62 誕生日
私は下級官吏登用試験に合格し、王宮で働くことになった。
家族は心配していたが1年契約の雇用と知り、渋々認めてくれた。というか、私を説得するのを半ば諦めたようだ。
セレス領の引継書も渡し、領地にある私の名義の会社も養父に譲渡した。これからは私が関わらなくても困らない。養父が自由に手腕を振えるだろう。
ユリウス様は毎日王宮に通って忙しく、なかなか会えない。
それでも私の誕生日に花束とカードが届き、祝いの言葉を頂いた。
私は自分の誕生日など伝えていないから驚いたが、ユリウス様の気遣いを素直に嬉しいと思った。
カードには「近々会いに行く」と添えられている。
近々とはいつのことだろうか?
会えることを期待している自分がいる。
最近は彼のことを考える時間が増えているな、と感じる。
部屋に飾った花を見ながらボーっとしていると、小さくガラスを叩く音がした。
風で何か当たったのだろうか?
夜中だし、ここ2階だし。
気のせいかと思いながらバルコニーに近づくと、見知った姿があった。
「レイ」
彼はいつもの様に私を呼ぶ。
「ユリウス様、どうして……?」
私は居るはずのない人の笑顔に、一瞬幻覚かと疑う。とうとう幻を見てしまう程、自分は彼に会いたかったのだろうか?
扉を開けてバルコニーに出ると、実体があった。私の幻覚ではないらしい。
でも夜空を背景に銀色の髪が綺麗に見えて、幻のようだとも思えた。
「レイ、誕生日おめでとう」
ユリウス様は私の手の甲に口付ける
仕事が終わって転移魔法で来たそうだ。
忙しいユリウス様らしいと思う。
私は花とカードのお礼を言う。もちろん多忙な中、私に会いに来てくれたことも嬉しいと伝えた。
「お花もとても綺麗で……ご覧になりますか?」
私は部屋の中に招き入れようとする。さすがにバルコニーに留めておくのは失礼だろう。
私が部屋に入ろうとすると手を引かれてユリウス様の腕の中に捕えられる。
「俺のことを信頼してくれるのは嬉しいけど、あまりに無防備だと心配になる」
耳元で囁かれて、我にかえる。
夜中に男性を部屋に誘うなんて、私はなんてはしたないことを……!
しかも自分は夜着のままだし……迂闊すぎる!
今更後悔しても、色々と遅かった。
「……すみません、軽率でした」
恥ずかしくて顔が上げられない。
「非常識な時間に訪問をした俺が悪いから。
でも油断しているレイを見れたからいい」
夜中で声を抑えるのはわかるが、耳元で囁かれ続けると心臓がもたない。
私は堪らず離れようとするが、ますます強く抱き締められてしまう。
「俺も自制が効かなくなりそうだがら、今日は部屋に入るのはやめておく」
しばらく、そのまま無言で過ごした。
お立ち寄り頂きありがとうございます。
また、ここまでお付き合い下さりとても嬉しいです。
あと6話で完結する予定です。最後まで見届けて下さると幸いです。




