まずはお茶でも。お名前は?
キミの行先はガタガタの線路
それでも歩みを進めた先には―
誰か説明してくれる人が居たら助けて欲しい
何故僕はいま謎の空間でこたつに入りながらお茶を飲んでいるのか
「まずはお茶でも…というのがおてもなし?なのでしょう?どうぞ」
そして何故とんでもない美人(自称女神)が目の前に居るのか。そしておもてなしですそれをいうならば…あっ睨まないで下さい御付きの方
どうしてこうなった…?僕はお茶を啜りながら数時間前―朝の出来事を思い出していた
確か―
日本時間午前7時25分。いつも通りに目が覚める。何も変わらない日のハズだった
いつも通り誰も居ない一階に降りて1人で朝食をとる。両親は7年前に他界、そのあと面倒をみてくれた祖父母も去年他界し天涯孤独の身である僕の朝はこんなもんである
「行ってきます」
仏壇に声を掛け学校へ向かう。朝起こしに来る幼馴染や一緒に学校へ向かう友人も居ない…友達が居ないわけじゃないんだからね!
カラッとした青空が真上にあるいい天気だ。僕には何の関係も無いけれどなんかいい日になりそうで嬉しい…という思いは、このあとの出来事を考えると全く見当違いだったんだろう。未来なんて誰にも分からないとはいえ、まさか目の前で轢かれそうになっている子供が居るなんて思わないじゃないか
「とぅ!」
固まっている子供を押しのけるまでは良かったんだけど着地を考える余裕なんて凡人にはない訳で。ぶちぶちと耐えきれない質量が僕に襲いかかってそっからはフェードアウト。んで気がついたら謎の空間。あっ、死んだ僕?あっさり過ぎない?って呆けていた訳である。まぁ…仕方ないよね
果たしてここは天国なのか地獄なのか。両親と祖父母は居るのか。そんなことを考えながらキョロキョロしていると突然目の前に和室とこたつが現れたもんだからまぁ驚くよね。僕が外国の人だったらまた違うものが出てきたのかしら。死後の世界って不思議だねぇ
「どうぞ、お入りになってください」
凛と澄みわたる様な声がしたかと思うと、白い衣装…ベールっていうのか?を着たとんでもない美人さんがこたつ越しに現れた。すっごいシュールです
「あの…ここは?」
おずおずとこたつに入りながら尋ねる。あっぬくい…
「そうですね…あなた方がいう死後の世界というやつでしょうか。少し違いますが」
はい、死んだのが確定した瞬間である。取り乱す暇も無かったというか残すものが何も無かったと言うべきか。あ、プリント出してないや
トン。と僕と美人さんの前に湯気をたてた湯飲みが置かれる。どうもとお礼を言いながら見上げると気の強そうな美人さんが不機嫌そうに僕を見下ろしていた。あの世って美人だらけなんですねぇ
「まずはお茶でも…というのがおてもなし…?なのでしょう?どうぞ」
「あ、いただきます…」
お茶を一口飲みふぅ…いや、落ち着いている場合なのか?
「あのー…」
「はい」
「ここって…天国なんですか?」
恐る恐る尋ねる。地獄に行くほど悪行をした覚えも無いが天国に行けるほど善行をした覚えもない。とはいえその間はあるのだろうか。そこに僕の会いたい人たちは居るのだろうか
「…ここは天国ではありません。そもそも死後の世界でもありません」
…思っていた斜め上の答えがきた。死んだのに死後の世界じゃない?どこなんここ?
「ここは女神の間。選ばれた人の魂が運ばれてくるところです」
「え…」
あの…そんなこと言われても分からないというか。というかそんなこと知らないんで死後の世界に連れてって下さいよ。死んだあとくらい好きにさせて欲しいというか…
「単刀直入に言うぞ。お前はこのあと別の世界に行きそこで使命を果たす存在となるのだ」
お茶を出してくれた気の強そうな美人さんに言われるが…どういうこと?
「メル!もう少し話の順序があるでしょう…あなたにはこれから、別の世界に行って欲しいのです」
「別の世界…?」
平行世界ってやつですか。いやそんなアニメみたいな話されても
「はい。その世界に行き、人々を救って欲しいのです…勝手な話ではありますが」
勝手だと分かっているなら話は早い。そんなもの―
「嫌です」
断るに決まっている。1人助けてあっけなく死んだヤツに何を言っている?そんなヤツに人々を救え?出来るわけないだろう
「早く死後の世界に連れて行って下さいよ。そこに行けば死んだ人に会えるんでしょう?」
別に死にたかったわけじゃないけど死んだんだ。せめて天国にいるであろう両親や祖父母に会わせてくれ。それじゃなきゃ死んじまった意味が無い。何かの間違いで地獄に居るなら地獄でもいい
「お前が言う死後の世界というのは死者が過ごす世界のことをいうのだろうが…そんなものは無い」
「…は?」
死後の世界がない?じゃあ死んだ人間はどうなるんだ?
「お前たち人間の教えではそうかもしれないが死後過ごす世界などここにはない。全ての魂は分別され罪を清算するか生まれ変わる順番を待つだけだ」
「…本当に?」
「ああ、そんなものは―」
「メル!」
ベールを着た美人さんがぴしゃりと言うと気の強そうな美人さんが口をつぐむ
「…貴方様は優し過ぎるのです」
死後の世界も待っている人も居ない。それならなんのために、なんのために―僕たちは生きて
「え…」
暖かな感覚に顔を上げるといつのまにか両手を握られていた。その手の上にぽたぽたと僕と彼女の雫が落ちる。いつのまにか僕は泣いていて、彼女も泣いていて。泣きながら見つめ合う
「…このことを告げることはいつも苦しいのです。それ以上にあなた達が辛く苦しいことも分かっているけれど…そうすることが我々の使命なのです」
ぽたぽたと泣きながらそれでもこちらを見つめる彼女から目が離すことが出来ない。
「会いたい人に会わせられなくてごめんなさい…でも少しだけなら―」
とん、とおでこを合わせられる。少しの間そうしていると、ぽんと1枚の―写真が現れた
そこに写っているのは今の僕…と両親と祖父母が笑顔で側に立っていた。本来ならばあり得ない写真。僕の手を握ってくれるおとうさんとおかあさんがいる写真。僕が望んでいたものがその写真にはあった
「これ…」
「貴方の記憶を頼りに再現したものです。これくらいしか私には出来ませんが…」
少しでも貴方の心に寄り添うことが出来たなら…そう言って写真を胸にあてるとぽちゃんと僕の胸に沈み込んでいった
「いつでも取り出すことが出来ます。挫けそうなとき、貴方の支えになるように…」
本来ならばあり得ない現象なんだろうけど。でも胸の奥底が暖かくなった気がした
ボーン…ボーン…ボーン…
柱時計が鳴り僕の後ろに二枚の襖が現れる。こんなところまで和風にしなくても良いんじゃ無いだろうか…とか思う余裕があるのはなんでだろうか
「ごほっげほっ!…どうやら時間の様ですね。説明もあまり出来ませんでしたが…」
いやまぁそれはそうなのだが…彼女の涙や家族写真に関しては嘘偽りなど無いように思えてしまったからか、なるようになれと言うべきか…道はひとつしかないんだろう
「…やれるだけやってみます。写真、大事にしますから」
彼女の手をそっと離し、襖へと向かう。スパァン!と思い切り開け放たれた向こうには謎の渦巻きが巻いていた
「行ってらっしゃい…貴方の道中に幸運がありますように」
「…行ってきます」
渦の中に足を踏み入れる。そういや、誰かに行ってきますなんて言うの久しぶりだな…そんなことを考えながら僕は渦に飲み込まれていった
―それから少しして空間から襖とこたつが消えたあと
「ゲホッ!がッ…!」
「キヲラ様!」
よろめく彼女にベルが駆け寄る。大丈夫ですと息を荒げながら言う彼女にしがみつきながら
「少しは御自分の身体のことを考えて下さい…!度重なる瘴気の進行のせいで貴方様への信心も薄れ力も弱まっているというのに…無理に力を使っては!」
「良いのですよメル…これが私の使命なのですから」
弱々しく答えるキヲラは満足気に笑う
「彼ならきっと…人々の希望になるでしょう」
「何故そう思うのです…?」
それはね?と微笑みながら
「彼は今までの召喚者より…人間らしいからですよ」
―その頃―
「おおっ!召喚に成功したぞ!」
「なんだかいつもより煙の量が多くありませぬか?長老」
「確かに…?まぁこっちの方が威厳があって宜しい!」
なんか声がするけど煙っ!?ゴホゴホと咳込みながら這い出て辺りを見回すと洞窟の様なところに飛ばされていた。襖から洞窟はギャップが凄いな…とか思っていいると
「此度の召喚によって貴方はここに喚ばれた…貴方の名は?」
声の方を見上げると人…にしてはちょっと毛深いというかその鬣と耳はどちらかと言うと獣寄りというか…え?ホントに異世界なの?ここ…えっと名前―
「戸崎…雫です」
異世界ファンタジーなんて書いたことねぇよ…怖い…
ツキイチで更新出来たら頑張って行きます、宜しくお願い致します