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15 違和感(ユリウス視点)

︎「ブロウ伯爵、盗品の売買及び詐欺罪の容疑で拘束します」


王都にあるブロウ伯爵邸に一斉捜査が入り、ブロウ伯爵及びその家族の身柄は押さえられた。

 

伯爵夫妻は宝飾品、特に宝石に目がなく、盗品と知っていてもこれを売買していた。

また宝石を偽物にすり替えた上、本物と偽り売りつけており、詐欺罪の容疑がかかっている。


最初は容疑を否認していた伯爵だが、地下室から盗品の宝飾品とその贋作が大量に見つかり、呆気なく陥落した。


地下室は隠されていたが、俺の魔術でその所在はわかっていた。そこで地下を捜索すると奥には贋作を製作する工房があり、その職人達が監禁された状態で見つかったのだ。

これで言い逃れはできないだろう。


俺ユリウス・クローディアは、今は魔術師としてブロウ家の捜査に同行している。


書斎から盗品や贋作品の売買契約書、ドロール男爵家との関係書類も見つかり、証拠も全て押さえた。

これでブロウ伯爵家とドロール男爵家は言い逃れできない。


王太子殿下の命令はつつがなく遂行され、一安心だ。


捕らえたブロウ伯爵子息は呆然としていた。

突然の拘束と両親の不正行為に理解が追いつかない様だ。俺が現場にいても、まるで気付かなかった。



「王太子殿下の名において、この屋敷は王家の管轄下に置かれます。使用人も含めて全ての者は、屋敷の外に出る事を禁じます。王宮騎士団の指示に従って下さい」


伯爵家ぐるみの不正容疑ゆえ、もちろん使用人も拘束される。家令をはじめ、関わっていた者も多くいるはずだ。


集められた使用人達は皆一様に不安な顔をしている。

無理もない。主人の容疑が次々に明らかになり、この先自分達はどうなるのか不安なのだろう。


伯爵家の不正と関わりのない下働きの者については、いずれ解雇される。

主家の都合で解雇される場合、通常なら次の職を斡旋してもらえるが、今回は上役の家令にも容疑がかかっているので、世話を望めずそのまま放逐されるかもしれない。

住み込みで働いている者達にとっては、明日路頭に迷うかもしれないのだ。


俺としてもなんとかしたいところだが、この捜査は王太子殿下の権限でなされているので口出しはできない。



別動隊からも完了報告があがる。

その中に「アレキサンドライト・セレス子爵令嬢の身柄を発見した」という報告もあった。

オリバー上級騎士が保護したそうで一安心だ。


それにしても……アレキサンドライト・セレス子爵令嬢の身には立て続けに色々なことが起きているな、と思う。


突然婚約破棄され、しかも元婚約者に待ち伏せされ、さらに誘拐されて監禁まで……。

普通の令嬢が、たかだか数日間にこれ程の事件に巻き込まれるなんて、正直気の毒だと思う。


俺は数日前に見たセレス嬢の横顔を思い出す。


あの時はブロウ伯爵子息と対峙した後に、馬車で彼女を送っている最中だった。


いきなり待ち伏せされて動揺しただろうが、彼女は平静を装っていた。

ブロウ伯爵子息と対峙しているときも、自分1人だけで心細いだろうに、堂々としていたな。


「貴族たる者、安易に取り乱したりしない」というが、言うが易し行うが難し。

自分の身に危険が迫った時も、平常通り振る舞えるなんて相当なものだ。


しかも、ブロウ伯爵子息がセレス嬢に近付いても、彼女に全く焦りが見えなかった。

淑女教育のおかげで、感情を表に出さないだけだろうか?


俺が介入しなければ、彼女はどうしただろうか?



そもそも今回の捜査のきっかけは、セレス子爵家絡みだったな。

確か「この屋敷にセレス領出身の子供がいるかもしれない」という情報が元で事件が発覚したような……。


なんだか少し違和感を感じる。


そもそも、この捜査とセレス子爵令嬢の婚約解消は全く別のことだ。直接の関連はないはず。

たまたまタイミングが合っただけか?

だから彼女はタイミング悪く巻き込まれた?




俺は使用人が拘束されている部屋に行ってみることにした。


歩きながら、過去の記憶を検索する。


オリバー上級騎士の妹が見かけたという、

ブロウ家の住み込みの小間使い、

セレス領の行方不明者ならば今年で15歳になっているはず。


当時セレス領で行方不明になった子供について、きちんとした捜査はなされなかった。

いや、出来なかったという方が正しい。


領主の自治権により、領地内で起こったことは領主の裁量によって処理される。

しかしセレス領内で領主夫妻が亡くなったため、指示できる者が不在となり初動が遅れたのだ。


残された幼い一人娘が采配を振るえるわけはなく、また領内も非常に混乱した。

結果として事件の捜査は時間が経ってから始められ、行方がわからない子供の捜査はさらに後になった。

事件の捜査は時間が経つ程に難しくなり、結局きちんとした捜査は出来なかったというわけだ。


セレス領と我がクローディア領は隣同士なので、両親も亡くなったセレス夫妻と面識があった。

混乱するセレス領を見兼ねて、父上はセレス家に手を差し伸べたかったようだが、当時の宰相に「他家への介入になる」として止められたという。


残された幼い一人娘がアレキサンドライト・セレスなのか、と俺は今更ながらに思い至る。


そして行方不明になった子供達のうち、1番年上の、名前は……


「君がマリア?

8年前にセレス領から行方不明になった子?」


俺が話しかけた少女は激しく動揺した。

隣にいる青年の腕を掴んで、静かに身を震わせている。

怖がらせたか、警戒されているか、或いは両方か?


俺はあまり表情を変えないらしいので、せめて対外的な一人称を『私』とすることで雰囲気を和らげる。

さらになるべく優しい声音を出し︎て話しかけた。


「怖がらせてすまない。私はユリウス・クローディア。アレキサンドライト・セレス嬢の知り合いだ」


アレキサンドライト・セレスの名前を聞いた途端、少女の震えがぴたりと止まる。


「マリア、良かったら、君の身に起きたことを話してくれるかい?」

お立ち寄り頂きありがとうございます。

1人視点なので情報が偏っております。全体がわかるまでは読み進めて頂けると嬉しいです。

またよろしくお願い致します。

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