32 夜会
大広間に移動して夜会が始まった。
先ずは国王陛下と王妃陛下に挨拶する。
初めて言葉を交わす殿上人だが、臆することのない様に気持ちを強く持つ。
「ユリウスが身内以外をエスコートするのは珍しいな」との国王陛下お言葉。息子の友人を見遣る温かい視線が印象的だった。
次に王太子殿下と王太子妃殿下に挨拶。
「ユリウスが張り切ってパーティーに来るのは珍しいね」とのお言葉。王太子殿下の後ろに兄が控えていて、目が合ったら微笑んでくれた。
さらに第二王子ライオール殿下と婚約者ミア様に挨拶。
「ユリウス、あまり周りを威嚇すると余裕のない男だと思われるぞ」とのお言葉。さすがユリウス様の幼なじみ、気安い言葉に仲の良さが垣間見える。
この後は筆頭公爵夫妻であるユリウス様のご両親に、本日2度目の挨拶。
「ユリウス、大事なのはわかるがあからさまだとかえって周囲の興味をひくぞ」「ユリウスは昔から気にいると絶対手離さないから」とのお言葉。ご両親に何か心配されているユリウス様、大丈夫かな?
この後も高位貴族への挨拶周りは続いたが、その間ユリウス様はずっと私の隣に寄り添ってくれていた。そのためか想定していた揶揄いや嫌味はなかった。
夜会は貴族の社交場とはいえ、男性が主体。エスコートしかり、ダンスしかり、男性がリードして成り立っている。だから女性は経験が足りなくても、男性の隣で華を添えていれば何とかなるもの。
トロイ様と一緒に参加した夜会は何とかならなくて大変だったが、今回は驚くほどに楽だった。
ユリウス様は「ただ隣に居てくれればいい」と仰ったけど本当にそうで、高位貴族との挨拶や会話も全てリードしてくれた。
「この人の隣にいれば、きっと乗り切れる」と思わせてくれるような安心感がある。
ユリウス様が場慣れしていることを踏まえても、若くしてこれほど卒なく立ち回れるなんて本当にすごいと思う。
その立場から、幼くしてこの環境に身を置かれているからだと思うが、どれほどの努力があったのか私には想像できない。
私は知っている。
社交の場に出れば、子供でも一人前の貴族としての振る舞いを求められる。逆に言えば、子供だから容赦されるわけではないのだ。
✳︎
セレス伯爵家は予想よりすんなり受け入れられているようだ。養父母の人柄のおかげだろう。
もしくは先刻まで子爵家だったからか、少なくとも脅威ではないと思われているようだ。
大広間の音楽が変わり、舞踏会の時間に入る。
まずは国王陛下と王妃陛下のダンスが披露され、私はそれに見入った。
「レイ疲れた?大丈夫か?」
ユリウス様が顔を近付けて聞く。
「大丈夫です。お気遣いありがとうございます」
私はゆったりと微笑む。
「ならば私にファーストダンスの栄誉を頂けるかな?」
「喜んで」
国王陛下と王妃陛下がフロアから下がられ、ユリウス様に手を引かれて私もフロアに入る。
ユリウス様とは初めてダンスをするが、とても踊りやすくてびっくりした。
比べては失礼だが、トロイ様とのダンスとは雲泥の差だった。男性のリードが上手いとここまで違うのかと感心した。
「レイはダンスが上手いな。驚いた」
「ユリウス様のリードのおかげです」
私は近くでクリスとエリザベス様が踊っていることに気付く。
私は自然とクリスに目がいく。今日のためにクリスとは一緒にダンスの練習をしたが、練習成果が出ているようだ。
「レイ」
耳元で名を呼ばれ、ユリウス様に目線を戻す。
「他の人を見ない様に」
ユリウス様が真顔で言う。
「クリスですよ?」
「今は私が相手だからダメだ。罰としてもう1曲踊ってもらう」
「!」
基本的に一曲ごとに相手を変えるのがマナーだが、意中の相手とは連続してダンスすることで意思表示になる。ユリウス様と続けて踊れば、周囲への格好のアピールになるだろう。
ユリウス様とダンス待ちのご令嬢には気の毒だが。
結局3曲立て続けに踊って、ユリウス様と一旦離れることにした。なのにユリウス様はなかなか手を離さない。
「ユリウス様、侍従長から呼ばれてますよ」
「……」
「私の事はお気になさらず」
ユリウス様は心配性なのかな?
なるべく安心させるように微笑みを作る。
「なるべく、他の人と踊らないように」
「わかりました」
ユリウス様は私を両親のところに連れて行って、やっと手を離した。
「レイ、とても綺麗だよ。夜会の花だな」
「お父様、ありがとうございます。お母様のお見立てのおかげです」
「私はレイを着飾るのが夢だったから、叶って嬉しいわ。こんなに注目されるとは思わなかったけれど」
「注目?ユリウス様とご一緒だからですね」
「それだけではないと思うけど…」
母がおっとりと答えると、後ろから声をかけられた。
「セレス伯爵令嬢、一曲お相手頂けませんか?」
私は気付かなかったが、背後に十数人の男性がいた。伯爵位から男爵位まで、年齢も様々だ。
ポッと出の伯爵家に興味があるのだろうか?
色々探られても困る。
ユリウス様もああ言っていたし、ここは無難に断ろう。
トロイ様も私が他の人と踊ると不機嫌になるのでお誘いがあってもお断りしていたから、断り文句は慣れている。
「お誘い頂きありがとうございます。申し訳ございませんが…」
「セレス伯爵令嬢は私と踊る約束があるので、すまないな」
隣から第二王子ライオール殿下に声をかけられた。
お立ち寄り頂きありがとうございます。
1人視点なので情報が偏っております。全体がわかるまでは読み進めて頂けると嬉しいです。
またよろしくお願い致します。




