34 夜会(ユリウス視点)
「ユリウス、最近セレス子爵家と懇意にしているそうだな?」
「ええ、父上。セレス子爵家は伯爵家になりますし、公爵家として気にかけるのは当然かと」
「それだけか?」
「長男オリバー殿は王太子殿下の側近ですし、次男クリス君にはエリザベスがくっついて離れません。長女アレキサンドライト嬢は学園に在籍しておりましたから、第二王子殿下も気にかけておられます」
「して、お前はどうなのか?」
「私も同じ学園に在籍していた者としてセレス嬢を気にかけておりますよ」
「……それだけか?」
「彼女は優秀ですので、ゆくゆくはサラの家庭教師にどうかと考えておりました」
「……女性と距離を置くお前が、珍しく興味を示すから気になっておったが」
「今度、父上にもきちんと紹介しますよ」
珍しく父上から話しかけられたと思ったら、案の定セレス子爵家の話題だった。
おそらくセレス子爵令嬢にドレスを贈る件を耳にしたからだろう。
女性にドレスを贈るのは初めてだったので母上に相談したから、そこから伝わったのだろうが。
自分でもらしくないと思っているが、叙勲祝賀会でエスコートさせてほしいとレイに申し込んだ。
ドレスは祝賀会で着るためのもので、彼女に似合いそうなものを選んだ。
彼女の養母によると、彼女はドレスや装飾品は好んで買わず、自分で貯めたお金は孤児院に寄付してしまうらしい。
普段の服が質素なのは、孤児院に良く行くために、機能的な服装を揃えた結果らしい。
彼女らしいといえばそうだが一度は彼女の着飾ったところが見たいと思い、ドレスを贈ることにした。
俺はパーティーは苦手だが、今回は少し楽しみだ。
結果として、着飾ったレイは、なんというか想像以上に綺麗だった。ドレスは良く似合っていて、できれば他の人に見せたくないと思ってしまう。
その容姿に、優雅な立ち居振る舞いを加えれば、いやでも人目を引いてしまう。
自分も目立つ容姿だと思うが、レイも負けず劣らず衆目を集めていた。
普通なら怖気付くような視線に晒されながら、彼女は何事もなかったかのように涼しい顔をしていた。
宝石アレキサンドライトは光源を吸収して、変色するように人の目に映る。それは『昼のエメラルド、夜のルビー』と呼ばれるほど。
彼女の今までの姿と、今夜の彼女はそれ程までに違う。その多面性に、さらに多くの人が惹きつけられてしまうことだろう。
今回のことでよく分かったが、レイは自分のことに無頓着だ。自分に向けられる熱っぽい視線も、甘い言葉も、全く眼中にない。
ただただ自分の役割を果たすことに集中している様子だった。
だから俺の視線にも気付かないのだろう。
お立ち寄り頂きありがとうございます。
1人視点なので情報が偏っております。全体がわかるまでは読み進めて頂けると嬉しいです。
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