表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/68

19 婚約破棄から11日目 顛末

私は小高い丘から暮れ行く街並みを見ていた。この場所に立つと領地が一望できる。

幼い頃両親に連れて来てもらった思い出の場所だ。


街も畑もオレンジ色に輝き、空は橙と紺のグラデーションが出来つつある。

そろそろ夕刻、帰らないと使用人等が心配するだろう。


✳︎


婚約破棄から9日目、私アレキサンドライト・セレスは予定通り領地に向けて王都を発った。

ドロール男爵家の手の者によって誘拐された私は、監禁された屋敷で意識がないところを兄に助け出された。


誘拐された被害者の上、監禁中のことを何も覚えていない私は捜査の役に立たない。私に外傷がなく、また私自身が帰宅を希望したため、早々に解放された。


そして傷心を癒すため、王都を離れたのである。


王都ではブロウ伯爵家とドロール男爵家の騒動で持ちきりらしい。盗品の売買、詐欺、盗難、誘拐、監禁、人身売買、さらには8年前の領主殺人容疑も出てきて大変だ。


これならセレス家の婚約破棄の話題なんて吹き飛ぶだろう。


他に関係した家がないか、捜索はまだ続いているそうで、騎士団にいる兄も忙殺されていると思う。

一連の事件により王宮における貴族の勢力関係に影響があるかもしれないが、私には預かり知らないことなので考えるのは止める。


私が領地入りする前後で、盗賊らしき集団がセレス領に侵入したとの報告があった。

警護に当たっているジーク隊が一人残らず捕えて、幸い怪我人もいなかった。


領地の家令から父へ連絡させ、賊は王家に引渡済である。

ドロール男爵家の件に絡む証拠として、兄が適切に処理してくれるだろう。



婚約破棄11日目、父から手紙が届いた。

ブロウ伯爵家とドロール男爵家は事実上のお取り潰しになることが決まったそうだ。


事件に直接関与してないトロイ・ブロウは親戚筋に預けられ、アメリア・ドロールは姉の嫁ぎ先に身を寄せることとなる。


私は学園で見た2人の姿を思い出す。

お互いに愛を説き、共に在ることを誓った2人なら、真実の愛の力でこの状況を乗り越えられると信じたい。


彼らの処遇の一端は私にある。

トロイ様もアメリア様も、今までとは違う環境に置かれて辛い思いをするだろう。

だからこそ相思相愛となった2人に賭けたのだ。


トロイ様は「真実の愛」を知ったと言っていたな。

私自身は、彼らの言う「愛」というものがよく分からない。


愛情ならわかるつもりだ。

両親と過ごした数年間に感じていた気持ちを思い出す。彼らが遺した言葉に、私への深い愛情を感じる。


今の家族や家人、領民に向けるものは、両親に向けるものとは少し違うけれど、それでも私にとっては愛情の類なのだと思う。


けれどトロイ様とアメリア様の言う「愛」は愛情ではあるけれど、似て非なるもののように思える。

家族ではなく、友人だけど友人とは違う相手に、まさに「特別な感情」を向けている様子だった。


私の中では友人や知人、孤児院の子供達も等しく同様だ。婚約破棄された今でも、トロイ様やアメリア様は自分にとっては他の友人達と変わらない位置付け。


強いて同等ではないのがシルフィーユ様だが、尊敬に近く、恋愛の類いの気持ちではないと思われる。


私は誰かを側に置かないから「特別な感情」や、彼らの言う「愛」がわからないのかもしれない。


そんな私には「真実の愛」も全くわからないけれど、あのトロイ様を動かしたくらいなのだ。

きっと全てを覆すくらい、素晴らしいものなんだろうと思う。


✳︎


父からの手紙によると「この度セレス子爵家が王家から受章を授かることになった」とも書いてあった。受章とは叙勲を受けること。詳細はなかったが、今回の兄の活躍によるものなのだろう。


兄の功績が認められたのなら嬉しいことだ。

欲のない両親にとっても、家門を担うために良かったと思う。

そして、いずれ家を継ぐ弟クリスのためになる。


領地の一件についてはジーク隊にも褒章が授与されるらしく、ジーク隊長は珍しく照れていた。


身分に関わらず実力のある者が正当に評価されることは、私には嬉しい。

この貴族社会ではまだまだ難しいけれど、いつかは当たり前の世の中になってほしいと思う。


他にも私宛に様々な手紙が届いているが、家族以外のものは今は読まない。

差出人が知人の場合は「今は心身共に休養が必要なため、落ち着いたら連絡します」と一律で返信している。


周囲に心配をかけて申し訳ないが、屋敷に籠って仕事や読書をして、私は静かに時が経つのを待つ。


✳︎


なんだか色々思い出して、随分と時間が経ってしまったようだ。そろそろ帰路につかないと日が暮れてしまう。


私が屋敷に帰るために腰を上げたところ、誰かがこちらの方へ丘を登ってきていた。


若い男性の様だ。

顔を合わせるつもりはないので、私はその人が来る方向とは反対側から丘を下りようとした。


「セレス子爵令嬢」


急に呼ばれて身体が止まる。

油断していた。

予想していない事態だった。

お立ち寄り頂きありがとうございます。

1人視点なので情報が偏っております。全体がわかるまでは読み進めて頂けると嬉しいです。

またよろしくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ