39 ライオール殿下の来訪
「シルフィーユお嬢様、ロバート様がお見えになりました」
イヴェル侯爵家の侍女が声をかける。
「えっ⁈急にどうしたのかしら?」
「それと……第二王子殿下とクローディア公爵子息もお見えになりました」
「何で⁈今日は生徒会の活動はないはずなのに……」
第二王子ライオール殿下、ユリウス様、シルフィーユ様は学園の生徒会役員だ。
卒業式も近いし、生徒会の急な仕事かもしれない。
「シルフィーユ様、私、今日は失礼致します」
私は慌てて、椅子から立ち上がる。
「その必要はないよ、セレス嬢」
颯爽と第二王子ライオール殿下が入ってくる。その後にリブウェル公爵子息とユリウス様が続いた。
シルフィーユ様と私は急いで礼を取る。
「ライオール殿下におかれましては、ご機嫌麗しゅう」
「シルフィーユ、茶会を邪魔してすまないね。
視察が早く終わったから寄らせてもらった。セレス嬢がこちらに居ると聞いてな」
ん?私にご用があるとのこと?
「ライオール殿下、私に何かご用でしょうか?」
「うむ。急な話だが王立学園の卒業式に出席してほしい。学園長の意向でな。卒業生として式に顔を出すだけでもよいから」
殿下からの予想外の申し出に身が竦む。
本来なら私から断ることはできないが、これは何とか辞退させて頂きたい。
「恐れながら殿下、私は既に退学した身ですので誠に申し訳ございませんが……」
「セレス嬢、折角だから出席しましょうよ!私セレス嬢と一緒に卒業したいわ」
シルフィーユ様からの予想外の申し出に、さらに身が竦む。お気持ちは大変嬉しいのだが。
「シルフィーユ様……。で、ですが、私はもう学園の制服等は処分してしまい、卒業式に出るのは……」
制服はドロール男爵家別荘に監禁された時に着ていたので、結構ボロボロになったのだった。
「あら、大丈夫よ!女生徒は私服だから。だって晴れの日を着飾りたいじゃない?だから女子は卒業式から私服なの。その後の卒業パーティーで着替えなくてもよいように」
「!」
ますます行きたくなくなってきた……。
「セレス嬢、シルフィーユは言い出したらきかないから、諦めて出席してくれるかい?」
リブウェル公爵子息が優しく言う。
高位の方に重ねて言われては辞退も難しい。
「学園長の意向だし、なによりライオール殿下の意向でもあるしね」
リブウェル公爵子息が優しく言う。
優しい言い方で、痛いところを突かれる。
さすがライオール殿下の側近でいらっしゃる。
「…つ、謹んでお受け致します。よろしくお願い致します」
私は観念した。
「うむ。式のエスコートはユリウスにしてもらうと良い。卒業式を楽しみにしているぞ」
ライオール殿下が満足気に言う。
ユリウス様は黙ったままだった。
その後ライオール殿下は王宮へ、私とユリウス様はセレス家に馬車で向かっている。
シルフィーユ様はリブウェル公爵子息とお茶会をするそうだ。
「レイ、殿下とシルフィーユが強引にすまない」
「いいえ。学園長先生の意向ですから……」
「詫びに、卒業式で着る服を贈らせてほしい」
「めっ、滅相もありません!家にあるものを使いますから」
私は叙勲祝賀会のドレスを思い出して、全力で断る。実はあのドレスはオーダーメイドした一点物だったそうだ。私史上最も高価なドレスに、後々恐縮したのだった。
「レイは卒業式に出るのは初めてだろう?ドレスコードわかるか?」
「シルフィーユ様に伺います」
「シルフィーユに相談すると、着せ替え人形の様にされると思うが」
シルフィーユ様に呼ばれて、あれこれ服を着せられることは想像に難くない。
シルフィーユ様には帰り際に卒業式でお揃いコーデを提案されかけたのだ。
『学園の花』と名高いシルフィーユ様とお揃いなんて、畏れ多くてできない。
「同伴者が贈るのが普通と聞いている」
ユリウス様はしれっと言う。
それって親が子に衣装を用意することではないの?
「ユリウス様には叙勲祝賀会の時、ドレスを頂いたばかりですから」
「王弟殿下からのお言葉もある」
ぐ、痛いところを突かれる。
私に衣装を贈らないことで、ユリウス様が後々王弟殿下に悪く思われる様なことは避けたい。うーん、うーん。
「何も悩むことはないだろう?」
「いえ、ユリウス様から頂き過ぎです」
「ならば卒業式の翌日にでも、お返しをもらおうか」
「……」
私は結局観念した。
お立ち寄り頂きありがとうございます。
1人視点なので情報が偏っております。全体がわかるまでは読み進めて頂けると嬉しいです。
またよろしくお願い致します。




