純接触効果の逆である。

(自分の手を汚さずあの子を排除することは出来ないかしら?)

 そこで思いついたのが、デボラを病弱扱いすることだった。

 レオンティーヌがデボラの体を心配する素振りを見せる。

 すると周囲はデボラが病弱であると認識する。

 レオンティーヌはカノーム公国の社交界で影響力が大きいので、ないものをあるようにすることは簡単だった。

 そして、皆がレオンティーヌに忖度し、デボラを心配し始める。頃合いになったところで、病気が移ってしまうかもしれないと言い、デボラを社交界から追放するつもりだった。


 しかしその目論見は良い意味で外れる。

 デボラは本当に体調を崩し、亡くなったのだ。

(まさか死んでしまうなんて。可哀想ね。でも、これでもうあの子の姿を見なくて良いのね。せいせいしたわ。神様、あの子の命を奪ってくれてありがとうございます)

 クスッとほくそ笑むレオンティーヌである。

(それにしても、エリアーヌ様と言ったかしら。あの子の姉なのね。エリアーヌ様は全然苛立ちを感じないし、きっと良い関係が築けそう)

 レオンティーヌは空を見上げてふふっと微笑むのであった。


 デボラは病弱である。

 それは複数の悪意により生み出されたことだった。

読んでくださりありがとうございます!

これで完結です!

少しでも「面白い!」「ゾクゾクした!」と思った方は、是非ブックマークと高評価をしていただけたら嬉しいです!

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― 新着の感想 ―
まぁまともな婚約者なら普通にこんな妹に靡かないわな(ㆁωㆁ*)そして手段はともかくこんな妹排除するよね(ㆁωㆁ*)
ステファン氏によるオチが付いたと思ったら、まさかのレオンティーヌ様という噂の大元…! 小気味よく楽しく読ませていただきました。
悪意という混沌から光が生まれた、かしら?
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