42 ブロウ元伯爵子息との再会
「アレステ!」
私の腕を掴んだのは、制服姿のトロイ・ブロウ元伯爵子息だった。
「……トロイ様、腕を離して下さい」
トロイ様は今はブロウ家の親戚筋に引き取られているはず。今の家名を知らないから、とりあえず以前の名で呼ぶ。
「アレステ、僕とやり直そう。一緒に来てくれ」
「お断り致します。不干渉の誓約をお忘れですか?」
確か前にも同じやり取りをしたな。
「ブロウ家はもう無いから誓約も無効だ」
「いいえ。婚約破棄した時にトロイ様個人と私も誓約を結んでいます」
「それでも一緒に来てほしい」
「お断りします。腕を離して下さい」
このまま馬車にでも連れ込まれたら困る。
私は何とか腕を解きたかったが、トロイ様の力が意外に強いので難しそうだ。
どうしようか?
「アレステ、僕が悪かった。謝るから」
「謝らなくて結構です。アメリア様と幸せになって下さい」
「アメリアは僕がブロウ家でなくなったら去って行ったよ」
「……」
トロイ様は寂しそうに言った。
「アメリアは僕がブロウ伯爵子息だから一緒にいただけだった」
「……」
ブロウ家とドロール家の顛末について、私にも一端はある。二人に対して何も思わないわけではないが、『真実の愛』で支え合ってほしいと願っていた。
「だから僕にはもう君だけなんだ」
トロイ様、それは違います。
「……トロイ様、私は貴方と一緒に行きません。腕を離してくれなければ、私は魔術を使います」
魔術が使えるとハッタリを噛ます。
私が使えるのは古代魔法の方だけど。
「ふっ、君は僕に使わない。それくらいわかる」
「……試してみますか?」
トロイ様は自信があるようで動じなかった。
私はできれば魔法を使いたくない。
どうしようか?
「手を離せ。トロイ・ブロウ」
聞き慣れた声が響き、場の空気が凍りつく。
トロイ様と私は驚いて地面を見た。
私達の周りの地面がゆっくりと凍りついていく。
一瞬トロイ様の手が緩み、腕が自由になった。
その隙に私は距離を取る。
私を背に庇う様に、見慣れた後ろ姿が現れる。
学園の制服を来た長身の男性、銀色の髪。
「ユリウス様」
私を庇う様に、トロイ様の間にユリウス様が立ち塞がる。
ユリウス様が氷の魔術を使ったのだろう。
後ろ姿だが、ユリウス様が怒っている気配が伝わってくる。
「アレステ!お願いだ!」
トロイ様はユリウス様に構わず叫ぶ。
空気がピリっとして、ユリウス様が怒る気配が増す。
私は急いでユリウス様の手を握る。
彼に魔術を使ってほしくない。
そして彼の横に立ち、トロイ様と向き合った。
「トロイ様、私は一緒に行きません」
「どうして……」
トロイ様の顔が歪む。
「トロイ様、貴方に婚約破棄された時、私は感心したのです。ブロウ伯爵の言いなりだったトロイ様が、初めてご自分で動かれたことに。
それはアメリア様のためでしょう?
真実の愛なら諦めずに追求して下さい」
「……」
「トロイ様の幸せを祈っています」
その後、トロイ様はユリウス様が呼んだクローディア公爵家の御者に連れて行かれた。
連れて行かれる時、トロイ様は小さな声で私に「すまない」と謝った。
そして最後に「アレステは自分の為に魔術は使わないよ」と言った。
「……買いかぶりです」
私は小さな声で応じた。
お立ち寄り頂きありがとうございます。
1人視点なので情報が偏っております。全体がわかるまでは読み進めて頂けると嬉しいです。
またよろしくお願い致します。




