51 昔のこと2(ユリウス視点)
俺はそんな状態だったので、婚約者選びの茶会で祖父が会ったというアレキサンドライト嬢のことは意に介していなかった。
祖父は彼女と会ってから魔法の研究に力を注いでいた。彼女からなんらかの刺激を受けたようで、いきいきとしていた。
一方、婚約者選びから解放された俺は、何かから逃げる様に魔術の習得にのめり込んでいった。
おかげで年若いながら魔術師と名乗って不足のないくらいに、魔術が使える様になってゆく。
俺は魔法より魔術の方が好きだったので、魔法にはさして興味をひかれなかった。
魔法は術の因果関係が必ずしもあるわけではなく、あやふやなものという認識だからだ。
だから魔術の考え方に近い転移魔法だけを習得した。
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第二王子ライオール殿下と同じ年だった俺は、王立学園付属幼稚舎に入る前から殿下の遊び相手として交流していた。
幼稚舎に入る頃には将来の側近候補として、殿下と行動を共にすることになる。
そのため王立学園に入学する頃には、大半を王都で過ごさなければならなかった。
領地に行く時間がどんどん減り、晩年の祖父とはほとんど会う時間がなかった。
俺は歳を重ねてもなお女性を近付けない様にしていたので、祖父にはずっと心配させていただろうと思う。
祖父の最期にも間に合うことが出来なかった。
だから祖父はこの箱を俺に残したのだろうか?
彼女を領地に誘ったのは、箱を開ける場にいて欲しいと思ったからだ。
祖父が『才能の原石』と称した彼女に。




