27 次の目的
父に明確な返信をしないまま、数日経過した。
領地での私の仕事は順調だった。
新しい産業として育てていた紡績は軌道に乗り、軽くて丈夫な布地の生産も利益が出ている。
マリアの結婚式の準備も着々と進んでいた。
領内を視察し、領民と交流し、教会に寄ってから眺望の丘に立つ。今日も美しい景色だ。
私は芝の上に座って膝を抱えた。
実の両親が亡くなり独りになった時も、こうやって膝を抱えてたな、と思う。
色々、たくさん、考えて、空っぽの自分を埋めて行った。
目的があると余計なことを考えなくて良かった。
とどのつまり、領地から攫われた子供達を助けたかったのは、全て自分のためなのだ。
実の両親を失い、自分の空虚を埋めるために、目的にしてしまった。
けれど後悔はない。
今は……空っぽではないけれど、しかしながら次の目的を必要としていると感じる。
自分の中に空虚を感じたら、動けなくなってしまうだろう。8年前のあの時のように。
現実的な目的は……自立だろう。
私がセレス家に居座る状況は避けなければならない。未婚の自分が実家に居続けると、兄やクリスの負担になるのは間違いないからだ。
一旦は王都に戻り、時期を見てから自立するために家を出よう。そしてゆくゆくは平民として生活できるように基盤を整える、かな。
「よしっ」
次の目的が定まったので、一息ついて立ち上がる。
こういう風にしか生きられなくても、なんとか生き続けるのだ。
私が命を投げ出さないことが、両親にできる唯一のことだと信じているから。
突然、ドロール男爵家の別荘の屋敷に監禁された時を思い出した。古代魔法の禁術『真実の扉』を使った時のことだ。
「真実を言わなければ扉の外に出られない」というシンプルな魔法だが、真実を言わないままだと精神が自由にならず、場合によっては廃人にしてしまう危険な魔法。
今でも、使ったことは後悔していない。
扉は私に問いかける。
『汝、生きたいのか、死にたいのか』と。
これは8年前のあの時から、私の中にある最大の命題。あの時に抱えてしまった最大の矛盾。
いつでも、どんな場面でも私に問いかけてくる。
私は自分の扉を開け、そしてあの屋敷にいた男達に、魔法をかけた。
『お前の今までした悪事を全て話せ』と。
私は魔法の対価で意識を失ってしまったが、おそらく室内はパニックだっただろう。
悪事をいちいち覚えている悪党なんて、この世にいないのだから。
✳︎
丘の上から見下ろすと、キラキラと輝くものがあった。日の光を反射した水面、草木、建物の屋根。
綺麗だと思うが、これもまた見せられた一面に過ぎない。
物事は多面的で、人は光のあたる場所に目がゆきがちだ。それはまるで宝石のよう。光の当たった部分の輝きに目が囚われてしまう。
人間もそうだ。様々な感情と矛盾を内包しながら、表に出るものに目がいってしまう。
笑顔で友愛を説きながら、自分の利を優先し、笑いながら他人を虐げて如何とも思わない人もいる。
私もそうなのだ。
私にとってあの男達もまた同等。
彼等がどうなろうとも、真実が明らかになれば良かった。
一方で真心で接し、他人を真に想い、身を賭して守ろうとする人もいる。
私にとって家族や家人、領民がそうだ。
彼等は私を想ってくれている。
だから私も彼等を大切にしている。その中に自身が含まれなくとも。
お立ち寄り頂きありがとうございます。
1人視点なので情報が偏っております。全体がわかるまでは読み進めて頂けると嬉しいです。
またよろしくお願い致します。




