28 ふたたびの再会
私が丘を下り始めると、後ろに魔法の気配がした。振り返るとそこには銀髪の『氷の公爵様』がいた。
「レイ」
すかさず良く通る低い声で呼びかけられる。
「!」
私は驚いて取り繕うのが遅れた。
もう会うことはないと思っていたから。
「ご、ご機嫌よう、クローディア公爵子息」
礼を取ったが、相手から返事がない。
ちらりと上目遣いで見ると、無表情だが不機嫌そうだ。
「レイ、呼び方は?」
「ご、ご機嫌よう、ユリウス様。
どうしてここに?」
「レイに会いに」
あー、呼び方を訂正してもらうように言わないと!
私があれこれ考えていると、すっと近付かれて手を取られた。
「!」
「領主館に行こう」
「えっ、あのっ⁈」
手を引かれて丘を下る。
なんか前にも似た様なことがあったな。
「ユ、ユリウス様、今日は何用ですか?」
「俺の案、検討してくれた?」
「あ、案⁈あ、家庭教師の!
私も素晴らしい案だと思いますが、クローディア公爵家の家庭教師は難しいと存じます。なので、何処か別で教師の職でも探そうと思います」
私が言い終わると、ユリウス様が足を止めた。
私に向き直って真っ直ぐに目を見る。
アイスブルーの瞳に訝しい色が浮かぶ。
「難しい?なぜ?」
「えぇと、子爵家の自分に公爵家の教師は難しいです」
「伯爵家の教師なら過去に居たから、問題ない」
セレス子爵家から伯爵家に格上げされることを踏まえての提案だったらしい。
この理由では納得を得られないか。
「あと、人から聞いたのですが公爵家の教師は推薦状がないと難しいらしく、私には難しいです」
「推薦状なら俺に当てがあるから、問題ない」
「いいえ。推薦状は私が用意するのが筋ですので、ユリウス様の当てを頼みにするのはいけません」
「なぜ?自立したいのだろう?
利用できるものはするといい」
「まずは自分で努力してから。
ダメなら周りを頼ろうと思いますので」
「……」
ユリウス様は私をじっと見ている。
何か言いたいような雰囲気を感じたが、耐えられず私が先に口を開く。
「ユリウス様、ご心配頂いたのに申し訳ありません。お気持ちだけ頂きます」
「……ふふ、貴方はそう言う人だ」
「……」
氷の公爵様が柔らかく笑った顔を初めて見た。
この人はこんな風に笑うんだな。
「ち、力になって頂き、とても助かりました。このお礼はいずれ….」
「では返礼として希望することがある」
ユリウス様は私の言葉を遮る様に被せて来た。
穏やかに話しているが、有無を言わさぬ雰囲気がある。
さっきの柔らかな顔はどこへいったのだろう?
「ユリウス様の『希望』とは?私に用意できるものでしたら喜んで…」
「王宮で行われる叙勲祝賀会で、貴方をエスコートさせてほしい」
「えっ⁈」
完全に予想外の返礼に、私の淑女の仮面は何処かに行ってしまった。
「セレス家が伯爵家になる勲章授与のパーティーだよ。王家主催だし、レイも出席しなければならないな」
「……」
王都に戻る様に家族から促されていたが、私の支度があるためだったことを察する。
でも祝賀会のエスコートは家族でもいいはずで…。
「ユリウス様のパートナーの方に申し訳ないので、有り難いお話ですが……」
「俺は今までは妹をエスコートしていたのだが、今回はセレス家のクリス君がエスコートしてくれるそうで、俺には同伴者がいない」
「クリスが⁈クローディア公爵令嬢をエスコート⁇」
いきなりの展開で全くついていけない。
私が王都にいる時は接点がなかったはずだが⁇
「最近兄妹で仲良くしてもらっていてね。妹がクリス君にエスコートをお願いしたいと言って聞かない」
「それは…光栄なことです。しかしながら私のエスコートはユリウス様の婚約者に申し訳ないので……」
「俺に婚約者はいない」
「?」
「俺に婚約者がいるって、誰から聞いた?」
「いえ…えぇと、筆頭公爵家で嫡男のユリウス様には婚約者がいると思っていました」
「まぁ、公爵家は早くから婚約者を決める人が多いから」
高位貴族なのにこの歳まで婚約者がいないユリウス様が珍しいですよ。
「これは夜会とかで女性に囲まれて大変なことになりそうだな」と、ユリウス様を少し気の毒に思った。
それならなおさら……。
「ユリウス様、身に余る光栄すぎて私では……」
「レイに用意できるものなら、喜んで俺の『希望』に沿ってくれるのだろう?」
「……はい」
「では祝賀会を楽しみにしている」
氷の公爵様はそれは嬉しそうに微笑んだ。
私は公爵様の魔法にかかってしまったのか、体が凍り付いてしまった。
お立ち寄り頂きありがとうございます。
1人視点なので情報が偏っております。全体がわかるまでは読み進めて頂けると嬉しいです。
またよろしくお願い致します。




