41 卒業式
卒業式は恙なく終わった。
卒業生代表のライオール殿下の答辞は素晴らしく、生徒会役員揃っての卒業に在校生は涙した。
在校生は2学年下までしか参列できないため、この会場にいるのは私より年上ばかり。在学中に交流があったのはシルフィーユ様と元婚約者くらいしかいない。
私は卒業生席の端に座り、チラチラ寄越される視線と、加えて後ろから突き刺さる視線に耐え、ひたすら瞑想していた。
特待生(=飛び級試験合格者は学費が免除される)の表彰で名を呼ばれた時に、その場でお辞儀をしたくらいだ。
式後に母と合流する。母はクローディア公爵夫人と一緒だった。
「卒業おめでとう」
「2人とも素晴らしかったわ」
「ありがとうございます」
ユリウス様と私は揃って礼をする。
その姿を見て、公爵夫人はしみじみと言う。
「2人のこのような姿が見られて、とても嬉しいわ。ユリウスが卒業する時に1人だったらと、ずっと心配していたのだけれど本当に良かった」
シルフィーユ様からユリウス様の婚約の『約束』を聞いていなければ……。
クローディア公爵夫人の言葉を、深読みしそうな自分を諌める。
「クローディア公爵閣下も主人も、公務がなければ出席するはずだっだのに残念ね」
母がおっとりと言う。
「二人はこれから卒業パーティーね。セレス伯爵夫人、そろそろ参りましょうか」
「いえ、私はパーティーには参加しないので、お母様と一緒に帰ります」
すると母がめずらしく首を振った。
「レイと一緒に帰るのも嬉しいのだけど…。
レイ、人生で卒業パーティーは今日だけよ。先生方に感謝をお伝えする貴重な機会です」
「……はい、お母様」
「楽しんでらっしゃい」
母の言うことは尤もなので、素直に応じた。
✳︎
卒業パーティーは学園の講堂で行われた。
私はユリウス様にエスコートされて入場する。
立食形式のパーティーで、会場には着飾った卒業生と教師達が入り混じり華やかだった。
真っ直ぐにライオール殿下の元へ行き、ご挨拶。
殿下に卒業のお祝いを申し上げる。
ライオール殿下の元にはリブウェル公爵子息とシルフィーユ様が既に控えていた。
「ユリウス様、一緒に居てくださりありがとうございました。私は先生方に挨拶をしてから失礼致します」
「俺も一緒に行く」
「ユリウス様は殿下の側にいらっしゃるべきです」
「……でも心配だ」
「帰りは馬車を拾いますから。私の事は心配なさらず、ユリウス様の務めに集中して下さい」
私はユリウス様と別れ、先生方に挨拶をして回った。
特にお世話になったニール教授は来期から王立研究所に戻られるそうで、私も別れを惜しんだ。
けれど教授からは「また会えるから」と意味深な台詞で握手された。
いつも気難しい顔をなさる教授なのに、珍しく笑顔だったのが嬉しい。
私に話しかけて来る卒業生も多かったが、早々に切り上げる。在学中に交流がない人ばかりなので、よく知らないからだ。
母に勧められなければ、パーティーに出席するつもりがなかったが、先生方に挨拶が出来たのは本当に良かったと思う。
私は会場を後にする。
馬車を拾える大通りに向かって、学園の敷地を突っ切って歩く。
卒業パーティーの最中だからか人気がなかった。
もう少しで学園の敷地を抜けるかというところで急に人影が動き、私の腕を掴んだ。
「アレステ!」
制服姿のトロイ・ブロウ元伯爵子息だった。
お立ち寄り頂きありがとうございます。
1人視点なので情報が偏っております。全体がわかるまでは読み進めて頂けると嬉しいです。
またよろしくお願い致します。




