31 叙勲授与式
叙勲祝賀会は叙勲授与式と夜会で構成されている。
実年齢で未成年の私は、夜会を程々に切り上げて帰ることができるだろう。今日さえ乗り越えれば!
王宮に着いてユリウス様が馬車から降りる。
「レイ」
ユリウス様が手を差し伸べる。
エスコートする姿は貴公子のそれだ。
馬車を降りるこの時から、私の役割は始まっている。私は淑女の仮面を被り直す。
私は軽く微笑んで、ユリウス様の手を取る。
馬車を降り立つと、いつもよりユリウス様と距離が近い。
いつもより高いヒールに私の背筋が伸びる。
私はユリウス様の婚約者の様に……。
隣にいる貴公子と並び立つのだ。
「ユリウス様、参りましょう」
✳︎
「ユリウス・クローディア公爵子息、アレキサンドライト・セレス子爵令嬢、御入場」
名を読み上げられながら会場に入る。
会場が響めき、視線が一気に突き刺さる感覚。
私は今まで、こんなに沢山の人から注目されたことはないだろう。
視線から読み取れるのは驚き、感嘆、羨望、嫉妬。
貴族の視線と対峙するのは、もちろん初めてではない。相手を品定めして、隙を突いて自分の利を取ろうと隙を伺っている様子。
その嫌悪感を身体が覚えている。
正直足が震えるが、幸いドレスに隠れて見えない。大事なのは堂々と振る舞うこと。
イメージするのはシルフィーユ様の立ち姿だ。
臆するな。
貴族社会では隙を見せたら付け込まれるだけなのだから。
「レイ、緊張してる?」
ユリウス様が面白そうに言う。
「してます」
私は精一杯の貴族の笑顔で素直に応える。
顔が引き攣っていないといいけど。
「私に任せて、レイはただ隣に居てくれればいい」
自分のことを『私』と称するユリウス様は、対外モードに入られたようだ。
慣れない場にいる私を、安心させるために声をかけて下さったのだろう。
強烈な視線に晒されているのは自分も同じなのに、こんな時にまで気遣ってもらえるのはとても嬉しかった。
「ユリウス様は『王子様』みたいですね」
私はユリウス様を見上げて言った。
アイスブルーの瞳が優しくこちらを見る。
「貴方が1番綺麗だ、『お姫様』」
✳︎
「ユリウス、やっと到着したか」
「父上、母上、遅くなり申し訳ございません。こちらはアレキサンドライト・セレス子爵令嬢です」
「お目にかかれて光栄です、クローディア公爵閣下、クローディア公爵夫人。セレス子爵家が娘、アレキサンドライトと申します」
初めてお会いするクローディア公爵夫妻。
華やかで大貴族特有のオーラがある。
「セレス子爵令嬢、息子から話は聞いている」
「まぁ、清楚で可愛らしいお嬢さんね。ドレスが良く似合っているわ」
「勿体無いお言葉にございます」
「そろそろ陛下がお見えになる。後程ゆっくり話そう」
「承知致しました。失礼致します」
ユリウス様は父親譲りの髪色と、母親譲りの美形なんだな。
クリスとエリザベス様を見つけて合流する。
エリザベス様は母親譲りの美貌と金髪で、ユリウス様と並ぶとキラキラ感満載だ。
華やかなオーラというか、圧倒的な存在感だ。
それが何故クリスにべったりしているのか、未だにわからない。
もちろんクリスは可愛い弟だが、女の子慣れしているわけではないし。
そんなことを考えていたら国王陛下が御成になった。王家の方々もゆっくり続く。
会場にいた貴族は一斉に礼を取った。
国王陛下の挨拶の後、叙勲授与式に入る。
セレス家は最後に呼ばれて、伯爵位を賜った。
私は家族とともに陛下の前で首を垂れる。
この授与式が終わると、我が家はセレス伯爵家と呼ばれることになる。
お立ち寄り頂きありがとうございます。
1人視点なので情報が偏っております。全体がわかるまでは読み進めて頂けると嬉しいです。
またよろしくお願い致します。




