64 婚約(ユリウス視点)
「父上、何故です⁈婚約を伏せるなんて!」
俺は珍しく、父に対して怒っていた。
もともと宰相である父とは顔を合わせる時間が限られている。本格的に第二王子側近として公務に就いた自分も相当に忙しく、さらに顔を合わせるのが難しい状況だ。
同じ王宮で仕事をしていても会えないが、それでもなんとか時間を合わせて婚約の報告に来たら「婚約の事実を当分伏せろ」と言う。
学園卒業までに自分で婚約者を決めたのだから、親は基本的に口を出さないと思っていた。
俺は婚約をいち早く公表して、レイに悪い虫が寄らない様にしたいと考えていたのに。
婚約は家同士の結び付きのため、家長である父の意見は絶対だ。
「時期をみて公表しろと言っている。お前も忙しいだろう」
「成婚ならまだしも、婚約発表するくらいの余裕はあります」
というか、早々に発表の機会を捩じ込みたい。
「ロバートはまもなく結婚式だったな。ライオール殿下の側近が立て続けに身を固めるのはうまくないだろう。お前がフリーだと思われた方が他家を取り込む余地がある」
「そんな事をしなくても、私が上手くやります」
「ライオール殿下の成婚式が終わらないと、お前も動けまい」
「だからと言って……これではセレス家側に要らぬ憶測を呼びます」
他ならぬレイにどう思われるか!
俺としては直ぐにでも成婚したいのに……
不誠実だと思われたくはない。
「ならばセレス伯爵家には私から説明しよう」
父上が自ら動くとは思わなかったので少し驚いた。
しかし家長として動くならここは大人しく任せる事にする。
まずは婚約しないと、成婚に辿り着けないのだから。
お立ち寄り頂きありがとうございます。
また、ここまでお付き合い下さりとても嬉しいです。
今日明日で完結する予定です。最後まで見届けて下さると幸いです。




