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無神論者

作者: てこ/ひかり

 全くこの世にゃ、神も仏もありゃしねぇ。


 元々信じちゃいなかったが、ついこの間、俺は等々実感したね。なぁに、風邪を引いたのさ。これが少々タチの悪い風邪で、普段なら一日寝てりゃ治るのに、3〜4日経っても震えが止まんねぇンだ。


 終いにゃ熱も出てきてよ。熱くて寒くて、もう訳分かんねぇの。頭が朦朧(ぼぉっ)としてきて、さすがにコイツァ不味いと思ったが、だけど医者に行く金なんてねぇからさ。仕方なく手拭い濡らして、そんで中に氷突っ込んで、頭に巻いて寝てたのよ。


 寝てたっていうか、ほとんど気絶してたっていうか。良く分かんねぇまま、俺ァ、いつの間にかぼんやり夢を見てた。


 夢ン中で、森の中にずらーっと石段が並んでてさ。それで俺、「あっこれは寺だ」って思ったんだ。神社かも知れないけど、正直普段そんなとこ行かねぇし、違いは良く分かんねぇ。


 どっちでも良いけど、それで長い階段登って、寺に入って行ったらさ、病人がそこに寝てるわけよ。どうもそれが俺なんだよな。おかしいだろ?


 じゃあ今病人を見てる俺は誰なんだ? って話だが。そしたら見てる方の俺が、寝てる方の俺に向かって、何だか良く分かんねえ呪文みたいなのをブツブツと唱え出して、

「もう大丈夫ですよ。後は寝てたら治りますから」

 って言うんだよ。


 自分の声じゃなかった。何となく、俺はそいつの声を坊主だと思った。思ったって言うのは、俺はそいつの目を通して病人の俺を見てるから、そいつの顔は見えなかったんだよ。だけど何となく……坊主に俺が憑依した、って言えば分かるかな。とにかくそんな感じなんだよ。


 それで、それでパッと目が覚めた。そしたら、相変わらず熱はひどいし、寒気はひどいしさ。氷は溶けて頭はビショビショだし、もう何なんだよチクショウ……って、ふと頭に巻いた手拭いを見たら、

『〇〇経 〇〇院』

 って書いてあんのよ。良く良く見たら何だか薄っすらお経みたいなのも書いてあって。どこの何教だか知らねえけど。知らずに適当に巻いてたけど、多分どっかの寺の手拭いだったんだ。


 それで信心薄い俺もさすがに「あっこれは」ってなってさ。「これはもしや……」って、治ったら儲けもんだしさ。動こうと思えば動けたけど、確かめてやろうと思って、そのまま横になって寝てたのよ。


 そしたら何と……本当に治っちまった。


 これには驚いたね。ちょっと本気で信じかけた。「こいつぁ本物だ!」って、俺はもう嬉しくて嬉しくて。急いで手拭い屋に走って、

「億万長者」

って書かれた手拭いを、それからずっと頭に巻いてたんだけどさ。


 ちっとも効果がありゃしねえ。なぁ? ダーメだ。やっぱりこの世にゃ、神も仏もありゃしねぇんだな。

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