45 クローディア領へ
卒業式の翌日、私はユリウス様とお会いする約束をしていた。ユリウス様に頂いた衣装のお礼として、彼が今日会うことを希望したのだ。
ユリウス様は晴れて王立学園を卒業され、これから本格的に公務に就かれる。
第二王子ライオール殿下の側近として、王宮で仕事をなさるのだ。
ライオール殿下も本格的に公務に就かれる。
そして学園を卒業し成人した殿下には、成婚の儀が控えている。
国を挙げての一大行事のため、ライオール殿下の側近はこれから多忙を極めるだろう。
そのため卒業後の翌日くらいは休めるように、殿下が予め手配して下さっていたらしい。
朝、馬車でセレス家に到着したユリウス様はいつもより簡素な格好だった。
初めて見る姿でなんだか新鮮だ。
だが元が美形なので、シンプルな服装の分、顔立ちが余計目立っている気がする。
ユリウス様は転移魔法でクローディア領に行くと言う。
「ユリウス様、私は自分の行ったことのある場所しか転移魔法で移動できないのです」
「そうなのか。大丈夫、俺がレイも一緒に転移させるから」
そう言うが早いが足元に魔法陣が浮かび上がる。
そもそも複数人転移は難しい上に、魔法陣の展開が早すぎる!
ユリウス様は魔術師としても優秀だと聞いていたが、魔法も一流だった。
転移した先は緑に囲まれた大きな屋敷だった。私も幼い時に一度来たことがある、クローディア公爵家の領地のお屋敷だろう。
門から入って行くと、家令以下使用人が勢揃いしていた。
「お帰りなさいませ、ユリウス様」
「ただいま、こちらはアレキサンドライト・セレス伯爵令嬢だ」
「ようこそお越しくださいました、セレス伯爵令嬢」
「アレキサンドライト・セレスです。よ、よろしくお願い致します」
家令に挨拶した後、ユリウス様は私の手を引いて屋敷の奥へ進んでいく。
母家を抜けて、離れの方に来たらしい。
部屋に入ると、本が壁一面に並んでいる。図書室なのだろうか?
私が壁伝いに目を動かしていると、一枚の絵が掛けてあった。
肖像画の様だ。銀色の髪の男性と、白銀色の髪の女性が寄り添っている。
私が絵に見入っていると、ユリウス様が隣に立った。
「この方々は?」
「俺の祖父母」
「ユリウス様に面影が似ていますね」
「そうか?祖母は早くに亡くなって記憶がないが、祖父とはこの屋敷で一緒に過ごしたんだ。ここは祖父の使っていた部屋で、俺も良く入り浸っていた」
「そうでしたか」
「父親が放任だった分、祖父は俺を可愛がってくれてね。魔術を教えてくれたのも祖父だった」
ユリウス様の祖父はクローディア前公爵閣下。私が5歳の時に会った、あの上品そうなお爺さんのことだ。
「祖父は俺が学園を卒業したら、これを開けるように言っていた」
ユリウス様が机の引き出しから何かを取り出す。
「箱、ですか?」
私の手に、組み木細工の箱が乗せられる。
「わぁ、綺麗ですね。ん、これって……」
「レイには分かった?これは魔術で作られている」
木でできているような質感だが、魔術で実体化させたものだという。
「魔術?ですか……」
私には微かに魔法の気配がした。
魔術でできた物体を掌に乗せたことがないから、魔法の気配と勘違いしてしまったのだろう。
「ユリウス様、貴重な物を見せて頂きありがとうございます。これから箱を開けるのですか?」
「ああ、何が入っているのやら」
そう言ってユリウス様は、手早く箱の細工の仕組みを動かしてゆく。
複雑な手順で解錠される物だと思うのだが、ユリウス様にかかるとあっという間だった。
私は組み木細工の秘密箱を、以前市場で見たことがあった。その時は面を4回のスライドさせれば開く細工のものだった。
しかしユリウス様が手にしている細工は、それよりも複雑そうだった。ユリウス様曰く、手順が50回以上あるとのこと。
ユリウス様は手を動かしつつ、頭の中でその先の動きを高速で計算されているのだろう。
あまり表情が変わらないが、夢中になっているのか少し楽しそうに見えた。
しかしこんな複雑な仕組みを涼しい顔で解錠するユリウス様もすごいが、こんな複雑な物を魔術で作る前公爵様もすごい。
「……中身は空か」
ユリウス様がポツリと言う。
私は彼の手の中にある、解錠され開いた箱の中を覗き込んだ。
瞬間、ゾワっと身震いする。
これは魔法の気配、しかも相当強い!
「ユリウス様!」
私の声は届いたのか、届かなかったのかもわからない。
視界が暗転した。
お立ち寄り頂きありがとうございます。
1人視点なので情報が偏っております。全体がわかるまでは読み進めて頂けると嬉しいです。
またよろしくお願い致します。




