49 祖父のこと(ユリウス視点)
クローディア領の屋敷を訪れ、久しぶりに祖父の部屋に入る。この部屋は祖父が生前使っていたままにしている。
俺にとって祖父は良き師匠だった。
前公爵であった祖父は魔術研究の第一人者で、今の我が国の魔術基盤を作った人物らしい。
自身は優秀な魔術師だったが、専ら研究に興味があったようだ。
祖父は歴史ある公爵家を背負う立場であったが「妻と一緒に居たいから」という理由で早々に父に爵位を譲り、領地に引きこもって祖母と仲睦まじく過ごしたという。
祖父は祖母に関することだけにはモチベーションが高いらしく、祖母のためにと独自の魔術を開発してしまうくらいだった。
俺がレイにかけている『相手の居場所がわかる術』もその一つだ。
だから祖母が亡くなった時、祖父の落胆は大きく、その喪失を埋めるため一時は狂ったかのように研究に没頭したという。
俺が生まれたばかりの頃に祖母が他界したので、祖父母の話は後々家令から聞いた。
現公爵である俺の父は宰相として多忙な上、母を特別大事にしているので、その結果子供は放任になる。だから俺は幼い頃から、祖父が居る領地で過ごすことが多かった。
祖父は俺を不憫に思ってくれたのか、自分の研究以外の時間に、俺に魔術を教えてくれた。
魔術は理論的に理解して、自分の体を通して展開すると発動する。術の因果関係がはっきりしているので、きちんと理解しないと欲しい結果は得られない、不思議なものだった。
師である祖父の説明はわかりやすく、子供の俺でも理解できた。そして魔術を展開して欲しい結果を得られた時の面白さに、俺は夢中になった。
また理論的に整理された思考は綺麗だ。
例えるなら星の軌道に似ている。
決まった軌道を描き、破綻しない宇宙。
複数の事象が規則的に調和してゆく美しさが綺麗だと思う。
祖父も魔術に対し同じ印象を持っている様で、俺が意見を言うと嬉しそうに笑ってくれた。
それ以降、祖父と距離が近付いたと思う。
俺は魔術を教えてもらう時間以外も祖父の部屋に入り浸った。
俺は祖父が好きだったし、祖父も俺を可愛がってくれた。
領地で過ごすのは楽しい日々だったが、6歳を過ぎた頃から、俺への後継者教育が始まって様子が変わる。
お立ち寄り頂きありがとうございます。
1人視点なので情報が偏っております。全体がわかるまでは読み進めて頂けると嬉しいです。
またよろしくお願い致します。




