46 闇の中の邂逅
一体、此処は何処なのだろう?
真っ暗な空間に自分1人の気配。
暗闇の中で自分の手を見た。
足元は闇に呑まれて見えない。
私は先程までクローディア公爵家の領地の屋敷の、ユリウス様のお祖父様の部屋にいたはず。
ユリウス様はどこだろう?
周囲を見渡す。目が慣れてきて暗闇の中の濃淡がわかる様になった。
すると闇の中に動くものがいる。ゆっくり近付くと黒い大きな犬の様だ。
「こんにちは。ここは貴方のお家かしら?」
犬の鼻から少し離れたところに、自分の手を差し出す。犬はくんくんと匂いを嗅いで、ペロっと指を舐めた。
「いきなり来てごめんなさい。少し此処に居ても良いかしら」
もちろん答えはない。
承諾の意なのか、犬は寝そべったようだ。
黒い犬は暗闇に溶けてしまったかのようだ。
様子は気配で察するしかない。
私もその場で腰を下ろす。
暗闇の中で闇雲に動くのは得策ではない。
状況が変わるまでここに居よう。
静寂と暗闇で時間の感覚がないから、どれくらい座っていたかは分からない。
普通なら怖いとか、もう出たいとか、パニックになるのだろう。私も昔は怖いと思っていた。
でも残念なことに慣れてしまった。同じ様なことが何度もあったから。
手に温かいものが触れる。犬が私の側に来た様だ。毛がふわふわしていて気持ちがいい。
私は犬の背を撫でて過ごす。
独りではないというのが救いになるのだな、と思った。
どれくらい時間が経ったのだろうか。
犬が立ち上がって、ぐるると唸った。
闇の先から、誰かが近付いてくる。
暗闇の中でもわかる銀髪と長身の体躯。視認できる程に近くに来れば見知った顔だった。
「ユリウス様!ご無事だったのですね?」
「アレキサンドライト」
ユリウス様が両手を広げて近付いてきた。
犬はいつの間にかいない。
「心配したよ」
ユリウス様が慈しむような眼差しを向ける。
頬に手が当てられて顔が近付く。
私は目を開けたまま動かなかった。
唇が触れる前に呟く。
「貴方はどなたですか?」
目の前の男性の動きがピタリと止まる。
「先程『ユリウス』と呼んでくれただろう?」
アイスブルーの瞳の色も同じだ。
「近付かないと気配がわかりませんから。
貴方がこの魔法をかけたのですね?
ユリウス様はご無事ですか?」
「自分の心配よりもユリウスが先か?」
「貴方からは悪意を感じません。私の身は大丈夫だと思います」
「こんな状況なのに冷静だな。もう私が誰かは分かっているのだろう?」
「お目にかかれて光栄です、クローディア前公爵閣下。なぜこのような真似を?」
お立ち寄り頂きありがとうございます。
1人視点なので情報が偏っております。全体がわかるまでは読み進めて頂けると嬉しいです。
またよろしくお願い致します。




