13 婚約破棄から7日目 誘拐
気が付いたら、薄暗い部屋の中だった。
明かりがなく、だだっ広い。
埃っぽい部屋の床に私アレキサンドライト・セレスは転がっていた。
手足が何かで拘束されている。
周りを見渡すと誰も居なかった。
窓から見えるのは夕日だろうか?
別の窓の外には木が茂っている。
ここは今は使われていない屋敷のようだ。
私は記憶を辿る。
退学手続きを終えて、学園を後にしたことは覚えている。急に鼻と口を布で押さえてられて、薬みたいな匂いがして……記憶が途切れている。
状況からして、私は誰かに攫われた様だ。
窓から見える夕日……仮に今は夕方だとして、3時間くらい気を失っていただろうか?
3時間あれば、馬車で移動できるのは王都の端くらいまで。まぁ特殊な術を使わない限りは。
あと窓から見える木の葉っぱに特徴を見つける。
確かクリスの植物図鑑に写真があった……限られた地域に生息する木だ。
確か王都郊外の東のエリアだったな。
ならば此処は王都の東の端、貴族の別荘が点在する郊外のエリアか。
部屋の中を見渡す。
広さがあり、物がない部屋だと思ったが、隅にごちゃごちゃと物が退けてあるだけだった。
目を凝らして見ると壊れたアンティーク家具がある。意匠に見た事のある家紋があしらわれていた。
あれは……ドロール男爵家の紋か。
そうなると、ここはドロール男爵家の使われていない別荘の可能性が高い。
ドロール男爵家の別荘は、今は領地にあるだけのはず。ここが王都なら、この屋敷は意図的に隠された別荘ということになる。
もし私がずっと探していたところだとしたら……。
自分の体を見ると学園の制服のままで、手足はロープで縛られている。
縄は外せないが指は動かせる。
あと口も動かせる。
良かった。私は運が良い。
さて、どうしようか?
私は意外に落ち着いているようだ。
自分でも驚くけれど、頭もクリアだ。
実はこういうことは初めてではない。
こんなに早く機会が巡って来るとは思わなかった。
ここは私が探していた場所らしい。
ずっと、ずっと、この状況を待っていたのだから。
幸いこの部屋には誰もいない。
私は口元が綻んだ。仕掛けるなら今だ。
私は指先を動かし、小さな魔法陣を空に描く。
小さな声で呪文の詠唱。対価は私。
部屋全体に魔法陣が広がり、青白い光に包まれる。その後光が収束し、扉に紋章が浮かび上がった。
『汝、生きたいのか、それとも死にたいのか』
扉が私に問いかける。
「私は生きたい。目的を果たすために」
私ははっきりとした声で、扉に言い放つ。
魔法陣は完成している。
術は成功したようだ。
突然ドタドタと足音が近付いてくる。
足音からして大人の男性、それも多数いる。ガチャガチャと…武器を携帯する音もする。
発光に気付かれたためか、私をここに連れて来た関係者が様子を見に来るのだろう。
私は入って来る輩を直に見たかったが、身体が重くなり、急速に意識が薄れていった。
術の対価が支払われるのだ。
ほどなく、勢いよく部屋の扉が開け放された。
お立ち寄り頂きありがとうございます。
1人視点なので情報が偏っております。全体がわかるまでは読み進めて頂けると嬉しいです。
またよろしくお願い致します。