63 求婚
自分の中にある混乱も、ユリウス様の言葉がもたらす驚きも、触れ合っているうちにだんだんと溶けてゆくようだ。
やっと身体が離された時には、私も多少は落ち着いていた。
私はユリウス様を見上げる。
アイスブルーの瞳が私を見ている。
最近は視線が甘く感じるのだが、今は何か違う様だ。
彼は私の手を握り、紳士の礼をとる。
「アレキサンドライト、俺と結婚してほしい」
私は目を見開いた。
驚きと、嬉しさ。
以前に告白されたことはあるが、あの時とは多分違う。
クローディア公爵子息として、私に言っているのだろう。正式な求婚の申し入れだ。
この手を取れば、もう戻れない。
あの頃思い描いていた、自分には。
でも、いつからか、心の中でずっと、ユリウス様のその言葉を待っていたような気がする。
「……ユリウス様、とても嬉しいです。
ですが私は貴方に相応しい身分ではありません」
私は自分の気持ちを正直に答える。
貴族社会の中にある、自分の立ち位置も。
ユリウス様が十分承知していることをわかっていても。
「……身分は関係ないと言っても?」
「公爵家にとって身分は大事かと思います」
「うちは実力があれば問題ない」
「ならば私には実力がありません」
「……本当にそう思ってる?」
「はい」
前までの私なら、ここで話は終わりだった。
けれども今は、これでは足りない。
今の私の目的は、
「ですが、これから頑張ろうと思います。私もユリウス様と共に在れるように努力します」
アイスブルーの瞳を見ながら答える。
瞳に宿るのは不安と期待?
「それは結婚してくれるということ?」
「はい、喜んで」
彼はめずらしく照れながら笑った。
最近は時々こういう顔のユリウス様が見られるので、私も嬉しくなる。
「大切にするよ。俺のアレキサンドライト」
私にとって、今までは名前が少し重かった。家宝の宝石と同じ名で、私も物と同じように他人から求められたことがあるから。
しかしユリウス様に呼ばれると、それは別の響きのように思えてしまう。私自身を指してくれる、新しい名前のように。
「私も大切にします。ユリウス様」
お互いに手を伸ばす。
触れた唇を離すことが、なかなか出来なかった。
お立ち寄り頂きありがとうございます。
また、ここまでお付き合い下さりとても嬉しいです。残り5話で完結する予定です。最後まで見届けて下さると幸いです。




