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第1話 暗室に浮かぶ影

校舎の片隅にある暗室は、いつもひっそりとしていた。黒いカーテンに包まれ、古い薬品の匂いが漂う空間。現像皿に沈む液体の中で、写真がゆっくりと姿を現す。


「……これか」


山下沙耶は、指先で慎重にフィルムを引き上げる。浮かび上がるのは、昨日の放課後、廊下で微笑んだクラスメイトの姿。しかし、どこか表情が歪んでいた。


――欠けている。


沙耶は小さく息を吐いた。「忘れかけた気持ち……かな」


そのとき、暗室のドアが静かに開いた。


「手伝うよ、沙耶」


佐伯陽が、少し照れくさそうに言った。

「……ありがとう」


陽は現像用の手袋を着け、慎重に液体をかき混ぜる。二人の間に静かな緊張が流れた。


写真の中の“欠け”は、ほんの一瞬だけ、夜の光に揺らめく影として実体化する。見えない誰かの後悔や、言えなかった言葉。沙耶はそれを一つひとつ読み解き、声をかける。


「大丈夫、きっと伝えられる」


その瞬間、写真の中の笑顔は少しだけ柔らかくなった。


だが、次に手に取った古い無名のフィルムに、沙耶は息を呑む。


映っていたのは、笑わない少女の顔。どこかで見覚えがあるような……でも、思い出せない。


暗室の空気が一瞬、重く沈む。


――これは、私の探していた一枚かもしれない。


沙耶は、ゆっくりとそのフィルムを現像皿に沈めた。夜の光に揺れる影が、少女の記憶を呼び覚ます。

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