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さん

「やっと終わった……。」

 文化祭実行委員会の会議がようやく終わり、固まっていた体を伸ばす。

「康太が遅刻してこなかったらもっと早く終わってただろうけどね。」

 会議中に隣の席に座っていた花恋から、冗談交じりに小言を言われる。

「はいはい、俺が悪かったです。次は気をつけマース。」

  花恋が呆れた様子で溜息をつく。

 「それ絶対また遅刻するやつでしょ。ていうか、そもそもなんで遅刻してきたの?」

 僕は遅刻の原因を思い出し、つい苦虫を噛み潰したような顔になりながら肘をつく。

「遅刻しそうで急いでたら、進路指導の藤原に捕まったんだよ。あいつ、ちゃんと勉強すればもっといい大学を狙えるだの、怠惰で適当に大学を決めると後悔するだの、グチグチ言ってきやがったんだよな。」

 思い出して、また腹が立ってきた。なんでわざわざ僕にだけそんなに言ってくるのか分からないし。

 「あいつの説教が長いせいで遅刻して、遅刻したせいでまたこうやって花恋にも怒られて、今日は散々だよ。」

「私別に怒ってないよ、ちゃんとした理由があるんだから、遅刻のことは気にすることないと思うけどな。」

「流石優等生様。判決が公明正大で助かります。」

 ふざけて深々とお辞儀まですると、下げた頭を軽く叩かれる。

「私が優等生って言われるの嫌いなこと、知ってるよね?それに、遅刻は許すけどちゃんと受験勉強してないのはおばさんに報告するよ?」

「うげぇ……。」

 叩かれたところをわざとらしく撫でながら、ゆっくりと頭をあげる。

「いい加減、ちゃんと勉強始めないと自転車勝手に売られそうで怖いんだよな。」

「珍しいね、康太がまともな判断してるの。」

「うるせーよ、俺でも大事なものの為に頑張るくらいするわ。」

 花恋は心底驚いた顔をしていたが、すぐに嬉しそうな表情に変わる。

「てことは、夏休みは図書館通い一緒にしてくれるって事?」

「なんでお前俺を虐める時そんなに楽しそうなんだよ……。まあ、実際ひとりじゃ大して受験勉強も進まなさそうだし、良かったら夏休みの間だけでも教えて欲しいとは思ってるよ。」

「別に、いじめたい訳じゃないよ。ただ、康太が真面目に変わろうとしてて嬉しいだけ。……夏休みだけと言わず、受験まで勉強見てあげてもいいよ?」

 花恋の言葉に、お前は母親かよと心の中で呟く。

「そうしてくれると有難いけど、志望校決まらないからなかなかモチベーションがなぁ……。」

「何かやりたい事とか、将来つきたい職業とか無いの?」

「うーん。趣味の時間がちゃんと取れるならなんでもいいから志望校まじで絞れない。」

「そっか……。ていうか、そもそも去年オープンキャンバス行ったはずでしょ?それはどこ行ったの?」

「なんか適当に家から近いとこ。」

僕の返答を聞いて、花恋が顔をしかめる。

「そんなだから決まらないんだよ。一回ちゃんと調べてみなよ。私も手伝うから。」

「やっぱりそうだよなぁ。大学とか、駅伝で名前聞くところと帝大くらいしか知らないし。俺も今から帝大目指そっかなぁ。」

「康太じゃ絶対無理。何年浪人するか分からないよ。」

 僕の適当な発言に、花恋が即答する。

「ですよねー。知ってました。やっぱりちゃんと大学調べるか。……めんどくせー。悩み事ばっかり増えやがる。」

 最近愚痴ばかり吐いている自分に気づき、少しへこむ。

「康太にそんなに悩み事なんてあるの?いっつもお気楽そうな顔してるのに。」

「そこまで言わなくてもいいだろ。俺だって悩み事の一つや二つありますぅ。」

「そうなんだ。例えば何に悩んでるの?今なら相談乗ってあげるけど?」

 適当な僕の発言に、花恋が食いつく。

「あー……。まあ、花恋ならいっか。今から話すこと、一応オフレコで頼む。」

「なになに?康太にそんな大きそうな悩みなんてあるの?」

「……花恋のクラスの鳥羽さんって分かる?」

「まほちゃんでしょ?そりゃ分かるよ、同じクラスなんだから。ちょっと不思議系っぽい子でしょ?」

 それがどうしたと言った顔で、花恋が聞き返してくる。

「そうそうその子。その鳥羽さんに先週告白されてさあ……。全然話したことないはずだし、接点も無かったはずなんだよなぁ。」

 「……えっ?康太が、告白されたの?」

 花恋が、理解できないと言った様子で言葉を返す。

「そうだよな、訳わかんないよな。俺も何がなんだかって感じなんだよ。」

「……どうするの?断るつもり?それとも、やっぱり付き合うの?」

「うーん、どうするかなぁ……。」

 腕を組み、天井を見上げる。

「……俺さ、好きな人いたんだけど、そっちは叶わぬ恋なんだよね。」

 驚きから落ち着きつつあった花恋の顔が、再び驚愕に染まる。

「ほ、ほんとに?……誰なの?」

 心底驚いているのか、花恋は少し震えた声で尋ねてくる。

「まぁ、秘密かな。お前に言うの気まずいし。」

「気まずいって……どうして?教えてくれてもいいじゃん。」

「最近好きな人がいるらしいって聞いて、諦めたばっかりなんだから傷を抉るのやめてくれよ。まだ傷心中なんだから。」

 僕は、少し眉をひそめながら花恋に文句を言う。

「……ごめん。じゃあ、鳥羽さんの告白は断るんだ。」

 花恋はどこか不安げな、それでいて少し安心しているような顔で、呟く。そんな花恋の言葉に、今度は僕が顔を歪めた。

「いやー、悩んでるんだよね。叶わぬ恋なのはわかってても、当たって砕けろ的な精神は大事だと思うし。かと言って、鳥羽さんのこと保留にしたまま、特攻するのも違うしでどうしたもんかなって感じなのよ。」

「そ、そうなんだ……。」

 花恋の言葉を聞き流しながら、考える。

「……それにさ、今度の花火一緒に行かないかって誘われてもいるんだよね。マジでどうしようかなぁ。」

「え?鳥羽さんにって事……?」

「そうそう。いい加減、返事しないとなぁ。ずっと待たせるのも悪いしさ。花火大会も近づいてきてるし。……でも本当にどうしよっかなぁ。」

 腕を組み、天井を見上げながらため息をつく。実際、自分の中ではもう結論は出ていた。傷心中だからといって、誰彼構わず付き合うつもりは無いし、今、好きでも嫌いでもない相手と付き合うなんて失礼な事をしたいとは到底思えない。けれども、相手を傷付けるとわかっていて相手を振るのも、僕には躊躇われた。

「……まあ、こっちの悩みは自分でどうにかケリをつけるよ。その代わり、花恋には受験勉強の方マジで頼む。母さんには心配かけたくないしさ。」

「う、うん。できるだけ手伝うよ。……ちゃんと毎日図書館には来てね。」

「さすがに、毎日行くよ。……悪い、ちゃんと何かでお礼する。じゃ、また明日。」

「……また明日。」

 絞り出すようにそう言った花恋の顔は、何処か苦しそうだった。

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