61 セレス嬢(クローディア公爵視点)
「先程の者をどう思う?」
官吏登用試験責任者が部屋に戻ってくるなり、クローディア公爵は尋ねた。
試験責任者は爵位は下ながら仕事のできる男で、公爵が最初に登用した者だった。
「面白い人材かと思います。優秀さも折り紙付きです」
責任者はそう言いながら公爵にファイルを渡した。ファイルの中身は『アレキサンドライト・セレスに関する身辺調査報告について』
公爵は目を通して、うーんと唸った。
「とんでもない才媛だ。良くこれまで目立たずにいられたものだ」
「おそらく意図的に目立たぬ様にしていたのでしょう」
「どういうことだ?」
「8年前、閣下がセレス家を助けようとして私に調査を指示されました。後に他家への介入になるとして調査も打ち切られましたが、既に調べた中には『セレス家のアレキサンドライト』を巡って色々と事件があったと記憶しています。彼の家の宝石を狙ったものかと思いますが、幼い彼女は渦中にあったようで。その経験から目立たないよう努めていたのかと」
「あの時は時の宰相に阻まれ、歯がゆい思いをしたな。まさか彼の家の娘と、このような形で会うとは思わなんだ。
しかも彼女がやってみたいという話……実に興味深い」
「実現すれば画期的なプロジェクトになりましょう。しかも下級官吏の権限で可能にすれば、他派閥の横槍もありますまい」
「確かにな。しかしこれほどの才覚を見せれば、これからは周りから浮くのではないか?ただでさえ女性官吏の登用は初となるのに」
公爵は頭を押さえた。
「懸念は尤もかと存じますが、閣下の『広く人材を登用する』政策を体現する象徴的存在になるかと存じます」
「ふむ…」
責任者の思うところは、公爵も考えていた。
「このような逸材をいち早く見つけられるとは、御子息の慧眼は素晴らしいですな。
王立研究所から表彰されれば、世間が放っておくはずはありません。他に利用される前に、早めにこちらに囲い込みたいところです」
尤もな意見だ。
利用価値の高い娘と将来有望な家門、さらに王宮では考えつかない画期的なプロジェクトを立案し、実現できる人材。
どこぞの貴族に目を付けられる前に、手が出せないようにする方が安全だろう。
息子も同様に考えたのだろう。
もっとも理由についてはそれだけではないだろうが。
「傾国の宝石のようにならぬのなら良いが」
一度輝いてしまえば、その存在が見つかってしまえば、周囲が放っておかない宝の石。本人の意思に関係なく、求められるようになってしまう。
その貴重な石を巡って人々が争い、国が傾いた歴史があるくらいなのだから。
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また、ここまでお付き合い下さりとても嬉しいです。
明日明後日で完結する予定です。最後まで見届けて下さると幸いです。




