50 昔のこと(ユリウス視点)
領地で過ごすのは楽しい日々だったが、6歳を過ぎた頃から、俺への後継者教育が始まって様子が変わる。
後継者教育については、公爵家を継ぐ身ゆえ異論はなかった。しかし祖父と過ごす時間が減ってしまうと思うと残念だった。
だから慣れない事にも懸命に取り組み、祖父の所に行く時間をなんとか減らさないように努めた。
教養や学問、立ち居振る舞い、公爵家の後継ぎとして必要なことは何でもやった。
だが茶会と称した婚約者選びだけは苦痛だった。
家のために幼い頃から婚約者を定めることは理解している。しかしどうにも馴染めない。
俺が公爵家の嫡男だからか、この外見のせいか、黙っていても色々な人が近寄ってきた。
相手は貴族だ。口では俺のことを好きだと言っても、腹の中ではどう思っているのかわからない。相手の言葉通りに受け取れない苦しさが付き纏う。
自分とさほど年が変わらない令嬢達は自身を売り込み、自分の娘を売り込みたい親と一緒になって迫ってくる。
気乗りしない娘に強要する親もいた。この茶会に招待されなければ、そんなことをする必要もないだろうに。
俺の相手として集められたであろう令嬢達にも申し訳ない気持ちになる。
自分のいる前でも、いない場所でも、誰かが言い争っている。その争いの原因は俺のことのようだ。
茶会以外の、俺の行き先でもそういうことが度々起こる。
相手は、こちらの意思や都合はお構いなしだ。
俺の事は勝手に決めつけられ、自分達の都合良く解釈される。
誤解を解こうとしても、話が通じないことが多い。
なぜこんなことをするのだろう?
相手に感情的に話されても、こちらは納得できない。
理不尽な言い分で、感情と行動が不整合、そして俺の人生にとって不条理。
物事はどうして、魔術の理論みたいに綺麗ではないのだろう?
その頃の俺は人に疲れ、不信のようになっていたのだろう。表情の死んだ俺を見兼ねて、祖父が婚約者選びを止めてくれた。
表情を失った俺に対し、祖父は繰り返し説いた。
「自分にとって必要な人は必ず見つけられる。だから成人するまでに人を見る目を養うように」と。
祖父にとって祖母はまさに「自分にとって必要な人」だったそうだ。
俺はそんな人を見つけられるとは思えなかったが、師である祖父の言葉だから素直に受け入れる様に努めた。
祖父に何度も説かれる内に「自分にもそんな人を見つけられたらいいな」と思える程度にはなっていった。
お立ち寄り頂きありがとうございます。
1人視点なので情報が偏っております。全体がわかるまでは読み進めて頂けると嬉しいです。
またよろしくお願い致します。




