59 王宮へ
「セレス君、少しよろしいか?」
「はい」
「試験が終わって疲れているところ悪いね」
「いえ」
私は今王宮にいる。
王宮にはいくつもの宮があって、身分によって立ち入れる場所が限られている。
私は平民も入れる一ノ宮で下級官吏登用試験を受けていた。
王宮から実技試験の通知が来たからだ。
実は学園在学中に下級官吏登用の筆記試験を受けていた。
孤児院の子からゆくゆくは受験したいと相談され、実際の試験を知るために試しに私自身が受けてみたのだ。
現宰相の意向で、下級官吏登用試験は数年前から身分や出身、年齢、性別を問わず受験できるようになった。
貴族は別枠で試験があるので、言わばこれは民間から優秀な人材を登用する機会を作ろうとのことだろう。
性別不問とはいえ女性で登用された例がなかったため、まさか私が筆記試験に通るとは思ってもみなかった。
さらに今日の実技試験をもって登用されるか判断される。
呼ばれた試験官についていくと、三ノ宮に入った。王宮は奥に行く程、身分の高い者か要職者しか入れない。
私はてっきり不合格を言い渡されると予想していたので、様子が違う事に緊張してきた。
通された部屋には中年の身なりの良い男性が座しており、ソファに通される。
彼は官吏登用試験の責任者だという。
「セレス君、先程の実技試験は素晴らしかったよ。課題解決の手腕も見事だった」
「恐れ入ります」
「筆記試験の出来も素晴らしい。君のような優秀は人材は、できれば上級官吏として登用したいのだが、どうだろう?」
思いがけない話に驚いた。
上級官吏とは大臣等の要職者に仕える者。貴族である一般官吏から昇進することで上級官吏になれると聞いている。
「大変有り難いお話ですか、登用して頂けるとのでしたら下級官吏としてお願いしたく存じます」
「どうしてかね?悪い話ではないと思うが」
「実績のない者が上級官吏になっても、周囲が納得しないと存じます。私には難しいかと」
「しかしながら下級官吏は平民出身者だ。伯爵家のご令嬢に勤まるとは思えないが」
なるほど、私の身元を調べてのことか。
下級官吏登用試験の申込には身分を記入する欄がないため、書類上は私が伯爵令嬢とはわからない。
一応、申込者の身元は確認するんだな。
「務まらないと判断されれば、解雇して頂きたく存じます」
「……」
「身分を問わずと伺っておりましたが……家の事をお調べ頂いておりましたら、話が早くて助かります。家柄に忖度なく、私個人として登用試験の合否をご判断頂けると幸いです」
「……」
官吏登用試験の責任者はふぅと息を吐き、私に微笑んだ。
「なかなか気骨のあるご令嬢だ。誤解のない様に言うが、君の試験結果は申し分ない」
責任者がソファから立ち上がり、続き間の扉を開ける。
すると、見たことのある貫禄のある男性が部屋に入ってきた。
私は驚いたが、表情に出す前に礼を取る。
「お目にかかれて光栄です。クローディア公爵閣下」
ユリウス様のお父様だった。
お立ち寄り頂きありがとうございます。
また、ここまでお付き合い下さりとても嬉しいです。
明日明後日で完結する予定です。最後まで見届けて下さると幸いです。




